そして始まるカーレース
(話が急すぎる……ボクとしても母さんに聞きたいことがあったのに)
クリスはレーシングスーツにそでを通し、ひとり呟く。
(魔法は誰もが持っているふしぎな力とか、最初の魔法使いは魔女だけだったとか)
検査の後に受けた説明をより詳しく知りたくてクリスは母の帰りを待っていた。
(それがいきなりチーム解散とか言われたら聞くタイミング逃しちゃったよ……)
レースが終わってから聞こうと、クリスは顔を上げ更衣室を出る。
「Oh!馬子にも衣裳ってやつですネ!BOY!」
グッと言い返そうとした言葉をクリスは飲み込む。
(大事なのはチームワーク!ここでひと悶着してギスギスしたらレースに響く!)
何度か深呼吸して、クリスは気持ちと呼吸を整える。
「よろしくお願いしますね。ボブさん」
「ボブ兄とよんでくだサーイBOY」
緊張をほぐすつもりなのだろうか、ボブは軽口をたたく。
反論しようと思ったところに、花の香りがクリスの鼻をくすぐる。
「これって母さんの魔法?」
「イエース。油の匂いを花の香りに変える魔法デース」
香りでリラックスできたのか落ち着いた様子でクリスはボブに質問する。
「そういえばボブ兄、魔法のレースって普通のレースとどう違うの?」
「だいたいは一緒デース。ゴールにたどり着いた順位をポイント化しマース」
そのポイントの総合で順位が決まるとボブは話す。
「ボクが知りたいのは魔法のレースと一般のレースはどう違うかってこと――」
「習うより慣れろデース」
「ちょ!それ違う!最低限は教えておくのが今の主流!」
「そうなのデース?」
「そうなのデス!事故が起きてからじゃ遅いの!」
クリスがボブに説明していると姉が車の下から姿を見せ、二人を見てほほ笑む。
「レース始まってすぐ最下位ってどういうこと!?」
「HAHAHA!いつものことデース」
「いくらなんでも離されでしょ?いったいどうやって――」
好奇心がうずいたのか自分を落ち着かせたいのかクリスは早口で話す。
「これが魔法デース」
ボブはギアを変えながらクリスに飄々と答える。