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最高のロマンチックでした。


◆◆◆◆◆◆


 篤史がボタンを押して間もなく、地球に衝突寸前だった彗星が直角に曲がって飛んでいった。篤史は人柱として人類を救ったのだ。

 じっと空を見上げていた小鳥だが、ふいに耳奥の通信機をオンにする。


「彗星軌道変化確認。――――任務完了」


 小鳥は淡々と呟いた。

 疲労を解すように眼鏡を外し、三つ編みをするりと解く。髪がさらりと夜風に靡いた。

 そんな小鳥の元へ藤堂が歩いてくる。

 気付いた小鳥は起立して一礼した。


「吉田篤史、十六歳。本人も納得して人柱になり、彗星衝突回避を成功させた模様です」


 報告に藤堂は満足そうにうんうん頷く。


「うん、お疲れさま。その『本人も納得』ってとこが大切だからね。基本的人権は絶対遵守だから。それにしても、今回の人柱は他校の地味目な美少女と運命の出会いルートだったか。他のルートも楽しんでほしかったけど、彼は恋愛漫画が好きだったっけ」

「はい。観察部の調査報告書によればロマンチストで正義感が強い性格ですが、自意識過剰で承認要求が強い一面もあります。承認要求が満たされると周囲に哀れみと慈しみを覚える傾向にあり。しかしそれは選民意識を前提にした哀れみ、とのことですから」

「フフフッ。上から目線、結構結構。生き残った人類は彼に感謝しなければいけない」


 内閣人柱観察保護局では人柱の性格、傾向、好き嫌い、人間関係、その他詳細に人柱観察報告書が作成される。篤史本人よりも吉田篤史のことを知っていた。そう、なにをすれば幸福を感じ、どうすれば本人が納得して人柱になるかも。

 ふと別の局員が藤堂に報告する。


「本日、群馬県で人柱が誕生しました。現在、局員が保護者に接触しています」

「分かった、僕も行くよ。ご挨拶しないと」


 藤堂は笑顔で言うと空を見上げた。

 空はすっかり暗くなっている。そこには地球から遠ざかっていく彗星が見えていた。

 十六年後も同じ景色を見るだろう。


◆◆◆◆◆◆





終わり




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