8話 お風呂
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ひとしきり泣き終えた後。
「コトネ、その……ありがとう。恥ずかしい姿を見せてしまいましたわ……」
「そ、そんな事ないよ!とっても綺麗な、涙だったよ……?」
「ち、ちょっと!追い討ちをかけないでくださる!?」
「ふふふ」
私の顔は、目元も含めて真っ赤になっている事だろう。コトネの顔が真っ直ぐ見れない……!
「も、もう……!でも、ちょっとスッキリしましたわ。本当に、ありがとう」
「うん、良かった。私も、ミアの色んな気持ちが聞けて、う、嬉しかったよ」
……今まで私に姉妹がいた事はないが、もしお姉様がいたらこんな感じだったのかな、と思った。やはりコトネも、長年チヒロの姉をやっている経験があるのだろう。その、頭を撫でられるのが、意外と気持ちよかった。また、機会があれば撫でてもらいたいーー
って、違う違う。
せっかくここまで、見ず知らずの私に優しくしてくれているのだ。早くこの世界に慣れて、二人に恩返しがしたい……!
「そ、その、コトネ。私も泣いてしまったし……疲れたけど、洗浄魔法だけじゃあまりよくないから」
「うん」
「この世界の、お風呂の入り方、教えてくださる?チヒロが上がったら」
一人でできる事は、早く一人でできるようにならないと……!そう思い、私はコトネにお願いした。
「も、もちろん。ちなみに、チヒロなら、ミアが泣いている間にとっくに出てきてたよ」
「え゛っ」
「驚いていたけど、空気を読んで先に自分の部屋に戻ったみたい。ふふっ……今日は、みんな沢山泣いたね」
「明日絶対からかわれますわ……私も人の事は言えないですわね……」
自分が思っていたよりも、長い時間泣いていたようだ。私もちゃんと人の子なんだなあ、と少し感情を取り戻した気分だった。
その後、コトネにお風呂の入り方を教わる為に浴槽へと向かった。
そして、浴槽についたコトネは、おもむろに服を脱ぎ始めた。あっという間に下着姿になりーー
「ってちょっと!?コ、コトネ!?どうして服を!?」
「え?だって、お風呂の事、教えようと……」
「いやいやいや!!裸じゃないとできませんの!?」
コトネは一瞬考える素振りをした後、みるみる顔が青くなっていった。
「......あ、あ、あぁあ......!!ごめんなさい!!私、また早とちりを……!!」
「わざとやってる訳じゃなくて安心しましたわ……」
後で聞いた話によると、この時のコトネは完全にお姉ちゃんモードのスイッチが入っていたらしい。でも流石に、まだ出会って一日しか経っていない人と一緒にお風呂はハードルが高いだろう。その後、きちんと教えてもらった私は、この世界で初の入浴を果たすのであった。
……何がとは言わないけれど、コトネ。結構大きいのね。
ちなみにお風呂のシステムに関しては、意外とすぐに覚えられた。前の世界では、水の魔石と火の魔石を組み合わせてお湯を生み出していた。それが科学に置き換わったようなものだった。この世界ではボタン一つで温度など、様々な設定を変えられるので、とても面白そうだと思った。
(何だか、久しぶりに一人の時間を味わっているような気がしますわ)
私はお風呂が好きだった。誰にも邪魔をされず、考え事ができる場所だからだ。
(気持ちいいですわ〜。コトネが言ってた温泉にも、いつか行ってみたいですわね)
曰く、日本人はお風呂が大好きらしく、各地に天然温泉がたくさん存在するらしい。なんでも、入るとお肌がスベスベになるとかならないとか……もし私がお金を稼げるようになったら、お礼に二人をそういう所に連れて行ってあげたいところだ。
それはともかく……!
(こ、これがシャンプーとリンス……!)
この世界では、髪の毛を洗う為だけの石鹸というか、泡?が存在しており、私も使用してみたところ、髪の質がとても良くなった気がした。とても良い香りがするし、元の世界でこれを広めたらとんでもなく売れるんだろうなあ、と思った。
そんなこんなで、いちいち感動していたら長風呂になってしまった。
「あ!ミア。き、気持ちよかった?」
「ええ。おかげでつい長くなってしまいましたわ。コトネはまだ入っていないのに、ごめんなさい。でも、この国は美容にも手を抜いていないのね……」
そう言って私は、自分の髪を触った。とてもサラサラで満足だ。
「ふつくしい……」
コトネが、顔を赤くしてボソッと呟いた。
「何か言いまして?」
「い、いや、何も……じゃあ、私も入ってくるよ。先に寝てていいからね。お休み」
「分かりましたわ。お休みなさい」
お風呂で体もポカポカだし、泣いたからか、心も清々しい気分だった。今日はもう寝て、明日に備えよう。
その日の夜、私は久しぶりに悪夢を見なかった。
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