3話 目覚めと出会い
勢い余ってもう一話投稿してしまいました。
夢を見ていた。
楽しかった頃の夢だ。お母様と二人でピクニックに行き、美味しいご飯を食べている。あの頃は私も小さかったから、細かい事までは覚えていないけど。
ーーずっとこの時間が続けばいいのに、と思ったことは鮮明に覚えている。
もっと一緒にいたい。だけど急に、夢の中でもお母様はその姿を消してしまう。
ねえ、どうしていなくなってしまったの……?
「お、母……さ……ま……」
私は目を覚ました。また、あのクソみたいな現実に戻らなければいけないのか、と思っていたのだがーー
辺りを見渡す。
なんだ、ここは?知らない場所で、見た事のないものばっかりだ。
「ハ、ハロー?」
「いや『お母さま』ってめちゃ日本語だったじゃん」
「!!」
私は驚いて目を見開いた。少し正気を取り戻し、二人の存在に気付いたのだ。
「だ、誰ですの!?」
家の使用人にも見覚えは無いし、変な服を着ている。というか、私は自室のベットで寝ていた筈なのだが。
「あ、ご、ごめんなさい!驚かせてしまって……えっと、あの、その……」
「お姉!こんな時にコミュ障発動しないでよ」
「うぅ…..」
こみゅしょう?
「あ、あなたが倒れていたから、私が家に連れて来ちゃったんです」
「お姉が言うには、何も無いところから現れたらしいですよ〜!知らないけど」
この二人はどうやら姉妹らしい。私を助けてくれたようだ。それにしても、何も無いところから現れた、と言う事は誰かに寝込みを襲われたか?転移魔法の類だろうか?ともかくーー
「あなた達の家?」
「あ、ハイ……」
意味不明だ。見た事の無いモノが多すぎる。なんだ?あの天井に付いている円盤状の光は。光魔法だろうか?そして、大きい黒い箱?壁?のような物体が不気味に佇んでいる。
落ち着いてきたと思ったのに、また頭がクラクラしてきた。これは、もしかしたら敵の罠かもしれない。油断は禁物だ。
「あ、あなた達、私の事はご存じかしら?」
「え!?いや、その……」
「失礼だったら申し訳ないんですけど、知らないです」
「そ、そう……」
背の小さい妹っぽい方がキッパリとそう言った。私の顔を知らないという事は、この二人は平民なのだろうか?とにかく、自分で言うのはなんだが私は国では有名人だったので、自己紹介をする事にした。
「コホン。助けていただき感謝いたしますわ。私はサングリア国、レイン公爵閣下の娘、アミーリア・レインと申しますわ」
一応国名も名乗っておいた。二人の反応はというと……?
ポカンと口を開けていた。
まあ、そうだろう。貴族は貴族でも公爵令嬢ときたら誰でも驚くはずだ。普段は顔も見れない存在なのだ。
「こ、公爵ぅ!?へぇ〜……」
「なんかすごそう」
「何ですの!?その反応は!?」
つい素でツッコんでしまった。普通の平民だったら恐れ多くてひれ伏しているところだろう。
二人はヒソヒソと話し合い始めた。
「ね、ねぇ、千尋。サングリアなんて国、知ってる?」
「ネットで調べてみたけど、スペインとかのカクテルしか出て来なかったよ」
「そ、そういえば公爵って、王家に連なる貴族とかそういう一族だよね?」
「え!そうなの?貴族?めちゃ偉いじゃん。でもただのロールプレイだったらどうする?ボク、リアルでお嬢様言葉の人初めて見た」
「全部聞こえてますわよ!!」
「「うわぁ、ごめんなさい!」」
私を知らない、というか貴族すら知らないのか!?
「ち、ちなみに、ここは何という国ですの?」
「え?日本ですけど……」
ニホン?
私は今まで、しっかりとした教育を受けてきたつもりだ。世界の地図だって頭に入っている。でも、ニホンという国は聞いた事も無かった。
「アミーリアさん。ちなみに、日本では貴族制度なんてとっくの昔に廃れたし、外国でも貴族で権力を持ってる人なんてほとんど居ないらしいよ。公爵をネットで調べたら出てきた」
二人は真剣な顔をして教えてくれた。いや、ねっと?って何?
「……って、貴族が存在しないですって……!?」
「ま、まあ少なくとも日本にはいないのかな……?」
あり得ない。ほぼ全ての国で貴族は政治の中核を担っていたはずだ。という事はやはりーー
「私、別の世界に来てしまったの……?」
それしか考えられない。意味不明な道具?の数々にも説明は付く。一体何が起こったというのだろうか。
「ホンモノの、異世界人……!小説のお話じゃだけじゃなかったんだ……!」
「お姉?」
姉の方が、目を輝かせて興奮気味に呟いた。そして考え込む私を見て、話しかけてきた。
「あっ、そ、そういえば、私たち自己紹介してなかった、ですよね?私は、佐藤琴音っていいます」
「ボクは佐藤千尋です!」
変わった名前だ。そういえば極東の国にこのような名前の者たちが居た気がする。恐らく「サトウ」が家名で、その後が名前だろう。
気になる事は多いが、取り敢えず目の前の二人に対応しよう。
「コトネとチヒロね。分かったわ。改めまして、助けてくれてありがとう。そんなに畏まらなくたって大丈夫よ。見たところ、同じくらいの歳でしょ?貴族制度が無いのなら尚更ですわ」
「え!?いいの?分かった!」
「ち、ちょっと千尋……」
「いいのよ」
恐らくだが、この二人に敵意は無いようだ。そんな人間と話すのが久しぶりすぎて、少し不思議な気持ちになる。
「アミーリアさん、な、なんだか、嬉しそう……?」
「え?」
別の世界に来てしまった、という確信を持ってから私は密かに思っていた。もうあんな、地獄のような環境で過ごさなくても良いのか、と安心してしまっていたのだ。まだこの世界がどういった場所なのか不明だし、いつ戻されるかも分からない。だけど、どうやら私の心はそれほどまでに追い詰められていたらしい。
「そう、ですわね。まあ、なんでもありませんわ」
「そ、そっか……」
「ねえ!アミーリアさん!」
チヒロが、元気よく訪ねてきた。
「なんですの?」
「アミーリアさんって、異世界人?なんでしょ?何で日本語話せるの?」
「ニホン語?」
そういえば、私が話しているこの言語は何だ?
「あ、あれ?サングリア語を話しているつもりでしたのに、勝手に変換されていますわ。そして理解もできる。何だか、気持ち悪いですわ……」
「へぇ〜、不思議だね!」
不思議で済ませるにはいささか都合が良すぎるが。これも、何かの魔法だろうか?まあ、一部の言葉は全然分からないのだが。
「そういえば、私が寝ている間に何かありまして?もしかしたら、その時に何か……」
「あ、あのね、アミーリアさんが寝ている時、その指輪が光って身体を包み込んだの。CGみたいで綺麗だったなぁ……」
「指輪が?」
シージーというのはよく分からないが、お母様にもらった指輪が関係しているようだ。
「あれ、色が……」
元々は真紅の指輪だったのだが、今では爽やかな空色のような色になっていた。
こんな魔法は知らない。ならば、この世界に自分が来たことも、この指輪が関係しているのだろうか?強力な精神魔法の干渉を防ぐだけでは無かったのか。
この指輪はお母様とお揃いだった。つまりーー
「お母様?……まさか」
「ア、アミーリアさん?」
心臓の鼓動が早くなる。ねえ、お母様。その時が来れば分かるって、こういう事なの……?もう、訳が分からない。
「ねえ、何か顔色悪いよ!?大丈夫!?」
「も、もう遅いし、さっきまで倒れていた訳だし、無理させちゃってごめんなさい……!」
コトネとチヒロが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「い、いえ。ちょっと疲れただけですわ。でも、そうね。今日は休ませてもらおうかしら。こちらこそ図々しくてごめんなさい。こんな正体不明な女、泊めたくないと思うけど……」
「そ、そんな事ない……よ!えっと……一応体調が良くなさそうだから、今日はお風呂やめとこっか。シャワーの操作とか混乱しちゃうかもだし……!千尋、体を拭くタオル、用意してもらえるかな?」
「うん!わかった!」
「そんな、申し訳ないですわ」
「い、いいの。それに、その服で寝るのはちょっと苦しいと思うから……とりあえず私のパジャマ着てもらっていいかな?」
「何から何まで、本当に感謝いたしますわ」
出会ったばかりなのに、こんなに私の事を考えてくれるなんて。
「ーーふふっ……コトネ達は、優しいのね」
自然に出た、久しぶりの笑顔だった。
「え、かわいい……じゃなくて!!別に、こ、困っているなら、お互い様、だよ……」
かわいいだなんて、お母様以外に初めて言われた気がする。でもーー
「ありがとう。でも、他人に優しくできるあなた達の方が、私なんかよりよっぽど魅力的ですわ」
「そ、そんな……」
これまでの事を思うと、尚更だ。心がポカポカする。今まで厳しい環境にいたのもあるが、コトネ達がとても輝いて見えた。
そして、体を拭いた後、やたらと着心地の良いパジャマを借りて眠りにつこうとしている。この世界は、様々な分野でとても進んでいるようだ。お母様の事、これからの事。色々考えなくてはならないけど、今日はこの二人の優しさを受け入れて休む事にしよう。
「明日、この世界の事、色々教えていただけますか?」
「は、はい!」
「うん!」
この言葉、誰かに言うのはいつぶりだろうか。
「おやすみなさい」
これが夢ではない事を祈りながら、私は眠りについた。
私の作品を読んでいただき、誠にありがとうございます。
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