2話 美少女を家に連れ込む女(佐藤琴音)
「遅くなっちゃったな……」
私の名前は佐藤琴音。高校二年生になったばかりだ。ショートボブの黒髪、眼鏡で大人しそうな見た目をしている。
今日は委員会の活動がやたらと長引き、時刻は夜の八時を回っていた。部活に入っていないという事もあり、やたらと仕事を回されてしまった。公衆電話で、今日は遅くなると家に連絡はしたが、こんな時間になるまで拘束されるとは思っていなかった。
(冷蔵庫に昨日の残りがあったから、ご飯は大丈夫だと思うけど……)
家にスマホを忘れてくるわ、面倒な仕事を押し付けられるわで散々な一日だった。早く帰りたい。人目が無く、危険だから通ってはいけないと言われている路地裏をショートカットに使い、小走りに自宅を目指す。
(ここ、こんなに暗かったっけ?)
急いでいるとはいえ、いかにも何かが出そうなな雰囲気の道を選んでしまった事を後悔していると、一瞬強い光を感じた。視界が真っ白になり、そしてーー
ドンッ
と、何かが落ちてきたような音が聞こえた。
「うひゃぁ!?」
しかも聞こえたのは、私の背後からだった。
(な、なになになに!?ゆ、幽霊!?私、無理なんだけど……!!)
そういえば、この路地裏には幽霊が出るという噂もあったのだ。子供が入らないようにする為の嘘だと思っていたし、早く帰らなきゃ、と焦っていたので忘れていた。
(どどどどうしよう……!これ、振り返ったらダメなやつ……!?)
あたふたして動けないでいると、女性の声が聞こえた。
「……ァ……っさ……ま……」
(!!)
あまりにも苦しそうだったので、咄嗟に振り向いてしまう。そこにはーー
豪華なドレスを着た綺麗な少女がいた。
「ちょっ……だ、大丈夫ですか!?」
「……ぅ……」
気を失っているようだった。年は同じくらいか。金色の髪で、日本人とは思えないような顔つきだ。まるで、お伽噺に出てくるお姫様のようなーー
(って、そんな事考えてる場合じゃない!!)
「きゅ、救急車……あっスマホ、持ってないんだった……!」
周りに人はいないし、さすがに放置もできない。色々な事があったせいでパニックになり、頭も回らない。どうしようか悩んでいたその時、ふとある事に気付いた。
(こ、この子、泣いてる……?)
涙が一筋、また一筋と流れている。目元は真っ赤だ。
「……ぅ……ぁ……」
よほど壮絶な体験をしたのか、終わらない悪夢を見ているのか。私には分からないが、何だか放って置けなくなってしまった。話した事も無い、赤の他人なのに。
「だ、大丈夫、大丈夫だから」
「……」
寄り添って頭を撫でてあげながら、優しく声をかける。
「ん……」
そうしていると、少し落ち着いてきたようだった。とりあえず、少女を背負い路地裏の出口まで運ぶ事にした。
(おもい……)
少女の、というよりかは、豪華なドレスがなかなかの重さらしい。コスプレにしては高級そうだし、一体何者なのだろうか。
そんな事を考えている内に、出口に着いた。
「……わ、私の家、もうすぐそこだから」
本当はここで助けを呼ぶなりすれば良かったのだが、なんだか嫌な予感がした。人通りも少なく、誰にも見られていなかったのも良かった。
私は、少女を自分の家に連れて帰る事にした。千尋に何と言われるだろうかーー
時刻は、夜の九時を回っていた。
ーーーーーーーーーー
「た、ただいま〜……」
「お姉!おーそーい!」
恐る恐る開けたドアの先で待っていたのは、私のたった一人の家族だ。私より三つ歳下で背が小さく、茶色っぽい綺麗な長い髪をポニーテールにしている。そして大きな瞳がとても可愛らしい。私とは対照的に、元気そうな印象だ。
名前は佐藤千尋。
「ち、千尋!ちょっと静かに……」
「もう!ご飯勝手に食べちゃったよ?お風呂も沸いて……って」
「誰?」
千尋は怒りも忘れ、目を丸くした様子だった。
「い、いや、なんか……今日、例の路地裏通って来たんだけどさ、そこで倒れてたっていうか、突然現れたというか……」
「はぁ?」
「でね、この子、泣いてて……」
「……放って置けなくなって、家に連れて来ちゃったの?」
「そ、そう!いや〜さすが千尋!分かってるね〜……」
「分かってるね〜じゃないよ!!」
「ひぅ」
普通に怒られた。千尋は、普段は元気いっぱいの悪戯っ子だが、実は私よりもしっかり者で賢いのだ。何か考える素振りをした後、私に尋ねてきた。
「ねぇ、これって誘拐になるんじゃないの?」
「い、いやだって、放置した方が危なくない?」
「じゃあ救急車とか警察とか呼べばよかったじゃん!」
「それはそう……だけど、スマホ持ってなかったし、何か嫌な予感がして」
「嫌な予感て」
千尋は私に呆れたようで、頭を抱えた。
「うーん。とりあえず、その人をベットに寝かしてあげようよ。倒れてたんでしょ?」
「う、うん!」
良かった。取り敢えず、受け入れてもらえるみたいだ。私達は二人で協力して、昔両親が使っていた部屋に少女を運んだ。
「それにしてもこの人、綺麗だな〜。絶対日本人じゃないよね。しかもすごい服だ」
少し落ち着いて、事情を聞いた千尋が興味深そうに言った。
「うん、まるでお姫様みたい……。ただのコスプレには見えないよ」
「本当にどこかの国のお姫様だったらどうするの?ボク達、誘拐で死刑?」
「ふ、不安になるような事言わないでよ。さっき言った通り、突然私の後ろに現れたんだから」
「その話、本当〜?疲れててボーッとしてたんじゃないの?」
「つ、疲れてたのは否定しないけどさ」
そんな話をしている中、私はある事に気付いた。
「この子のしてる指輪、何か、色が……」
名前が分からないのでお姫様、と呼ぶが、そのお姫様の付けている赤い指輪の色が紫、青に変わったと思ったら急に光り始めた。
「うわぁ!!」
「えぇ!?」
その光はお姫様を優しく包み込み、少し時間が経つと消えてしまった。まるでファンタジーもののゲームか映画でも見ているようだった。
「うわぁ、ボクこんなの、初めて見たよ……!」
「私も……」
あまりの神秘的な出来事に、呆然とする二人だった。
「わ、私、思うんだけど……この子、別の世界から来た、とかじゃないよね……?」
「まさか〜!お姉、小説の読みすぎじゃない?……って、言いたいところだけど」
その時だった。
「お、母……さ……ま……」
「「!!」」
お姫様が目を覚ました。彼女はキョロキョロと辺りを見回し、戸惑っているようだ。まあ、当たり前か。
よし、声を掛けてみよう……って、そういえばさっき千尋が言ってた通り、これ誘拐も同然なんだよな。一体何て声を掛ければ良いのだろうか。
(えーと、うーん……と、とりあえず挨拶かな!?よしーー)
「ハ、ハロー?」
「いや『お母さま』ってめちゃ日本語だったじゃん」
私はかなり動揺していた。
私の作品を読んでいただき、誠にありがとうございます。
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