幕間 真のお嬢様と二人の娯楽
「ねえコトネ!ちょっと見てくださいまし!」
私はコトネが学校から帰ってきてすぐに、今日のネットサーフィンで見つけたものを報告した。
「どうしたの?ミア」
「ヌーチューブのオススメにでてきたVtuber?なるものを見てたら発見しましたの!」
「な、なにを?」
「お嬢様ですわ!」
ノートパソコンの画面をコトネに見せた。そこには、豪華な服を着てやたらハイテンションな配信をするお嬢様系Vtuberの姿があった。
「ああ、この人、私も知ってる。最近すごく人気だよね」
「とっても可愛らしくて素敵ですわ!まさか彼女も、別の世界からきた口かしら……!?」
「い、いやあそれは……その人は、お嬢様であってお嬢様ではないというか……いやでも、お嬢様とは概念……自分がお嬢様だと思えばそれは間違い無くお嬢様だからーー」
「何をブツブツ言っておりますの?私、この世界で自分と似たような喋り方の人を見付けられて嬉しいですわ〜!」
「……うん、よ、よかったね」
その人の配信は、コメント欄までもがお嬢様言葉で統一されており、私にとって謎の落ち着きをもたらしてくれた。調べてみると、世間でもお嬢様が関わるものが流行っているらしく、これはチャンスだと思った。
「ねえコトネ。私も配信を始めたら人気出て、お金稼げるかしら?」
「……まあ、すごく稼げるだろうね……でも、あまりオススメはしないかな……」
「あら、どうしてですの?」
「インターネットって、怖いんだぁ……」
そう言うとコトネは、インターネットの闇について語り始めた。例えばこの部屋で配信をするとして、窓の外の景色が一瞬でも映ろうものなら即自宅特定からの、変な人が家に無理矢理押しかけてきたりするようになるらしい。そして、常にうまく立ち回らなければならない。一回でも致命的な失言をすると、世界中が敵になり毎日のように罵詈雑言の嵐。他にもーー
「も、もういいですわ。良く分かりましたわ……!」
「ま、まあ、どれも最悪のケースの話では、あるんだけどね……」
「ネットは死ぬほど面白いけど、その分闇はとてつもなく大きいのね……私、気を付けますわ」
「う、うん。何かヤバいと思ったら絶対に、教えてね……」
それを知った後にさっきのお嬢様系Vtuberを見ると、なんだか尊敬の念が湧いてきた。今まではあまり意識してなかったのだが、動画のコメント欄を確認すると必ずしも全員が肯定的なコメントではないのだ。彼女は毎日これらと闘いながらも、楽しい配信を続けている。前の世界の社交界よりも厳しそうな世界に身を置いているのに、これは凄すぎる。
「これが真のお嬢様……ッ!私もまだまだですわね……!」
「な、なんかややこしくなっちゃったな……」
こうして私は、解説動画以外の動画や配信も見始めたのであった。
そしてチヒロも帰ってきた時、私は二人に聞いてみる事にした。
「二人は、普段どんな動画を見てますの?」
この世界ではヌーチューブを見ている人間がかなり多いらしく、気になったのだ。
「え?そ、そうだなあ。私は、普通にゲーム実況とかが多いかな。人気のストリーマーさんとか……あ、Vtuberの人とかもたまに見るよ」
「この世界のゲーム?って凄いですわよね……あまりにもリアルで目玉が飛び出そうになりましたわ」
「最近のは凄いよね〜」
「私が子供の時からも、だいぶ進化したね……ゲーム実況なら自分で進めなくていいし、学校の宿題しながらとか、結構見ちゃうかな……」
「なるほど……参考になりますわ」
新しいもの怖さで今まで手を出してなかったのだが、今度この世界の勉強の休憩時間に一回見てみようと思った。もしかしたらゲームを通して、この世界の事がぐっと分かるようになるかもしれない。私が尊敬する、あのお嬢様のゲーム実況にしよう。
「じゃあ、チヒロは何を見てますの?」
「うーんと、ボクはねーー」
そう言うとチヒロはスマホを取り出し、動画を見せてくれた。
「こんな感じの、メイク動画をみる事が多いかな〜!お化粧の動画だね」
そこには、現代の高性能なメイク道具を駆使して、大変身する女性の動画だった。
「えっ!?全然違う!!メイク前と比べたら、別人じゃありませんの……」
「ほ、ほんとだ……」
「ねー?凄いでしょ〜!……って、お姉?」
「だ、だってまだ高校生だし、フルメイクとかは……」
姉弟がそんなやり取りをしている中、私は驚愕していた。
「やっぱり、美容方面もとんでもなく発展してますわね……これは興味ありですわ」
前の世界でのお化粧は、ほとんど顔が真っ白になってしまう事が多かった。でもこの動画の女性は、印象がガラリと変わっているのにも関わらず、とても自然な印象だ。
顔に塗っているものの他にも、まつ毛を長く見せたり、瞼を二重にしたり……これは面白い。
「まあ、ミア姉は元がいいからメイクしなくても全然外に出れそうだけどね」
「まあ、お上手。でも、私だって女の子ですのよ?是非とも試してみたいわね」
「じゃあ今度、ボクの使ってみる?ボクは結構色白だから、ファンデとかもミア姉の肌に合うんじゃないかな」
「まあ!お願いいたしますわ!」
「やり方も教えてあげるよ〜!」
少し離れていたコトネがボソッと呟いた。
「か、会話が女子すぎる……!」
それを聞き逃さなかったチヒロが、ニィ、とジト目で笑いながら即座に反応した。
「まあボクは男だけどね〜」
弟に女子力の差を見せ付けられたコトネは、なんだか悔しそうにしていたのであった。
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