9話 テレビとスマホ
さて、この世界に来て二回目の朝だ。
昨日は目覚めの時に不安と安心の両方があったが、今日は安心の方が大きかった。
起床した後、昨日に引き続きとても美味しい朝食をいただいた。卵焼きとベーコンだ。コトネはあんまり代わり映えしなくてごめんね〜と言っていたが、めちゃくちゃ美味しいので毎日これでもいいくらいだ。
そして、今日は日曜日。この日は比較的休暇を取る人が多いらしく、チヒロもお休みのようだった。昨日泣いていた事をからかわれるかと思ったが、流石にブーメランになるので自重したようだ。
朝食を食べ終え、コトネが洗濯等の家事をする為に席を外している間、チヒロが話しかけてきた。
「ミア姉!ちょっとこっち来て」
そう言うとチヒロは私に黒くて長い、ボタンがたくさん付いている機械を渡してきた。
「なんですの?これ」
「テレビのリモコンだよ」
「てれびのりもこん?」
「そう。あの壁にある四角形のヤツがテレビ。リモコンは、それを操作する為のモノだよ。その左上の赤いボタン、テレビに向けて押してみて」
「はぁ……分かりましたわ」
言う通りにボタンを押す。するとーー
『ミスター・マティックの手品ショー!パチパチパチパチ……』
と、賑やかな音が聞こえてきたと思ったら、箱の中には謎の男が写っているではないか。
「な、何者ですの!?」
私は咄嗟に身構えた。いきなり黒いスーツ姿の、シルクハットを被った胡散臭い男が現れたのだ。
『これからあなたは、不思議な現象を目撃する事になります。さて、私の魔法を見破る事ができるでしょうか?』
箱の中の男は、そんな事を言っている。この世界には、魔法があるのか無いのかどっちなんだ!?
「フン、魔法なら私の専門分野ですわ!しっかりと見破って差し上げますわ!」
『よろしい。では、最高のマジックショーをご覧入れましょう!』
チヒロが、私に聞き取れないくらいの小声で何かを呟いた。
「き、奇跡的に会話が成立してる……ぷぷぷ」
『では、この可愛い子猫ちゃんを、獰猛な肉食獣、ライオンに変身させてご覧に入れましょう!』
「何ですって!?ただでさえ使い手の少ない変身魔法を、この男が……?」
『それでは1、2、3……どうぞご覧あれ!』
『がおー!!』
男が猫に布をかぶせた次の瞬間、布の中から猫が消えて本当にライオンが飛び出してきた。急にどアップのライオンが出てきた為、とても驚いてしまった。
「きゃああ!!」
「あはははは!」
私は叫びげ声を上げ、テレビから後ずさった。その様子をみて、チヒロが笑っている。そして、大きな声に何事かとコトネが飛んできた。
「ちょっと、千尋!!」
「あはははは!いや〜ごめんごめん。最初は普通に教えるつもりだったんだけど、何か噛み合っちゃってね……」
「コ、コトネ!チヒロ!猛獣が!変身魔法が!あれ、大丈夫ですの!?」
「ああああ……ミア、ごめんね……これは魔法じゃなくて手品で、それでテレビっていうのはねーー」
私は、コトネからテレビの詳細な説明を受けた。
「へぇ〜!これは画期的ですわね。娯楽には困らないし、情報を素早く仕入れる事ができますわ……って、チヒロ!!」
「いや〜、驚かすつもりはなかったんだよ。本当だよ」
「もう!だったら最初からちゃんと説明してからにしなさいよ!」
「あはは。ミア姉の反応が面白くてつい……」
このいたずらっ子め。昨日のしんみりした雰囲気はどこへ行ったのやら。
「も、もう!千尋!あんまり意地悪しちゃダメ、だよ!」
「うん、ごめんなさい。でも、お姉。テレビでこれじゃあ、今外に出たらやっぱり、ミア姉倒れちゃうよね。ボクはそれを確かめたかったんだ」
「た、確かにそれは重要ですわね……!お礼を言うべきか、悩ましいところですわ……」
「ミア、丸め込まれてるよ……!」
そんなアホな一幕から、また新たな一日が始まったのであった。
ーーーーーーーーーー
「そういえば、二人が定期的に操作している板はなんですの?」
テレビの事を覚えた私は、そのテレビをかなり小型化したようなものを二人が持っていることに疑問を持った。
「こ、これはスマートフォン、だよ」
「略してスマホ!」
「すまほ?」
何でも、どんなに遠く離れていても人と会話が出来たり、リアルタイムで文字のやり取りができる優れものらしい。流石に便利すぎだと思った。魔法より科学の方が便利なのは、ほんのちょっぴり悔しい気持ちになった。
「ふふーん。でもこれだけじゃないのさ」
そう言ってチヒロは画面をスライドし、アプリというトンデモ機能を見せてくれた。何でも、この一つ一つに違う機能が備わっており、自分の好きにカスタマイズできるとか。
何それ欲しい。
「や、やっぱり、この世界に早く慣れるには、インターネットを覚えるのが、いいと思うよ」
「ああ、そういえばチヒロが前、ねっとがなんとか言ってましたわね」
「まあ、簡単に言えば娯楽を兼ね備えた超便利な辞書ってとこかな〜」
疑問に思った事や調べたい事を打ち込むだけで、一瞬で答えが出るまたしてもトンデモ機能だ。
「な、な、な……!私、前の世界で調べたい事があった時、広すぎる図書館で数時間探してましたのに……無かったら、お金で情報を買っていたのよ?この世界の民は、恵まれていますわね……」
「そ、そう言われると、確かに……」
「とにかく、ネットができるようになればこの世界の事があっという間に分かるよ!知識が偏る可能性もあるし、全部本当の事が書いてある訳じゃないけど……」
最後の方は小声で何を言っているのか聞き取れなかったが、とにかくそんな近道があるのなら使わない手は無い。しかしーー
「そのスマホは、二人のでしょう?借りっぱなしは、申し訳ないですわ」
「ああ、それなら心配ないよ。ね?お姉」
「う、うん。ミアにはこれを使ってもらおうと思ってるよ」
そこには、折り畳まれた黒い板。ノートパソコンが置いてあった。
「こ、これは……!」
このパソコン、インターネットとの出会いは、私の価値観を大きく変えるものだった。
ーー現代の技術の結晶に、どっぷりとハマる事になるのを、この時のアミーリアはまだ知らないのであった。
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