1話 現代転移
新連載です!よろしくお願いいたします。
「アミーリア、何度言ったら分かってくれるんだ」
その日の夜、私の父が呆れたようにそう言った。
「絶ッ対に嫌ですわ!あいつをお母様と呼ぶなんて!」
私の名前はアミーリア・レイン。公爵家の一人娘、いわゆる公爵令嬢だ。見た目は金髪縦ロールの、少し気の強い典型的なお嬢様である。
「もう五年も探して見つからなかった。エミリーは死んだんだ。どうか諦めて、ミランダを受け入れてくれないか」
「嫌!お母様はきっと生きていますわ!」
いつもの癇癪を起こした私は、自分の部屋に逃げ込んだ。
私の実の母、エミリーは5年前、急に行方不明になった。公爵夫人の失踪という事で大騒ぎになり、国中を大捜索したが結局見付からなかった。
世間では、一人の時に運悪く魔物に遭遇し食べられてしまい、骨も残らなかったのではないかと言われている。
しかし、どこかおかしい。
母はマイペースな性格でのんびりしていたが、魔法の腕前は随一だった。そんな母が、たかが魔物に遅れを取るとは思えない。そして、さらに納得のできない事があった。
『アミーリア、紹介しよう。新しいお母さんのミランダだ』
『あなたがアミーリアちゃんねぇ。お母様の事は非常に残念だわぁ』
捜索を始めて一年が経ったある日、父が急に再婚相手を連れてきたのだ。
父は、そのミランダという紫色の髪をした妖艶な女性に首ったけのようだった。 そして、もうどうでもいいと言わんばかりに、父は母の捜索を打ち切った。
実は、父と私の実の母、エミリーは仲があまりよろしくなかった。親同士が決めた政略結婚で、しかたなく結ばれたらしい。
そういった事情もあり、私は仕組まれた陰謀ではないのかと疑っていた。しかも、ミランダという名前の女性は、貴族の間でも、教会絡みでも聞いた事が無かった。
それなのに、この国の権力者達はさも当然のようにこの結果を受け入れていた。私が小さい頃、勇者が厄災級の魔物を倒した時のような、謎のお祝いムードには吐き気がした。
だから父が捜索を打ち切った後の四年間も、私は諦められなかった。一人で行動を起こし、周囲を無理やり巻き込みながら母の捜索と並行して証拠集めに奔走した。
しかし、それらしいものは一切出てこなかった。それどころか世間は、まるで母の事など、もうどうでも良いといった感じだった。
母は、父と仲は悪かったものの、貴族社会で嫌われているという訳では無かった。逆に一部ではかなり慕われていたはずだ。その人達までもがこの様子だとーー
強い精神系の、強力な魔法の可能性がある。それも、伝説級のものだ。
では何故、私だけこの魔法にかかっていないのか。私には少し心当たりがあった。母が失踪する直前に、私は母がいつも付けていた指輪の色違いを貰っていた。
『ミア。この指輪は何があっても外してはいけないわ』
そう言って母は、私の左手、人差し指に指輪を付けてくれた。
『どうして?お母様』
『ーーその時が来れば分かるわ』
そんなやりとりがあった。
その時は、大好きなお母様とお揃いの指輪を貰えた事が嬉しくて、深く考えてはいなかった。もしかして、今がその時だと言うのだろうか?
だけど、状況はとても厳しい。
『ねえ、聞いた?お嬢様ったら、また死んだ母親を探しに行ったんですって。遠征だってタダじゃ無いのに無駄な浪費はやめて欲しいわ』
使用人はそう言った。
『困ったものだ。エミリーが死んで、頭がおかしくなってしまった。あんな子では無かったのだが……』
これは父だ。
『今のアミーリア嬢は、この国の王妃にはふさわしくない。婚約を解消させてもらう』
この国の王も、皇太子も。
『お前の味方なんていない。大人しく他国に嫁いで人質にでもなるといいわ』
父がいないところでは、私に当たりが強いミランダも。
ーーこの世界に、私の居場所は無い。
「お母様……」
また昔みたいに、楽しい日々を送りたい。もう失う物なんて何も無い。他国に送られくるらいなら、いっその事ーー
自分で命を絶てば、お母様に会えるかしら。
そんな事を考えるくらいには、心が壊れそうだった。泣きながらベットに入り、夢の中に逃げようとする。
「せめて夢の中では、幸せな時間を」
そう呟き、眠りについた。その瞬間、母に貰った指輪が赤く、強く輝きーー
アミーリア・レインはこの世界から姿を消した。
今日、もう一話投稿予定です。
私の作品を読んでいただき、誠にありがとうございます。
もしよろしければ、星、ブックマーク、感想等いただけましたらモチベーションがとても上がります。
これからも、何卒よろしくお願い申し上げます。