はちじゅうろく
夏の到来を感じるのは温度よりも匂いだと自信を持って伝えると、
兄は鼻で笑い、俺は鼻が利かないからと海に飛び込んだ
何人もの足が踏みしめた岩場は、平らに均されていた
兄が小さく蟻のようになって、水面に到着すると同時に花を咲かせた
頭で事象を理解する前に、僕は昼食のそうめんを吐いていた
赤い飛沫が瞬く間に、緑の海を恐怖に染め上げた
直感で、もうどうにもならないことだと分かっていた
薄れゆく意識の中で、兄の笑い声が聞こえた
気にすることはない、だって、わざとなんだから
自分の願望が幻聴を作り上げたのかもしれない
僕は兄が苦しんでいることを後から知った
何度も買いに行かされたノートの行方
部活をしない顔に増えていく傷
貸したまま帰ってこないゲームソフト
それらの出来事は未熟な僕の頭で統合していなかった
僕は健康に生きている
この群衆の中で、彼らもまた、したり顔で生きている
夏になると、自動的に心臓が不快を血液に混ぜ、胃を嫌悪で膨らませる
解放されたい
けれども、抱えていきたい
また、夏が始まった




