透明ちんちん
あるところに1人の中年男がいた。その男は人の多い駅前で「おちんちん! おちんちん!」と力の限り叫び続けるのだ。朝から晩まで、叫んでいた。
ある者は顔をしかめ、ある者はその様子を動画に収め拡散し、ある者はただ通り過ぎる。
男は悦びに浸っていた。ああ俺は、皆に見られている、注目されている。
男はたちまち有名人となり、知らない人から握手を求められたり、罵られたり、動画出演を頼まれたりするようになった。男はますます悦んだ。
しかし1週間後、彼を気にするものは居なくなっていた。
「あ、まだやってたんだ」
「そういやこんなの居たな」
「つまんな」
度々こんな声が聞こえていた。
男は焦った。俺は謎の怪人ちんちん男なんだぞ。なぜ恐れないんだ! なぜ誰も面白がらないんだ! ⋯⋯そうだ!
男はある事を思いつき、すぐに実行に移した。場所を移動することにしたのだ。
交番の前で「おちんちん! おちんちん!」と叫んでいる彼の目は輝きを取り戻していた。
「すげえな」
「あれで終わりじゃなかったんだな」
「動画撮ろ、動画!」
その日彼は久しぶりによく眠れたという。
だが、その幸福もつかの間だった。3日後には誰も見向きもしなくなっていたのだ。俺は、透明人間なのか⋯⋯?
透明ちんちんにはなりたくねぇなぁ。