1.ピンチの時こそチャンスよ。
つい先ほどまで青く澄み切った空が赤色が染まりやがて、煙が空を埋め尽くす。ここ王都グランドリード、勇者が魔王直属の配下であり四天王の2人を倒し帰還していた数日後に、魔王の襲撃が起きた。王都全体で無く一部西側の地域だけ火の手が上がり、この地域に住む者は一部を除いて逃げ切っている。
その一部ってのが私シーナ。この西側のメイン通りに雑貨屋を構えてる……いや、いた。皆逃げ切ったのはこの王都全体に魔払いの結界が施され、魔族やその四天王でさえ入ることができない。そうなのに私は空を見ている。
上空は風が強い。なぜそれがわかるのか……煙の流れが速い?火の勢いが風で強い?いいえ、上空にいる黒い服を着た人物のマントが翻っているから……。
上空に人?
速く逃げなきゃ……ポーション作りに精をだして集中しすぎて……いつの間にか人も居なくなって。
空が青かった昨日。友達のアンナと勇者様が素敵と話していたのよ。アンナは宿屋の美人女将として既に結婚している。
「シーナ。 確かに勇者様は美男子だけど……」
「だよね。 そうだよね。 まるで神が放つ光のような髪、空のように澄み切った碧眼、柔らかく癒やされる声――――」
「はぁ、でもシーナ。 勇者様とは無理よ現実を見なさい、現実を!!」
もし、独り身で無かったら今の状況、窮地に立っていなかった。火の手が広がりどこに逃げて良いのか、それに上空にいる人に助けてと叫ぼうにも見渡す気配が無いのだから、人間では無い。
どうしようとオロオロしている私が空を見上げていると先ほどの黒い服の人物に、剣を抜き向けている勇者アレス様が。
さらに、どうしよう。こんなに近くに勇者アレス様が――――。
何やら上空で言い合っているが、強風で私の耳には届かない。
『ここにいたか勇者アレス』
『まさか、1人で乗り込んでくるとは。 もっと賢いヤツかと思っていたんだが』
『いや、瀕死のお前らが姿を隠し逃げるのはここしか無いからな』
『逃げた……部下を2人も倒され自暴自棄になったお前を倒すため療養だ。 魔王ヴォルデウス!!』
何を言っているかわからない、聞こえない。しかし、勇者アレス様は格好いい、見とれてしまう。あのキリッとした目もすっと背筋がまっすぐな所も。だけど……だけど――――黒い服をきている男も、遠目ながら勇者アレス様に引けを取らないほど美男子なのがわかる。
周りは倒壊し始めている。目の前には勇者アレス様のファンや野次馬がいない。
速く逃げなきゃってわかっているの。でもこんなチャンスもう無いわ。ピンチをチャンスに変えるのシーナ!!
私は大声で叫ぶ。上空にいる人に――――
「魔王、この結界内ではうまく動けないだろ」
「それでも、お前を倒せる力はあ――――」
『恋人はいますかぁぁぁぁぁ!!』
「……」
「アレス。 逃げ遅れた人間がいるな」
「待て。 魔王」
黒い服の男がすうっと降りて私に近づく。
「人間。 おまえには……」
まるで猫毛の黒髪、真っ赤な瞳に目尻が尖って、透明感のある肌つや。その容姿端麗の姿に目を奪われる。
「魔王ヴォルデウス!! 君は速く逃げろ」
「えっ、魔王!?」
勇者アレス様も足を地につけ駆け寄ってくる。
いやぁ、美男子が2人私の元にって、パチパチと建物を燃やす音がひどくなっている。
だけど……。
魔王ヴォルデウスと言われた黒服の男が、私の目の前に立つと左手を勇者アレス様に向ける。
「そこに止まれアレス」
「くそっ」
「そんな汚い言葉を使うな。 さぁ人間先ほど訪ねた答えだが」
咄嗟に出てしまった、本当は『恋人にしてください』と言いたかったんだけど。
「このオレには、恋人はもちろん、そういう相手も居ない」
え?それを答えるために降りてきた?
勇者アレス様も驚いた様子。
「おいアレス。 お前はどうなんだ?」
「どうなんだって……」
「お前の仲間に聖女がいただろう。 あの女……」
「俺は魔王ヴォルデウス、お前を倒すまで」
「と言うことは、お前は聖女とやらを――――」
やっぱり、そうなんだね。四天王との戦いで倒れた聖女様は、美しくそして可愛い。聖女様を応援する集いっていう男どもの集まりがあるくらいだもんね。
「おい、アレス。 そんな曖昧な答えをするな。 女がしょげてしまったであろう。 どうするんだ?」
「なっ。 くっ……俺には恋人はいない。 異性を愛する相手はいない」
勇者アレスは歯を食いしばりながら答える。魔王ヴォルデウスはその光景に笑みを漏らす。
あっこの魔王、笑顔かわいい……。やばい、勇者アレス様も格好良いんだけど、魔王ヴォルデウス様も――――
目の前にひ弱な人間がいて、何もしてこないこの魔王ヴォルデウス様は優しい方なのでは?
私は、その解釈にいたるとどうしても、目の前にいる美男子2人を引き留めたくなってしまったの。わがままなのはわかっているけど。
「好きな食べ物有りますか?」
笑顔が無くなり困惑する魔王ヴォルデウスは、勇者アレスを睨みながら少し間があき口を開く。
「肉……肉料理だ」
「肉――――とは?」
「うむ。 アレス、お前はどうなんだ?」
「俺は――――ハンバーグだ――――」
「ハンバーグ……だと?」
「笑いたければ笑え」
「いや、女。 どういう料理なんだ?」
魔王ヴォルデウスの問いに勇者アレスは、思いもよらなかった言葉に目を丸くする。
「肉をミンチにして卵とパン粉等で丸く形作って焼く料理……です」
「なるほど――――で?」
魔王ヴォルデウスの視線が私と合う。声にださないが、その赤い瞳から『おいしく作れるのか?』と――――まるで脅されているようにも。
だけど、じつは得意料理の1つなのよねハンバーグ。
「できます」
「どのくらいで」
「材料があれば数分後でも……だけど、この現状だと復興にどれだけ時間がかかるか」
「勇者アレスよ。 この女に免じてここは引き下がってやる」
「逃がさないっ」
「アホか。 完全に回復していない貴様をやってもつまらんし――――」
魔王ヴォルデウスが指弾きをする。緑白い魔方陣が浮かび上がり指弾きの音共に街に広がっていく。
「女――――」
「わたしの名前はシーナ」
「シーナよ。 3日だ。 3日後にハンバーグを用意し食させて貰う」
「――――わかりました」
「アレス。 お前もくるだろ?」
「あぁ、お前が何をするかわからんからな」
「シーナ。 3人分頼む」
「3人?」
「当たり前だ。 オレにあいつアレスと――――シーナお前の分だ」
マントを翻す魔王ヴォルデウスは公然と消えと同時に「シーナはしないと思うが、アレスよ変なこと画策するなよ」と残していった。
「奴め。 倒壊していた街を元に戻していなくなった」
勇者アレス様は、悔しそうな顔で街を見回している。その言葉に私の視界にもまるで魔王の襲撃がなかったかのような状態に戻っていた。
「シーナさん。 3日後お願いする」
「えぇ、おいしいハンバーグ作りますよ」
私の住まいを伝え勇者アレス様は、爽やかな笑顔で去って行った。その姿は格好いいものの若干苦しそうな姿でもあった。
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