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やばくね?

「へぇ、じゃあお前らエリートじゃねえか」


「そんな大したものじゃないさ。日本じゃそれが普通なんだ」


「裕福なところなのねぇ」


「まあいろいろ問題を多く抱えてるから何とも言えないけどね」


「こらこら先が不安になるようなことを言うんじゃない。というか学校くらいここにもあるだろ?」


夕食を食べ終えたカイトたちは食卓を囲んで話をしていた。会話の内容は学校についての話である。

ちなみにアンドリューの娘であるロミーは夕食を食べて眠たくなってしまったらしく母親であるクイナの膝の上で眠ってしまっていた。口を半開きにして幸せそうに眠る姿は幼さゆえの愛くるしさを感じる。


「学校なんて大したものはないわ。確かに教会では子供たちに勉強を教えてるみたいだけど」


「ご立派な校舎付きの学校があるのは中央だけだ」


「やっぱりここはスラムなの?」

アンドリュー夫婦の話を聞いてヤミコが大きく切り込んだ。外周区がスラムのなのではないかという疑問はカイト自身も少なからず持っていた。家や店が鉄板や木材を組み合わせた非常にボロいものであったということや、柄の悪い人間が多いこと、挙句には学校がないことなどから明らかに普通ではないことが分かる。だがアーケイドの防壁の内側にあったり、警備の兵士がいたりと政府から見捨てられたような場所というわけでもないようだ。


「スラムってほどではねえが貧民街なのは間違いねぇな」


「一応聞いておくけどアーケイド全体が貧民街じゃないよな?」


「アーケイドは私たちのような貧しい人たちが住む外周区と内壁の内側、アーケイドの一般市民たちが住む中央に分かれているの。外周区は見ての通りボロボロだけど中央は立派な建物がたくさん立っているわ。車や列車もたくさん走っているのよ」


どうやらここ外周区と中央とではかなり貧富の格差があるようだ。ここまで話を聞けばあとはいろいろと察しは付く。内側と外側でなぜここまで貧富の差が開いているのかは知らないが要するに外周区にいる人々はアーケイドの中央での市民権がもらえなかった人々の集まりなのだろう。


しかし外周区の人間に人権がないのかといえばそうではないようだ。壁の内側に住むことを許され、外側にもしっかりと警備が立っている。外敵から守られているのだ。それに中央ほどではないのかもしれないが外周区はどう見ても繁栄している。これだけの建物が立ち、人々が集まり生活している。確かに街並みは全体的にボロいがそれでもここまで規模が大きいのなら立派なものだ。


「まあ悪いところじゃないぜ。不便だし少しばかり治安は悪いがアパネイトに比べればよっぽどいいもんだ」


「アパネイト?」

また聞きなれない名前が出てきた。


「世界最大の犯罪都市だ。当然治安は最悪。殺人、窃盗、闇取引、他にもいろいろ犯罪が日常的に行われている」


とりあえず絶対に近づきたくない都市だというのはよくわかった。どんなところでも事件は起こる。そして何か闇の深い物事も行われている。平和な日本でさえ見えないどこかでそんなことが起こっていても不思議ではない。しかしアパネイトではそんな闇の深い犯罪が噂になってほかの都市にまで漏れるほど平然と行われているようだ。近づけるわけもない。


「さて、今日はこのへんにしてそろそろ寝ましょうか。明日はゆっくり街を歩いてみるといいわ」

クイナはそう言って眠ったロミーを抱えたまま2階に上がっていった。


「寝る場所はヤミコは上を使え。俺とカイトはここでいいな?」


「もちろんだ」

飯を食わせてもらっただけでなく寝床まで用意してもらうのだ。文句などあるはずがない。安全に眠れるなら場所などどこでもいい。とカイトは思っていたのだが横に座っていたヤミコは不満そうな顔をしている。


「私が下で寝るからアンドリューは上で寝て。家族そろって寝た方がいいわ」


「なんっ!?」


「カイトもそう思うわよね?」

ヤミコの笑顔がこちらに向けられる。家族そろって川の字で寝た方が良いというのはカイト的にも素直に賛成したい。しかしそれはヤミコ以外の人物が提案してきたときに限る。ヤミコが言うと明らかに裏があるようにしか聞こえないのだ。ヤミコと2人きりになるのが怖いカイトとしてはとても答えにくい。


「まあんーそうと言えばそうなんだろうけど、そうじゃないような気がしないでもないというか」


「私とは寝ないくせに今日あったばかりの既婚者の男とは寝るの?」

こういう時だけ圧がすごい。にっこり笑顔だが絶対に目の奥は絶対に笑っていない。


「言い方!」

だがここで折れたら負け。そう思ったカイトは圧に屈せずできるだけ平然を装いながらツッコミを入れる。ここで負ければ間違いなくヤミコのペースに持っていかれる。そうなれば一緒に寝ることになる。美少女と一緒に寝られるのだから年頃の男子ならば間違いなくガッツポーズを取る。普通ならそうだっただろう。しかしカイトとヤミコの場合は違う。カイトにとってヤミコと寝ることはライオンのいる檻の中で一晩過ごすのと大差ない。


「でも男女が一緒に寝るのは不純というか風紀が乱れるというか」


「大丈夫よ。ただ一緒に寝るだけだから」


「それを言うやつは信用できんのよ」


○○だけだから。という言葉を使う人は基本的に信用できない。というよりも信用してはいけない。

この言葉を使う人の言うことは大体嘘だからだ。「一口だけだから」、「ちょっと痛いだけだから」

その他いろいろとあるがこれを信用すると後々痛い目を見るというのはカイトもなんとなくわかっている。特に今回の場合は相手が相手なので油断したら一生取り戻せない自分の何か大切なものを持っていかれるような気がする。絶対に守り抜かなければ。


「何かよくわかんねぇけど寝るなら長椅子にマット敷いて寝てくれ。あとこれ毛布な。じゃ、おやすみ」

いつの間にか就寝準備を済ませていたアンドリューが2階に上がっていく。しかし階段の上からアンドリューが何か思い出したかのようにすぐに逆さまの状態で頭だけ出して言う。


「できるだけ静かに頼むぞ。気まずいからな。あと後始末はしっかりしてくれよ」

それだけ言うと頭を引っ込めた。


カイトはしばらく何が起きたのか理解できなかった。つい先程まで誰が1階で寝るかの話をしていたはずなのに気が付けば勝手に寝る人物が決まっていたのだから。自分の知らないところで話が進んでいたら訳が分からなくなるのも当然だろう。しかし残酷かな、カイトは徐々に理解してしまう。これが一体何を意味しているのかを。いや、本当は最初から理解していたのかもしれない。だがそれに気が付きたくなくてぼんやりとしていたのだろう。


カイトはヤミコの方を見る。ヤミコは何か言うわけでもなく、ニコニコと笑顔を向けている。その笑顔には先ほどまでの強い圧力はなく、おそらく目の奥も笑っていた。正真正銘の笑顔である。


「大丈夫、昔はよく一緒に寝てたじゃない」


「昔はね?でも今一緒に寝ると意味合いが変わってくるんだよ」


カイトは一瞬苦虫を噛み潰したような表情になりそうになったがそれをグッと抑えて、そっと自分の銃の残弾を確認する。銃から弾倉を取り出すと弾倉の側面に12個の小さなランプがあり、そのうちの4個が消灯状態で、残りの8個は未だ明かりが灯っている。光っているランプは残弾、消えているランプは消費したエネルギーの量を示している。


つまり撃てるのはあと8発。エネルギーを補充する方法はわからないため今撃てる回数はこれだけだ。

強力な銃とはいえこんなもので最強ヤンデレ幼馴染を止められるとは思えない。しかし最悪の場合は使わざるを得ないだろう。世の中は弱肉強食なのだ。カイトは銃をホルスターに納めると長椅子に座った。


そしてため息をつきながら自分の首元に手を伸ばし、パーカーを脱ぐ時のようにそのまま手をまっすぐと下に下ろしていく。するとファスナーも何もないはずのボディースーツがウェットスーツのように真ん中から割れて開いていき、カイト自身の肌が露になる。


「うわ、何も着てないのかよ」

少し厚めのボディースーツの中は下着こそ履いているもののそれ以外は何も着ておらず、ほぼ裸状態だった。スーツはかなりピッチリしているため自分ではわからなかった。ヤレヤレと思いながら腰のところまでスーツを開けると上半身だけスーツを脱いだ。スーツは上下一体になっているため現状脱げないのが残念だ。


「疲れたぁ」

そう言ってカイトは肩の周りをほぐす。今日はいろいろと初めてのことがたくさん起こった。機械生命体(メタリカント)との戦いのせいで普段は絶対にしないような動きもたくさんしたせいか疲れたような気がするが体事態に疲労感はない。転生時の影響で身体能力が上がっているせいだ。もし今まで通りだった今頃くたくたで明日には全身筋肉痛で動けなくなっていただろう。


「っ!?」


突如、背中に何か冷たいものが触れた。カイトは突然のことに驚いてビクリと体を震わせる。それは最初に触れた時、冷たく感じたがだんだんと温かくなって心地の良い温度へと変わっていく。それは背中からなぞるようにして胸の方へと移動していく。カイトは触れているそれが何なのかすぐに分かって寒気がした。


指だ。ヤミコの細い指がカイトの体を這うように移動し、そのまま腕がカイトの体を抱きしめる。それと同時に背中に感じたことのない感触が伝わる。


「ひゃん!」

思わす変な声が出てしまう。見なくてもヤミコが後ろから抱き着いているのがわかる。一体先ほどまでの会話は何だったのかと思いたくなるほどに失念していた。一緒に寝ると寝ないとか以前に肌を晒してはいけないのだ。ヤミコの体は最初少しひんやりしていたがすぐに人肌の温かいものへと変わっていく。少しずつ体が温かくなっていくのを感じる。その温かさは触れあう肌と肌から生まれるものだけではない。


「ち、ちょっとヤミコさん!?なななにをしていらっしゃ、るのかしら?」


「今日のカイト成分補充中」


「そんなの今までなかったよね!?それに、その、えっと当たってる・・・から。離れて、ください」

カイトの声はどんどん小さくなっていく。


「何?何が当たってるの?はっきり言ってくれなきゃわかんない」

ヤミコは小馬鹿にするように言い返す。おそらく今の表情は意地悪に笑っているだろう。



「言わせるなよ。・・・たぶん胸が」

カイトは先ほどまでとは違い完全にしおらしくなってしまっている。カイトも年頃の男子、例え相手がヤンデレ幼馴染のヤミコであったとしても女子であることには変わりない。それ故に慣れていないことなどいくらでもあり、恥ずかしいと感じることもいろいろとある。現状のようなことなど今までの経験上1度も起きたことがないためかつてないほどに緊張しているのだ。


「大正解」

そう言ってヤミコは背中にもっと押し付けてくる。背中から伝わる感覚からしてヤミコも同じように上半身丸出しの状態なのがすぐにわかった。感じたことのない2つの柔らかな感触に今にも理性が飛びそうなカイトだったがそれでもゆっくりとホルスターに手を伸ばし力を振り絞って言葉を吐き出す。


「成人向けコンテンツじゃないのに、これ以上は!」

そう、成人向けのコンテンツではない。R18のタグは付いていないのだ。それ故にこれ以上好き勝手やられるとどこからともなく苦情が来たり、思わず目をそむけたくなるようなキツい展開になってしまう。そうなってしまえばもう機械生命体(メタリカント)の相手などしている場合ではない。黒服の男たちとの勝ち目のないガチンコバトルになってしまう。


「そんなの関係ない。私は好き勝手にやる」


「そこは守ろうよ!?」

流石ヤンデレ、まさにヤンデレ。常識もルールも通用しない。好きな相手のためなら何もかも振り払い、己が道を進み続ける。これぞ天下無双、正真正銘の怖いものなし。しかしそのせいで何か大切なものがなくなってしまいそうになっている。ここで止めなければ何もかも終わってしまう。


「こうなったら‼」

次の瞬間、カイトの体がヤミコの腕の中からヌルリと滑り抜ける。まるで縄抜けトリックでも見せられたような一瞬の不思議な光景だった。ヤミコは目の前の不可思議な現象に自分の両手を見ながら困惑したように固まっていた。それは当然の反応だろう。ヤミコはカイトが逃げられないようにしっかりと抱き着いていた。それなのにも関わらず、軟体動物のように手からすり抜けたのだ。


「今の、一体・・・?」

困惑するヤミコをよそにカイトはいそいそとスーツを着なおす。


「い、いいから早く服を着ろ。風邪ひくぞ」

なんとか危機を回避できたことに安堵しつつカイトは銃を片手に頭から毛布を被って部屋の隅に座る。やはりヤミコの近くにいるのは危険だ。ボディースーツを少し脱ぐのも危険だ。おかげさまで全く安心して眠れなくなってしまった。家の中だというのに武器が手放せない。毛布の隙間からヤミコを見るとヤミコは予想通り先ほどのカイト同様に上半身裸だった。長い髪の毛がなければ色々とまる見えになっていただろう。それが隠れているのが唯一の救いだ。


カイトはすぐに目を伏せる。例えどんな状況であれ、女の裸には目を瞑って見て見ぬふりをする。それが紳士というものだろう。

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