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過去への決着

「俺たちこんなバケモノの上で暮らしてたのかよ」


よく今まで何事もなかったものだ。こんなものが街のど真ん中から出てきたらどうなっていたか想像もできない。外周区では小型のモンスターの目撃情報自体はチラホラと耳にするっことはあったがこんな大型のモンスターが地面のすぐ下にいたと思うとゾッとする。ここが人気のない場所で本当に良かった。


しかし安心している場合ではない。この状況をどう乗り越えるのか。それが問題だ。マグナ・マグナの弾はもうない。拾ったハンドガンにはまだ弾が入っているが銃弾が全く通用しないほど固い皮膚を持つこのモンスターを相手に丸腰同然のこの状態でどうやって戦えばいいのだろうか。いくら超人的な能力があっても素手で勝てるとは思えない。モンスターハンターだって武器なし、キックオンリーでは戦えない。


モンスターたちが突っ走てくるのを回避しながら考える。幸いなことに敵の攻撃は単純だ。基本的に突っ込むことしか考えていない。それにカイト自身の能力である唯一の未来(モノス・イグジスト)のおかげで次に敵がどんな攻撃を仕掛けてくるのかもわかる。避けるのは問題ない。避けるのは・・・。


カイトは銃でモンスターの目を狙う。しかしモンスターのつぶらな瞳を狙うのがどれだけ難しいことか。銃弾は目には当たらず硬い頭部の皮膚に当たって跳ね返る。うまくいかないのはカイトの実力もあるが銃の精度も影響している。銃弾は寸分違わずまっすぐ飛んでくれるわけではない。弾道は大きかろうが小さかろうが必ずズレが生じる。


これらを考慮したうえで小さく、動き回っている的を狙うとなると求められる射撃の難度はとてつもなく高い。


「だったら‼」


カイトは突進を繰り返すモンスターの巨体に飛び乗った。そしてモンスターの目に銃口を突き付け、引き金を引いた。いわゆるゼロ距離射撃だ。狙うのが難しいのなら絶対に命中する距離まで近づけばいい。それだけのシンプルなことだ。モンスターは目を潰された痛みに暴れまわるがそれでもカイトは構わず何度も引き金を引く。


モンスターが力尽きると銃の弾を打ち尽くすのはほぼ同時だった。カイトは体勢を崩し力尽きるモンスターから飛び降りる。銃口は血で汚れている。弾もないため、この銃は使い物にならない。カイトは銃をその辺に捨てる。


「まずは1体」


最後の残ったモンスターと丸腰のカイトは向き合う。モンスターは仲間を2体も殺されたことに怒っているのか興奮している。今にも突っ込んできそうなほどに息を荒くしている。もう同じような手口は使えない。正真正銘の丸腰でどうやって戦うのか。悩むカイトだったがその瞬間、上空を何かが通過した。真っ黒なそれは目にも止まらぬ速さでモンスターの方へ向かって行く。


この一瞬の出来事をどう表現すべきか悩ましい。しかし強いて例えるのであればまるで巨大なヘビが獲物を丸のみにするために巻き付いているように見えた。数回の煌きがあったかと思えば、それはカイトの真後ろに着地した。あまりにも速くまるで風のように姿がはっきりとしなかったがカイトには誰なのかすぐに分かった。


背筋にゾワリと悪寒が走る。そしてその恐怖に敬意を表するかのように先ほどまで生きていたはずの巨大なモンスターの体がバラバラに崩れ落ちた。あまりにも静かすぎる死の瞬間であった。恐らく切り刻まれたモンスターも自分が斬り刻まれ殺されたことに気が付いていないのではないだろうか。



振り返ればそこには風に吹かれて長い黒髪を揺らす見慣れた幼馴染の姿がある。カイトは目柱が熱くなるのを感じる。危機的状況を救ってくれたヤミコが本物のヒーローに見える。何だか数日ぶりに顔を見たように感じるが実際には半日程度。今までの人生でこれほどヤミコに会いたかったことはなかったかもしれない。


「ありがとうございますぅ‼」


目尻に涙を浮かべヤミコに泣きつこうとするカイトだったが普通にぶん殴られた。比喩表現とかではなくマジでシンプルに殴られた。右のグーで。少年漫画顔負けの胸熱展開だと思ったのに殴られたカイトはしょんぼり顔で自分の左頬をさする。


「な、何で殴るの?」


「え、好きだから?」


「こわぁ!?」


「それより一体どういうつもり?突然出て行ったかと思えば夜になっても帰ってこないし、かと思ったら遠くからドンパチ音が聞こえてくるし」


「実はかくかくしかじかで・・・」


カイトはこれまでの経緯をヤミコに説明する。


「つまり『私以外』の女の子のために頑張っていたと」


「うーん何故その情報だけをピックアップしてしまったのか。・・・まあ、でもそういうことだな」


ヤミコは少し考えると斧を担ぐ。


「中央警察もいずれ来る。だから私はそれまでギャング集団を押さえる。カイトもそれまでにリーダーを確保して中央警察が来る前に私たちは離脱。鉢合わせると面倒なことになるしそれでいい?」


「了解‼」


最も面倒だったギャングたちの相手をしてくれるのはありがたい。今これほど心強い味方はいないだろう。本来はギャングのリーダーであるリタを直接中央警察に引き渡そうと考えていたが騒ぎが大きくなり過ぎたこの状況で中央警察と遭遇するのはマズい。懐疑的な目で見られるのも身元調査をされるのも面倒だ。だからその前にギャングたちをまとめてボコってここから消える。


ヤミコは再集結しつつあるギャングたちのところへ、カイトはアメリを追いかけてそれぞれの向かうべき場所へと駆け出す。




カイトたちがモンスターを倒していた間、アメリはかつての仲間であるリタと対峙していた。周囲には他に誰もいない。仲間たちと散り散りになったのは偶然だがまるで全ては用意されていて、そうなるのが必然であったかのように2人だけの空間がそこにはあった。


「逃げたかと思えば、結局戻ってきたのかい?」


「逃げられないのよ。いや、逃げるわけにはいかない。この決着はアメリが付けなきゃだから」


まるで荒野に立つガンマンのように、2人は逃げも隠れも小細工もせず張り詰めた空気の中で互いを計り合う。アメリの手は脚のホルスターの大きな得物を引き抜こうと既に構えられている。静かな時だけが流れていく。その短いはずの静寂は1分、10分にも引き延ばされた時間のように感じる。そしてついに時は大きな波を立てる。


先に動いたのはリタでそのすぐ後にアメリが動いた。しかし響いた銃声はたったの1発だけだった。引き金を引いたのはアメリだった。彼女の発射した弾丸は火薬と銃内部の加速装置によってリタが構えた銃を破壊し、そのままリタの肩を貫いた。リタは引き金を引かなかったのではなく引けなかったのだ。


リタは傷口を押さえる。しかしそれでも隙間から血が流れ出る。


「やるようになった、じゃないか」


「リタに・・・みんなに教えてもらったことなのよ」


アメリはリタに容赦なく銃口を向けながら近づいていく。弾を外さない距離まで来て「いつでも撃てるぞ」とでも言うようにエレクトロ·ホーネットの撃鉄を起こした。リタの頭に狙いをつける。


「最後に聞いておく。何であの時裏切ったの?」


「はっ!何を言うかと思えば。金のためだって」


しかしアメリは笑い飛ばすように言うリタを遮る。


「嘘。嘘をついてる」


「何を!?」


「あの時はわからなかったけど今なら少しだけわかる。この3年間考えたの。金が理由で裏切れるような仲じゃないって。もっとそれよりも大切な理由があるんじゃないかって」


「ガキが一丁前に大人を語るんじゃないよ‼」


「アメリはもうガキじゃないよ‼」


「いやガキだ‼」


これまで見せてこなかった2人の感情の爆発がぶつかり合っては朝焼けの空へと吸い込まれて消えていく。互いに譲れないものがある。それが具体的に何なのかは本人たちにしかわからない。

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