作戦の結果
カイトがやることはとてもシンプルだった。ただ暗い夜空に向かって1発弾丸を放つだけだ。静かな空間に銃声が響き渡り再び短い静寂が訪れたかと思えば騒がしく大量の足音が近づいてくる。さらにこれでもかとでも言わんばかりに上空にはいくつかの照明弾が打ち上げられた。照明弾の灯りは照明と名前がついているだけあって非常に明るくスポットライトでも当てられたかのようにカイトの周りだけが異様にい明るくなった。
ギャングたちはカイトを見つけると銃を構えて取り囲む。前回取り囲まれた時とは比にならないほどの数と状況の不利だ。カイトはその光景に少しだけ怖気づきそうになるがあくまでも虚勢を張り続ける。カイトは囮だ。アメリがリタを見つけ捕まえるまでは逃げることはもちろん、降参も許されない。アメリが命がけだというのに年上のカイトが逃げ出しては男として一生の恥だ。
「お前、レギンレイヴか?」
ギャングの1人が問う。先ほどの見張りもそんなことを言っていた。聞く限りでは傭兵集団らしいがもちろんカイトはそんな物騒な集団には属していないし傭兵でもないし、存在を知ったのもつい先ほどでこいつらが何を言っているのかさっぱりわからない。
「・・・答える義理はない」
素直に違うと言えばいいのに何故そこで格好をつけてしまうのか。そういうちょっとミステリアスな感じが格好いいとでも思っているのだろうか。身分を隠したいというのはあるがこんなキザな方法でなくてももっと良いやり方があっただろう。カイトは格好つけたことを自分で少し後悔する。
「じゃあ死ねぇ‼」
「判断が早いねぇ!?」
一応まだ身元不明の敵なのだから熟考までいかなくても、もう少し色々考えてみても良かったのではないか。カイトはそう思うがどうやら敵は違うらしく『疑わしきは罰せよ』ですらなく『まあとりあえず罰しよ』という軽いノリでとりあえず引き金を引いてみて違ってたらその時はその時というスタイルのようだ。これが本場のアウトローというやつなのかもしれない。
カイトは向かってくる弾丸の嵐を潜り抜ける。
「悪いがこの数じゃ手加減できないからなっ‼」
そう言ってカイトも銃の引き金を引く。放った弾丸がギャングたちに命中し銃声の騒音の中に人の悲鳴が混ざり始める。しかしすぐに弾切れを起こした。敵の数に対してカイトの持つ弾丸はあまりにも少なすぎたのだ。近接戦に切り替えることにはなったがカイトが思っていたよりも苦労はしなかった。
その理由は簡単なもので相手が人間だからだった。どれだけ数がいようと所詮は人間。身体能力ではカイトに勝つことは出来ない。そして何よりも機械生命体と違いギャングたちは味方への誤射を恐れた。機械生命体は基本的に誤射をしない。発射した弾丸がどういった軌道を描くのかがわかるから恐れず攻撃できる。前に起きたマルタニ鉱山での事件でもそうだった。
しかし人間には弾丸の軌道を正確に見切るなどという芸当はできない。「もしかしたら」という考えが引き金を引く判断を鈍らせる。だから敵を盾にするように戦えば必然と弾丸の嵐は止む。しかしそれとは逆にカイトは人間を盾にしつつギャングの腰から拳銃を奪い引き金を引く。
あまりにも一方的で卑怯な戦い方。だが敵も黙ってやられているだけではない。
「構うな‼撃て撃て‼」
「ま、待て‼」
ギャングたちは盾にされている仲間の制止に耳を貸すことなく仲間ごとカイトを撃つ。弾丸は盾にしていたギャングには命中したがカイトには1つとして命中することはなかった。敵もなりふり構っていられるような状況ではなくなってきたという様子だが仲間を撃つのはさすがに度が過ぎている。そこまでしてカイトを殺したいのか。そこまでしてこの組織にしがみつく理由があるのだろうか。この戦いにそこまでの価値があるのだろうか。
「クズが」
カイトは静かにそう呟く。弾丸の嵐の間をすり抜けていく。カイトの中で怒りを通り越して呆れや諦めにも近い感情が沸いて出た。目の前にいるギャングたちは正真正銘間違いなくロクでなしだ。それでも捨てられないものがあると思っていた。しかし実際には違った。人より組織を重視できる彼らはギャングとしては正しいのだろう。だが人としてはクズだ。
仲間を撃つなどカイトには考えられない。それほどの理由などどこにもない。
「おいどうなってんだ!まったく当たってねえぞ‼」
仲間が同じ仲間に撃ち殺されたというのにギャングたちは気にもしない。彼らが見ているのはただ1人。
目の前の強敵だけ。カイトだけだった。そんな様子を前にしたカイトの拳に力が入る。
「・・・ここからの攻撃はちょっとばかし痛いぞ」
遠くで銃声とギャングたちの声が聞こえる。空には照明弾が上がっている。アメリはその様子を物陰から窺っていた。カイトの陽動が始まったのだ。見回りをしていたギャングのほとんどが騒ぎの方へと向かって行った。あっという間に建物の周囲の警備は驚くほどに手薄になった。それほどカイトが場を荒らしているということだ。
アメリはその混乱に乗じて建物の中に侵入しリタを探した。結果リタはすぐに見つかった。特に焦ったような様子はなく冷静に部下たちに指示をしていた。アメリは銃を手に物陰から静かに機会を待った。リタが1人になるタイミングを。そしてそれはすぐに訪れた。リタの周囲にいたギャングたちがいなくなった。恐らくカイトのところに向かったのだろう。
リタは相変わらず冷静なように見えるが自分周辺の警備を手薄にしてでもカイトに戦力を裂いているということは実際はあまり余裕がないということだろう。
「ガキ1人に何を手間取っているんだか」
「1人じゃないのよ」
アメリはリタの背後の物陰から出て銃を向ける。
「撃ってみるかい?」
「覚悟ならある。でもその前に聞きたいことがあるのよ」
アメリは息を吸った。この言葉を、この疑問をようやく自分の口から吐き出すことができる。もう叶わない望みだと思っていた。あの日、あの時、あの場所にいた人たちは誰も生き残っていないと思っていたから。自分だけが何も知らなかった。自分だけが真実から遠ざけられていた。それがどれだけもどかしい日々だったか。
「なんで、みんなを殺したのよ‼」
それだけだった。それだけが知りたかった。何故バルカンが、エドが、シェリルが殺されなければならなかったのか。何故『すべて』を奪われなければならないのか。大切なはずのものを何故そんなに簡単に失えるのか。
「まあそうだねぇ・・・金のためだろうね」
「そんなことで」
リタはゆっくりとアメリの方を向く。
「そんなこと?金、もっと言えば欲望と生きることこそがアタシら。それが悪人だ」
銃を向けられていてもリタは恐れることなく変わらぬ調子で話し続ける。
「アンタだってわかっているだろう?殺して、奪って、生き残る。そうしてきたはずだ」
否定はできない。過程は違えど奪って生きてきたのはリタもアメリも同じだ。そしてこれまでその生き方はこれからも続いていくのだろう。
「なら疑問が入り込む余地なんてないはずさ」
リタがゆっくりとアメリに近づいていく。アメリは銃を構え直す。引き金を引かなければやられる。この状況で引き金を引かなければいつ撃つのか。「引き金を引け」と頭の中では思っているのに指が動かない。
「手が震えているじゃないか。覚悟はあったんじゃなかったのかい?」
撃てば間違いなく絶対に当たるほどの近さ。しかし指が動かない。目の前の相手はこんなにも憎いのに、今こそ仲間の仇を討てるというのに肝心なところで。人差し指を少し動かすだけの簡単な動作ができない。
「覚悟が足りないんじゃないのかい?」
リタはアメリの小さな肩を叩いてその場を去った。アメリはしばらく銃を構えたその状態から動けず、リタが完全にいなくなってから全身の力が抜けたように膝から崩れ落ちた。




