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幼馴染が強すぎる

森を抜けてわかったことはこの世界は思っていたよりも自然が広がっていたということ。機械生命体(メタリカント)などという機械の体を持つ生命体がいるのだからもっと自然に機械が侵食していると思っていた。もちろん見慣れない異質なものが少々あるのは間違いないがそれが周囲を飲み込んでいるなどということはなく、どちらかと言えば見慣れた普通の自然がどこまでも広がっている。


太陽があり、雲があり、青空がある。風があって、森の匂いがする。


「見たところ近くに集落はないみたいだな」


「ええ。近くの街まではここから1.5キロくらい離れているみたい」


「何で知ってんの?」


カイトがそう聞くとヤミコは自身の手首についている腕時計のような丸い装備を見せる。ヤミコがスイッチを入れるとその腕時計のような装備からSF映画に出てくるホログラムのように、映像が空間に浮き上がって表示される。表示されているのは赤い矢印とギザギザとした模様やら数字やら。


「これ、地図か?」


「うん。この機械は名前はSAD。地図の他にもいろんな機能がついてる万能腕時計」


カイトは自身の手首を見てみるがそんな便利な時計は付いていない。どうやらヤミコが転生時に徳ポイントで買ったプレミアムパックの中の1つらしい。


「便利だなプレミアムパック」


「私さっきの斧とか、この時計以外にもいろんな能力があるのよ」


「たくさん買ったって言ってたもんな」


「身体能力超上昇、生命力超上昇、魔力超上昇、運気超上昇、鑑定能力とか後は」


「も、もういい」

とりあえずヤミコにとてつもない数の能力があるのはわかった。


「カイトはどんな能力を持ってるの?」


「俺は、大したもんじゃねえよ。この銃とナイフくらいのもんだ」


「その頭のゴーグルみたいなやつは?」


「ゴーグル?」

カイトは自分自身の頭に触れてみる。するとそこには確かに角ばった硬い何かがあった。頭には特に重みがあるわけではなかったので全く気が付かなかった。一体いつからあったのか、いやカイト自身、ヤミコに会ってしまったパニックや機械生命体(メタリカント)との遭遇のせいで気が付かなかっただけでずっと頭のところに最初からあったのだろう。


カイトはそのゴーグルをかけてみる。


『網膜認証、異常なし。適正使用者』


そんな声が聞こえた。まるでイヤホンでもつけている時のように頭の中に響くような感覚だった。

ゴーグルの中から見える景色は普段の肉眼で見る景色と変わらない。しかし隣にいるヤミコを見てみると『人間 女性 ヤミコ』と小さく表示される。他にもすぐそこの木を見ると『杉の木』と表示されたり、手の中の機械生命体(メタリカント)のパーツを見てみると『アイゼンヴォルフ脚部パーツ』と表示される。


「何か見える?」


「見ているものの名称みたいなのが出てくる。見ているものが何なのかを教えてくれるゴーグルみたいだ」


このゴーグルが一体どういった原理で見ているものの名前をピタリと当てているのかはわからないが

これがとても便利な道具だというのはわかる。この世界についての知識はほぼ皆無。しかしこのゴーグルがあれば目の前にあるそれが一体何なのかが一目でわかる。価値があるかないか、強敵かそうでないか、それが簡単にわかるのはこの先の生活で大きく役に立つはずだ。


「そういえばヤミコ。あの大きな斧はどうした?」


「ここにあるわ」

そう言ったヤミコの手にはいつの間にかあの巨大な刃を持つ斧が握られていた。


「剣、ハンマー、ガンブレイド?とか他にも色々あっていつでもどこでも出したりしまったりできるの」


「これが・・・プレミア」

カイトは思わず息を呑む。いつでもどこでも出し入れ可能な巨大な武器。明らかに現実離れしている能力だがそれこそがプレミアムパック。チート人生を100パーセント、いや120パーセント楽しむための特別なパック。エースパックを買ったカイトとは一線を画す能力だ。


「というかさっきから思っていたんだが」


「?」


「ちょっとくっ付き過ぎじゃない?歩きにくいんだけど」


先ほどからカイトの腕にはヤミコがべったりくっ付いている。その密着具合は間違って接着剤で指と指がくっ付いてしまい取れなくなってしまった時と同じくらいビッタリくっ付いている。


「・・・・・?」


「その「何を言っているの?」みたいな顔をやめろ。近いんだよ距離が」


「何か問題があるの?」


「あるだろ色々と。歩きにくいし、誤解を招きそうだし」


「大丈夫。愛って重たいものでしょ?だから側にあると多少は歩きにくくなっちゃうものなのよ。それよりも誤解って何?私たちの間に一体どんな誤解が生まれるの?」


ヤミコの顔は笑っているが、その目の奥は一切笑ってはいなかった。カイトはそれを察しつつ、勇気を出して言う。


「我々は幼馴染ではあるが別に付き合っているわけでもないし、もう少し互いの距離感に気を遣うべきだと思うのだよ」


「それなら問題ないわね。だって私たちは運命で結ばれているんだから。例え今付き合っていなくてもいつかは結婚するわけだし、今の内から近くても何の問題もなし」


「「付き合ってない」のに確定で「結婚する」に飛躍させる錬金術やめてくれない?」


無から有は生み出せない。それが錬金術だとどこかの漫画でも言われていたような気がするがどうやらヤンデレはそんな常識や限界すら容易く打ち消せるほどの力を持っているらしい。愛は全てを覆すということなのだろうか。いや、確定でそういうことにした方がいいのかもしれない。何故なら現に誰かへの愛ゆえに動く少女がいるのだから。




くっ付きたがるヤミコをどうにか引き剥がしつつ、カイトは目的地へと到着した。


『アーケイド』


そこは中央にセントラルと呼ばれる巨大な塔のような建築物が立ち、そこを中心に街が、そしてそれを守り仕切るように円状の壁が。そしてその外側にもう一つの巨大な街、そしてまたそれを守るための巨大な円状の壁がそびえ立っている。一言でいえば超巨大都市だった。


「・・・デカいな」


「・・・大きい」


セントラルと都市全体を囲む巨大な外壁を間近で見ていたカイトとヤミコは空を見上げて呆気にとられていた。2人はこれまで生きてきた中でこんなにも巨大な壁を、都市を見たことがなかった。一体どうやってこんな巨大な壁を作ったのか、一体どれだけの時間がかかるのか想像もつかない。


2人は都市の入口へと歩いていく。巨大な都市というだけのことあって入口も大きく、警備も厳重だった。


「お前たち。そこで止まれ」


カイトとヤミコ、2人を呼び止めたのは入口の警備をしていた男だった。男は防弾チョッキのような防具を着ていて顔はヘルメットで覆われていて表情はわからない。体格と声でしか性別を判別することができない。さらに男は両手にアサルトライフルのような武器で武装している。正面から戦おうとすれば一瞬でハチの巣にされてしまうだろう。


「身分証明書の提示を」


カイトとヤミコは互いに顔を見合わせる。異世界に来て早々のピンチだ。身分証明書などと言われても2人はこの世界に来たばかりで身分を証明できるものなど持っていない。持っているのはチート能力と機械生命体(メタリカント)のパーツくらいだ。しかしここで身分証明書を提示できないなどどう考えても不審な人物。ここを乗り切る方法をどうにかこの場で見つけなければならない。


「はい」


そう考えていた時期がカイトにもあった。なんと隣にいたヤミコが何食わぬ顔で免許証のようなカードを警備員に渡したのだ。


「問題ない。通れ」

警備員がカードを返す。


「行きましょう」


「え、あ、うん」

カイトは何が何だかわからないままヤミコの後をついていく。


「これ渡しておくわ」

そう言ってヤミコに渡されたのは先ほどの免許証のような四角いカードだった。見るとそこにはカイトの顔写真、氏名、生年月日、職業が書き込まれていた。指名にも生年月日にも間違いはない。顔写真は一体いつ撮影されたものなのかわからないがその顔は間違いなく自分だった。


職業の欄には「ハンター」という聞いたことのない職業が書かれている。


「こんなもの一体どこで?」


「ポーチに入ってたの」


「そうか・・・」


(何でヤミコのポーチに俺の分まであるんだよ・・・)


なぜヤミコがカイトの分のカードを持っているのか色々と疑問を覚えるがとりあえず最初のピンチは運の良いことにどうにか乗り切れた。


カイトたちが進んだその先にあったのはアーケイドの街並みだった。いくつもの建物が並び、何人もの人々が歩いている。中世の街並みを彷彿とさせる建物もあれば近未来的な鉄の建物もあったり、鉄板を組み合わせて作ったような質素な建物もあり、他では見ないような統一感のない街並みだった。


そして遠くにはいくつもの大きなビルが建っている。中央とこの街並みを見比べる限り、外壁側のこの街は割と田舎の街なのかもしれない。


カイトは周りをきょろきょろと見回しながらどんどん街の中へと入っていく。街に入った瞬間、それまでの鉄と自然しかないどこか静かな雰囲気は一瞬で消え去った。忙しそうに早足で歩く作業着の男、あちこちを走り回ったり、玩具か何かで遊ぶ子供たち、露店の店主が客を呼び込む声や人々の談笑。街の中はとても賑やかだった。


「これだけ人が多いと道に迷っちゃいそうね。はぐれないように手を繋ぎましょう」


「ああ。ん?今なんて?」

周囲の光景に夢中になっていたカイトは聞き返す。


「はぐれないように手を、じゃなくて腕を組みましょう」


「途中でグレードアップさせるな。別に大丈夫だろ。子どもじゃあるまいし」


「でもはぐれたくないわよね?」


「しっかり隣を歩いていれば大丈、」


「はぐれたくない。わよね?」


「・・・はい。でも手をつなぐだけにしてください」


勝てなかった。ヤミコの背後から出る謎の黒いオーラの圧とヤミコ自身の笑顔から発せられるその表情とは正反対の「絶対従わせる」という強力な圧のダブル圧コンボの前にカイトは屈してしまった。腐れ縁の幼馴染は顔では笑っていたがやはり目が笑っていない。


「よし、じゃあこの部品を換金できる場所を探そう」


カイトはヤミコの手を引いてアーケイドの街を歩きだした。といっても目的の店はそれほど歩かなくても見つかった。見つけたのはある露店。その露店には大量の大小さまざまな機械部品が並べられ、店の横に置かれた黒板の看板には「機械部品買い取ります」の文字が大きく書かれていた。どうやら機械部品を取り扱っている露店らしく、その店の雰囲気は電気街で見かけるパーツショップを思わせる。


「いらっしゃい」


店の店主は顎にモジャモジャの髭を生やした大柄の男だった。


「買取をお願いしたいんですけど」

カイトはそう言って持っていた機械生命体(メタリカント)のパーツを全て店主の男に渡す。


「買取ですね。どれどれ」

男はそれぞれをパーツを細かくじっくりと見る。


「脚部パーツと眼と小型コアか。そうですなぁ全部で600モンドといったところですな」


モンドはこの世界の通貨の単位の1つだ。


「うーん600かぁ」

パーツに傷などはつけないように、そしてまともに使えるように取り外したつもりだ。正直なところもう少し高く売れると思っていたがコアも含めてカイトが思っていたよりもあまり価値のあるものではなかったようだ。一文無しのカイトとしてはせめて1000モンドは稼ぎたいところだ。そのためカイトとしては600モンドは素直に頷きたくない買取価格である。


「その辺の店よりは良い方ですぜ?」


600という数字があまりにも微妙すぎる。他の店に行けばもっと高く買い取ってくれるような気もするし、ここよりも安くなってしまう気もする。先に他の店でもどのくらいの根が付くのか確かめた方がいいのかもしれない。


「他の店を見てから検討します」カイトはそう言うつもりだった。しかしその言葉を遮って言葉を発した者がいた。


「もっと高く買い取って」

口を開いたのはヤミコだった。


「そう言われましてもなぁ」


「こんなに安いわけないでしょ。もっと高く買い取って」


ヤミコはそう言ってどこからともなく取り出した自分の背よりも巨大な斧を店主に向ける。


「ひぃっ!」

店主からは当然のように悲鳴が上がる。それでもヤミコは顔色一つ変えずにグイグイと斧を店主の顔に押し付ける。そんなヤミコの突拍子もない行動に驚いて思わず固まっていたカイトは我に返りヤミコを止める。


「暴力沙汰はやめろ!?」

しかしカイトの力ではチート能力満載のヤミコを抑え込むことはできず、ヤミコは無視して店主を脅迫し続ける。


「買い取るの?買い取らないの?」


「買い取る‼買い取るから‼1000モンド‼それが一般的な価格だ‼」


「私たちを騙そうとした慰謝料として追加で500モンド」


「わかった!1500モンドきっちり払う!」

店主の男はレジを開くとそこから数枚の硬貨を取り出してヤミコに渡した。硬貨を受け取ったヤミコは満足そうな表情を浮かべて店主に言う。


「次私たちを騙そうとしたら、店に機械部品以外のものが並ぶことになるわよ」

その表情と言葉に店主だけでなくカイトまでも背中に寒気が走った。



店を後にして街の中を歩きながら2人は話す。

「店主が嘘ついてたの知ってたのか?」


恥ずかしいことにカイト自身は店主が嘘をついていることにまったく気が付かなかった。パーツの本当の買取価格など異世界に来たばかりで知るはずもなく、アーケイドでの価値さえ知らない。ヤミコがいなければ騙されて格安でパーツを譲っていただろう。


「ううん。全然」


「じゃあ何でわかったんだ?」


「だってカイトが機械生命体(メタリカント)から取り出して、ずっとカイトの腕の中にあったものなんだから600モンドわけないじゃない。最低でも1000、私だったら5000モンドまでは出しているところよ」


「えぇ・・・」


あまりにも意外、いやというよりあまりにもぶっ飛んでいる理由にカイトは困惑を隠せない。ヤミコは機械生命体(メタリカント)のパーツの相場を知っていたわけでも、誰かの嘘を見抜くような能力を持っていたわけでもなく、ただ「カイトが持っていたものだから」という独自の理論を展開していたのだ。カイトラブ勢ヤンデレのヤミコらしい考え方といえばそうなのだろうがあまりにも破綻している。


(心配だなぁ。いろいろと)

今回は結果オーライというか、最終的には良い方向へと繋がったわけだが一歩間違えれば犯罪者になっていたかもしれない。愛ゆえの暴走。流石ヤンデレというべきかやはりヤンデレというべきか。


この先一体どんなことになってしまうのか。不安の募るカイトであった。

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