第6.5話 惰眠は究極の時間の浪費だ
睡眠は時間の無駄だ。
八時間寝るとしたら、一日の三分の一もの時間を無駄にした事になる。
もちろん疲れを取るために睡眠は必要な機能だとは分かっている。
でも! それでも! 短い時間で睡眠を済ませた方が絶対にお得なのだ。
俺の平均睡眠時間は零時から四時の四時間。
毎日同じ時間に寝て起きる事で、極限まで睡眠時間を減らしている。
本当ならもっと削りたいのだけれど、これ以上減らすと日中の活動に支障が出始めるので断念した。
こればっかりは慣れでどうにかなる問題ではなかった。
それだけではない。
寝る二時間前からはスマホも見ないようにしたり、安眠グッズを用意したりと寝る事に関しては一切の妥協をしない。
そうまでして俺は人生というゲームのプレイ時間を確保しているのだ。
ソシャゲのイベントほどプレイ時間が順位に直結するわけではないが、人生と言うゲームも如何に平等に与えられた時間を上手く使うかがカギになると信じているから。
※ ※ ※
──4:30
身支度を整え終えて、今日の活動を始めて行く。
同じ時間に起きているとは言え、この時間はまだ意識が覚醒しきっていない。
だからこの時間は話題になりそうな流行の音楽を聴きながら、昨日の復習をするのだ。
夏休みの課題はとっくの前に終えてある。
それでも勉強する理由は当然、夏休み明けのテストでいい点を取るためだ。
うちの高校は二学期制で、期末テストが何と夏休み明け一週間後に行われる。
これはつまり夏休みの間もちゃんと勉強しておけよ、という言外のメッセージなのだろう。
先生の話によると毎年この夏休み明けのテストでは勉強したかどうかが如実に表れて、中間テストの順位から大きく飛躍する生徒も、墜落する生徒もいるらしい。
高校に入って初めてのテストでは20位だった。
ノーマルレアの俺は勉強ができるわけではない。
だから人の二倍も三倍もやって、地頭のいい奴らに食らいついてやるんだ──
──6:30
復習がひと段落した所で朝食を取る。
さすがに朝から料理する気にもなれないので、普段はパンを焼いてかじるか残り物の処理をするかだ。
今日は残り物がなかったのでパンを焼いてコーヒーで流し込む。
冷蔵庫がもう空っぽだ。
莉愛が来てから食材の減るスピードも倍になっている。
今日あたりまた買い出しに行かないといけないかもしれない。
……ちなみに莉愛はまだ起きていない。
──7:00
食後はどうしても眠くなるのでこの時間は録画してある連続ドラマを見る事にした。
今一番流行っているドラマらしく、SNSでも頻繁に話題になっているのでチェックする事にしている。
学校の友人曰く、見ていないと人生の半分損するらしい。
ちなみに俺は損、という言葉に弱い。
効率厨の哀しい性とでも言うべきだろうか。
どうやって得するか、より如何に損をしないか、という視点で考えてしまうのだ。
だからタイムセールとか期間限定品には弱い。
ついつい買いすぎてしまう。
欠点だとは分かっているが、染みついた性根は中々変わってくれないらしい。
──8:00
ドラマを消化した後は再び勉強を始める。
今日は午後からバイトがあるので、その分しっかりやっておかないと……。
まずは苦手な数学から手を付けていく。
数学は苦手だし、嫌いでもある。
理不尽な科目だからだ。
勉強時間と点数が全然比例しない。
できるやつは授業を聞かずとも、何かすぐにコツの様なものを掴んで習っていない部分の問題まで解き始めたりする。ズルい。
その点暗記科目は大得意……というより好きな科目だ。
覚えさえすれば誰だって点が取れる。
もちろん暗記がアホみたいに早いやつもいるが、それは例外だ。
数学と違って、教科書に書いてある事さえ覚えてしまえば100%高得点を取れるんだから平等だ。
──11:00
勉強も一区切りついたので、ここらで気分転換に買い物に行く事にした。
チラシを眺めて今日買う食材を何となく決めながらスーパーに向かう。
……莉愛はまだ寝ている。
献立ありきで考えて買う買い方は素人だ。
安いものを買って、それから献立を組み立てていくのだ。
それはちょうどカードゲームでデッキを組み立てていくプロセスに似ている。
中心となるカードを決めて、それに合うカードを組み合わせていく。
不足の事態があった時のサブプランまであれば最高だ。
──12:00
買い物から帰ってきて、そのまま昼食作りを始める。
ご飯を炊くのが面倒なので、献立は焼きそばに決まった。
ちょっとだけ残った野菜の切れ端も美味しく食べられる便利なメニューだ。
手慣れたもので、数分で焼きそばは出来上がった。
※ ※ ※
こうして俺の午前中が終了した。
ああ、何て効率的で完璧な午前中の過ごし方なのだろう。
一切無駄のないスケジュールだ。
我ながら育成が、時間の使い方が上手い。
俺は満足感で満たされていた。
……さて、さすがに莉愛を起こしにいくか。
莉愛と同居する事になって数日しか経っていないが、莉愛がお寝坊さんだと言うのはすぐに分かった。
多分深夜まで何かしらやっていてそのまま寝落ちしてるのだろう。
階段を昇って俺の部屋の向かいにある莉愛の部屋。
そのドアをノックした。
「莉愛~、昼飯できたぞ~」
「ふぁ~い……」
……珍しく反応があった。
というか反応があったのは初めてなんじゃないか?
部屋の中でバタバタと音がして、すぐにドアが開かれた。
「おはよう、マコくん」
「おはよう、莉愛」
睡眠は時間の無駄だ。
「ん~よく寝た!」
「もう昼だぞ。寝すぎじゃないか?」
「あはは……ごめん。気持ちよくてつい」
なのになんで……莉愛はこんなに満ち足りた様な顔をしているんだろう?




