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第6話 彼女はどこまでも自然体だ

 ボーっと皿洗いをしていたらいつの間にか一時間近くが経ってしまっていた。

 だって仕方ないだろう?


 あんな衝撃的な光景を見て何があったんだ? って思わずにいられる奴がいるのか?

 初見殺しなイベントの連続で俺の精神は既に疲弊しきっていた。


 明日は筋肉痛ならぬ精神痛でも起こってしまいそうだ。


 結局あの半裸の美少女イラストの描かれた抱き枕が何なのか、という質問をするより先に莉愛は寝てしまった。

 呆気に取られている俺が隣にいるのにも関わらず、だ。

 そんな事は何でもないかの様にベッドにもぐりこんで、慣れた様子で抱き枕を抱えて即座に穏やかな寝息を立て始めた。


 ツッコミたい所が多すぎて処理落ちしかけて、脳がフリーズしていた俺はそのまま数十秒は立ち尽くしていたと思う。


「この五年の間に何があったんだよ……」


 五年と言う歳月が人を変えてしまうのに充分な月日だと言う事を身をもって知ってはいるが、実際にその変化を目にすると思考にバグが生じてしまう。


 心当たりがないわけではない。


 莉愛は昔からセータームーンとか、プリキュラとか、そんな感じの美少女戦士系のアニメが好きでよく見ていた事は覚えている。

 小学校中学年くらいになると次第にそう言ったアニメを見るのを卒業していく傾向はあるが、莉愛は引っ越す直前になっても熱は冷めずに毎週欠かさず見ていたと記憶している。


 ……それがどうしてああなった。

 

 大きなお友達になって、高校生になっても変わらず見続けているとかならまあ分かる。

 高校の友人にも似た様な奴はいる。


 その趣味がどう拗れて変化したらああなってしまうんだ?

 アメリカにいた五年間の間に何があったのか、気になって仕方がない。


 だが……聞けない!


 それを聞くとなると当然俺の事も話さないといけなくなる。

 俺にとってトラウマでしかない記憶を掘り起こすのは避けたい。


──となると俺が取るべき選択は……?


 考えるのに集中し過ぎたせいで、皿洗いは一向に進まなかった。



※ ※ ※



 本人の宣言通り一時間を過ぎても一向に起きてくる気配がないので起こしに行く事にした。

 どうやらしっかりとガチ寝しているらしい。

 ドアを強めにノックしても、中からは何の物音もしなかった。


「莉愛、入るぞ~」


 色々あって頭がパンクしているせいか、それともまだ幼馴染とは言え異性の部屋に入るという認識じゃないのか、躊躇なく部屋に足を踏み入れる事ができた。


「お~い、起きろ~。一時間経ったぞ~」


 近づきながら声を掛けてみたが、ピクリとも動かない。

 背中を向けたままスースーと穏やかな寝息を立てている。


──声を掛けただけじゃ起きそうにないな……。


 少し躊躇われるが背中でも揺すって起こそうか、と考えて近づくと──

 目が合った。

 莉愛と、ではない。

 莉愛の抱えている抱き枕のイラストの美少女キャラと、だ。


 少し頬を赤らめ、恥ずかしそうな表情をしているそのキャラを見ているとどうにもムズ痒い気分になる。


「お~い、時間だぞ~」


 今度はさっきより近くで、それなりに大きな声を掛けながら、布団越しに肩を揺すってみた。


「……う~ん」


 擦れたうめき声をあげた莉愛の手が抱き枕から離れ、仰向けになった。

 目を開けようとしているが、長い睫毛が揺れるだけでどうにも開かないらしい。


 もう一押しだと見て、畳みかける様に肩を揺すった。

 首の座ってない赤子の様に頭が揺れるのが妙に面白い。


 数回揺すった所でようやく目が薄く開いた。


「あと……五分……」


 寝ぼけ眼で寝言のように莉愛が呟いた。

 

──よし分かった。五分後だな。


 とはなるはずもない。

 こういう時は後五分が永遠に続くのだ。

 意識が戻りかけた今、起きるまで繰り返さないと余計に面倒な事になる。


 放っておくと五分の間に再び意識は沈んでいく。

 意識が沈みかけている所を起こすのはかなり苦労するのだ。


「ダメだ。時差ボケになりたくないんだろ! 起きろ~!」


 とどめの一撃──肩の窪みにギュッと力を入れた。


「ひゃっ!」


 突然予想だにしない刺激を加えられた莉愛が艶っぽい声を上げてびくりと体を震わせた。


……しまった。両親を起こすのと同じ要領でやってしまった。


 浅慮差に若干後悔しながらも、効果は抜群だった様だ。

 ほとんど開いてなかった莉愛の目はぱっちりと開いている。


「ん~……? おはようマコくん」

「おはよう。悪いな、気持ちよく寝てたとこ」

「ううん。むしろありがと。今起きないと本気でヤバかった」


 優しく微笑みながら、莉愛はむくりと起き上がった。

 それと同時に布団がめくれ、抱き枕の全貌が露わになる……。


 見間違いじゃない。描かれているイラストはR指定がついていそうな半裸の美少女キャラだった。


「ん? ああこれ?」

「えと……うん。何これ?」


 視線に気づいた莉愛が抱き枕をひょいと持ち上げて見せつけてきた。

 そこには微塵の躊躇いも恥じらいも見られない。

 どんな精神構造してるんだよ。


「これはねぇ~、魔法少女ラリコたん! どう、可愛くない?」

「あ、ああ。そうだ……ね?」


 可愛い可愛くないとかは置いておいて、他にあるだろ。ツッコミどころ。

 どエロい恰好した美少女キャラを笑顔で男子高校生に紹介してくるな。

 そもそも少女にそんな恰好させたらダメだろ、アウトだろ。倫理的に。

 アメリカってそういうのに対する規制めっちゃ厳しいんじゃなかったっけ?

 アメリカ的にOKなのかそれ!?


「私、魔法少女もののアニメとかがめっっっちゃ好きでさ。その中でもこのラリコたんが一番の推しなんだ!」

「ラリコたん……?」

「あ、船便の荷物にブルーレイ入ってるから届いたら一緒に見ようよ」


 アグレッシブ!!


 急に早口で言われても頷けないから!

 もうちょっと思考を整理する時間をくれよ!


「って……突然ごめんね。また暴走しちゃったよ」

「いや別に謝るような事は何もないんじゃないか?」

「ママにも言われてたんだ。あんたはもうちょっと考えてから話なさいって」


 まあ確かに色々と危なかっしい所はあったが……。

 ただ、俺の中で何かが繋がった気がした。

 莉愛に感じていた違和感、その正体が分かった気がした。


──莉愛はどこまでも自然体なんだ。


 俺と真逆で、取り繕う事をしない。

 キャラを作ろうなんて微塵もしていない。

 ありのままの自分で、思うままに振る舞っている。


 俺は少し、羨ましく思った。

 ありのままの自分に価値が無いと諦めて、受け入れてもらえない事を怖がって、取り繕っている。

 それが俺だ。

 別に俺はその事を悪い事だとも思っていないし、何なら誰だって多かれ少なかれキャラを作って生きている。

 俺はそのキャラ作りを誰よりも丁寧に行っているだけ。


 だけど莉愛にはそれが一切ない。

 それは莉愛の長所でもあり、短所でもあるのだろう。


──でも。


「俺はいいと思うぞ」

「え?」

「莉愛のそういう真っすぐなところ」


 キャラを作る、というのは悪い事ではない。

 言いたい事が言えなくなって窮屈になるわけではない。

 だって、普通は恥ずかしくて言えないようなキザな言葉でもキャラという仮面で取り繕えばちゃんと伝えられるから。


 心の奥で顔を真っ赤にしながらも、俺は本心を伝えた。


「ふふ……あはは」


 何故か莉愛は俺の言葉を聞いて笑い出した。

 人がせっかくいい感じの空気を作ったのに、ぶち壊しだよ。


「何で笑うんだよ」

「いや、やっぱりマコくんはマコくんなんだなって」

「何だよ、それ。俺はずっと俺だよ」


──俺だけど、俺じゃない。


「そうだね。変わってない」


──変わったよ。


「って言われると何か悪口に聞こえるけど」


──ほら、今だって俺の言葉じゃない。


「ふふ、どうだろ」


「じゃあやっぱり変わったって事で」


──でも言われっぱなしは癪だな。


「変わってないよ」


「変わったって」


 顔を見合わせて二人で笑った。笑ってしまった。



 たまにはこういうのも悪くない、かな。



まずはここまで読んでいただきありがとうございます!

ここまでは序章的な位置付け、居酒屋のお通しみたいなものですね。


ここからどんどん物語が展開していきますので、どうか今しばらくお付き合いください。

(ここまでの感想とかを頂けると作者は咽び泣いて喜びます)

(感想に限らず、ブクマや評価など足跡を残していただけると、とても嬉しいです)

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