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第5話 時差ボケは辛いらしい

「ごちそうさまでした!」

「お粗末様」


 食事中も無難な会話は続いたが、空気は少しぎこちなかった。

 お互いにさっきの事は何もなかった事で、という暗黙の了解が交わされているものの気まずいものは気まずいんだから仕方ない。


──まだまだ修行が足りないな。

 

 今日は想定外のイベントの連続のせいで、俺という存在が表に出てきてしまいがちだ。

 もっとうまくプレイヤーに徹しないと、作り上げてきた「生田誠」のキャラがブレてしまう。

 もう半月もしたら同じ高校に通う事になるんだし、それまでに何とか対策しないと……。


「ん~……」


 頭をフル回転させている俺とは対照的に莉愛はお腹が膨れた途端眠くなってきたのか大きく体を反らして伸びをしている。

 そう言えば……。


「莉愛、眠いのか?」


 

 時差の事を考えていなかったな。

 今日本だと14時を過ぎた所だから……アメリカだと真夜中なのか?

 だとしたら眠いのも当然か。


「うん。あ~、今寝たらまずいのに~……」


 そう言いながらも莉愛の大きな瞳は溶けるようにとろんと緩み、瞼もぴくぴくとしている。

 目を閉じればそのまま寝てしまいそうな状態だ。


「一応部屋は寝るくらいならすぐに出来る様にはしてあるけど……?」

「うぅ~、誘惑しないでよ~」

「誘惑……?」

「今寝たら、時差ボケが……ふあぁ~」

「ああそっか」


 海外旅行を経験した事がないから、時差ボケがどんな状態なのかイマイチぴんとこない.

 それでも莉愛の言い方から察するにそれなりにめんどくさいのだろう。


「それってちょっと寝るとかっていうのもダメなのか?」

「ダメっていうか……無理っていうか……」


 指で目をくしくしと擦りながら、何とか起きていようとしている莉愛。

 だがどう考えても耐えられそうには見えない。


「私……一回寝たら起きられないんだよね」

「目覚ましならあるけど?」

「甘い、甘いよ。そんじょそこらの目覚ましで私が起きるとでも?」

「何でちょっと自慢気なんだ……」


 何故か莉愛は誇らしげに言い放った。

 俺としては目覚ましをかけて起きられないという感覚があまり理解できない。

 何時くらいまで寝るぞ! って寝る前に自分に言い聞かせるようにして寝たら大体その時間に起きられると思うんだけど……? 

 きっとそれは人によりけりという事なのだろう。


 目覚ましで起きられないとなれば……。


「それなら普段はどうしてたんだ?」

「ママに起こしてもらってた……」

「なるほど……だったら」


 今俺が提案しようとしている事が正しいか、適切かという事は分からない。

 ただ、他に代案もない事だし、好青年「生田誠」ならきっとそうするだろうと確信を持って俺はその提案を口にした。


「だったら俺が起こそうか?」

「え? 悪いよ、さすがに」

「別に大した手間じゃないし、遠慮しないでいいぞ」


 実際精神的な消耗を除けばそのくらい手間のうちにも入らない。


「ん~……」


 莉愛は考えているのか、それともただ舟を漕ぎ始めているだけなのか、少し首を傾げている。

 と、思いきや段々と首が斜め前に倒れ始めた。


 うん、これ寝落ちしかけてるだけだわ。


「お~い、莉愛?」

「……っは!?」


 名前を呼ぶと体がびくりと動き、倒れかけていた首が元の位置まで戻った。

 授業中に寝ている事を指摘されてビクっとなる生徒みたいだと思った。


「ごめん……やっぱ無理ぃ~」

「だろうな。寝るなら二階の部屋で頼む」

「マコくん、悪いんだけど二……いややっぱり一時間後に起こしてもらえないかな?」

「一時間後ね、了解」



 がっつり六時間睡眠をキメそうなほど眠そうにしているが、一時間だけにしておくらしい。


──ひょっとしてめちゃくちゃ起こすの大変だったりするのか……?


 そんな不安が頭をよぎるが、今は先送りにして莉愛を部屋に案内する事にした。


 スーツケースを持って、莉愛を二階にある部屋へと案内する。

 ちょうど俺の部屋の向かいにある部屋は、莉愛がくるまでは客間という名の空き部屋だった。

 今になってようやく部屋としての役割を果たす事ができるわけだ。


「何もない部屋だけど、一応ベッドだけはすぐに使えるようにしてあるから──」

「ありがとぉ~」


 言うや否や莉愛はベッドに吸い込まれるようにフラフラとした足取りで直行していった。

 既に眠気の限界だったらしい。


「じゃ、おやす──」


 おやすみと言って部屋を後にしようとしたその瞬間に莉愛がむくりと飛び起きた。

 何事かと思って観察していると、どうやら何かを探しているらしかった。


「莉愛……? どうかしたのか?」

「まくら」

「え?」

「私、枕がないとダメなんだった」


 いや枕なら用意してあるけど……と言おうと思ったが、何となく莉愛の様子からそうではない事を察した。

 枕が変わると眠れないとかそんな感じなのだろうか?


「え~と、確か……」


 起き上がった莉愛は、そのままスーツケースの元に崩れ落ちる様に座ると中を漁り始めた。

 お目当てのモノはすぐに見つかったようで、


「あった!」


 と、それを引っ張りだした。

 出てきたのは1mはあろうかと言う抱き枕らしきもの。

 スーツケースのどこにそんな大きさのを入れるスペースがあったんだよ、とツッコミたくなるレベルで大きい。


 眠さが限界の人の動きとは思えない機敏さで、莉愛はもう一つ、スーツケースの中から布状のものを取り出した。


──枕カバー……なのか?


 部屋から出て行くに出て行けず、莉愛を見ているとこれまたテキパキとした動きでその枕カバーを抱き枕に装着した。


「やっぱこれがないとダメだよね」


 陶酔した様にギュッと莉愛は枕を抱きしめた。

 よっぽど気に入ってるんだなと思ったその時、抱き枕に模様……というかイラストが描かれているのに気が付いた。


「っ!?」

 

 その瞬間。

 声にならない驚きと困惑に襲われた。

 想定外の事も想定内にしようと思った矢先に、更に上を行く想定外の状況だ。

 どう反応するのか、それとも完全にスルーすべきなのか全く分からない。


 その抱き枕に描かれていたイラストには……。


 半裸の少女らしきキャラクターが描かれていた━━


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