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第26話 五人寄れば文殊の知恵どころの騒ぎではない

すいません、更新少し遅れました。

 コンビニでそれぞれ昼食を買って食べながら、俺達は緊急会議を開いた。

 議題は、『このままだと莉愛がやばい』だ。


 実際軽くノートを見せてもらったのだが、暗記科目はともかく数学や国語などは〇より×の方が圧倒的に多かった。

 ちなみに英語は〇しかなかった。

 帰国子女すげえ……。


「まあ落ち込まないで莉愛、だってそもそも莉愛は授業受けていないんだもの。分からなくても無理はないわ」

「そやなぁ……授業受けんと転校してきていきなりテストですー言われてもキツいわな」

「先生もさすがに今回はその辺りの事情は考慮してくれるんじゃないかな?」


 今回に限ってだが、莉愛は赤点をとっても許される立場にある。

 というのも、莉愛は授業の遅れを取り戻すために放課後、補習を受けているのだ。


 莉愛自身も先生に、今回だけは多目に見る、とは言われているので赤点だらけでも留年という最悪の結果になることは避けられるのだが……。


 通知表に残る数字は実際の点数のみが反映される。

 だから赤点を取らないことに越したことはない、当たり前だが。


「にしてもここで赤点取るのは特にきついなぁ」

「特にって……?」

「ああそっか。莉愛が知っているかは分からないけど、このテストが終わったら文化祭準備期間に入ってお祭りムードに変わるらしいのよ」

「そそ、来月の中旬辺りにあんねんな」

「もしここで赤点取った場合、補習が確定しちゃうからせっかくの楽しい準備期間に参加できなくなっちゃうわ」


 そうだ、目の前のテストのことばかり考えていたが、このテストが終われば文化祭の準備期間が始まるのだ。

 進学校ということで普段は課題でがんじがらめになっているわけだが、この期間ばかりは先生も課題の量を調整して、学校一丸となって文化祭の準備を執り行う。


 先生も常日頃から言っているが、『やる時はやれ、楽しむ時は楽しめ』

 その校訓を実践するわけだ。


 学校があるのが、他に高校や大学も多数ある学生街ということとも関係がある。

 明確にそう、というわけではないのだが、近所の高校同士で文化祭のクオリティを競い合っている面があるのも文化祭に力が入る理由の一つとなっている。


 文化祭を見てこの学校に進学しようと思った、という生徒もいるくらいだからそのクオリティはお墨付きだ。


 そんなせっかくのお祭りに参加できない事態になるのは避けたい。


「うーん……でも今からじゃさすがに無理かも。私英語と暗記科目以外は全然だし……」


 莉愛が申し訳なさそうに目を伏せて、言葉を漏らした。

 そのシュンとした表情を見て、心を砕かない人間はこの場にいなかった。


「なあ皆、俺が勉強会始まる前に言った事覚えてるか?」

「ワンフォーオール、オールインワン、だっけか」

「せっかくええ感じの空気にしようとしたのに、そこでボケんでええねん」

「すまんすまん。オールフォーワン、だよな」

「テストが始まるのは水曜からや。まだ時間はある。皆で協力しようやないか」

「何あんたが陣頭指揮取ろうとしてるのよ、あんた教えるの下手じゃない」


 そう言う志乃から普段の茶化すような様子は感じられない。

 皆、心は一つなようだ。


「偶然というか必然というか……俺らは皆得意科目違うやろ? できる科目を担当して、それぞれが授業してみようや」

「うん大吾! いい案だと思うよ、それ」


 怜央がすかさず大吾の案に乗っかる。

 大吾はともかく怜央が教えてくれるのは心強い。


「そうね。人に教えるっていうことは自分が100%以上理解していないとできないものね。そういう意味では自分の復習のためにもなるわ」

「ありがとう……皆」


 莉愛の声は少し震えている。

 目頭が少し赤くなっているのを見ると、涙をこらえているのかもしれない。


 友人とは財産だ。

 凡人の俺が【生田誠】を育てあげて、SSRの皆に食らいつこうとした結果、こんなにも素晴らしい友人を得ることができた。

 俺は俺と、皆のことを誇らしく思った。


※※ ※


 そうと決まればすぐに行動、この行動力の速さもさすがのものだ。

 授業のように一時間ずつ、科目を持ち回りで担当して教えていく。

 もちろんメインは莉愛だが、他の三人も分からなければ質問する、というスタイルになった。


 一番最初に授業をすることになったのは志乃。担当は国語だ。


「普段から感覚でやってることを言葉にするのって中々難しいわね……」


 そう言いながらも次々と明かされる国語の問題を解くためのテクニックに俺たちはただただ舌を巻いた。


「いい? 選択問題で大事なのは、『選択肢のどこが違うか』よ。選択肢の問題で二択までは絞れたけど……って経験ない?」

「ある! そこからは勘で解くしかないと思ってた」


 心当たりが存分にあるのか、莉愛が身を乗り出して答えた。


「そうなった時は選択肢の細かい所の違いを探してチェックをつけるの。それで改めて文章を見れば、必ずどっちかの選択肢に矛盾が生じるわ。つまりは消去法ね」

「なんや意外と理詰めで解いてんねんな」

「当たり前じゃない。現代文も古文も、知識系以外の答えは全部文章か選択肢に書いてあるんだもの。それをチェックしていくだけの作業なの」

「なるほど……そんなの考えたことなかった」


 莉愛は真剣な表情でうんうんと頷いた。

 なるほど、この特殊能力をSSRキャラの志乃は無意識に行使していたわけか……。

 点数以上のレベルの違いを実感せざるを得なかった。


「でも、莉愛なら国語は大丈夫だと思うわ。さっき見せてもらったら知識系の問題は結構正解できていたもの。出題範囲だけちゃんとやっておけばきっと大丈夫よ」

「大沢先生、俺その知識系の問題が分からんのやけど!」

「覚えなさい、以上」

「大吾、暗記系ができないのは単純にやってないからだぞ……」


 大吾は典型的な天才肌だ。

 数学は授業で公式さえ理解すれば、応用問題だって簡単に解いて見せるし、他の科目でも非凡さを見せている。

 だからこそ、その能力に甘えて知識系の問題がズタボロなのだが……。

 俺からしたら羨ましい限りだ。


「しゃーないやん、覚えられへんねんもんは無理やって。なあ誠はそういうん得意やろ? どうやって覚えてるん?」

「大したことはしてないぞ、覚えるまで覚えるんだ」

「なぁ……誠って賢そうに見えて意外と脳筋やな」

「仕方ないだろ? 他に方法はないんだから」


 そう、ノーマルレアの俺にはこいつらみたいに特殊能力はない。

 だからこそ人の二倍三倍の時間をかけて喰らいつくのだ。

 これが凡人の最善にして最高の戦い方だ。


「僕も似たような感じだな。あ、でも暗記する時は声を出しながらやった方がいいって聞いた事あるよ」

「どゆことやそれ」

「んー、なんていうか五感をなるべく全部使って覚えるのがいいんだって。だから僕は教科書を何回か声に出して読んだりしてるな」


 怜央も意外と真面目にやってるんだな。

 やってることはそんなに変わらないはずなのに、どこでそんなに差がついてしまうのか……。

 何に関してもできる怜央は『器用富豪』っていう非の打ち所がないパッシブスキルを持ってるんだろう。


「声に出すんなら得意やで。それやったら俺にでもできそうやな」

「あんたもなんか、数学の問題を解くコツとかないの?」

「気合い……とちゃうか?」

「張り倒すわよ?」


 こうして午後は一点して、騒がしくそれでいて充実した時間を送ることができたのだった。


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