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第20話 夏休み明けが憂鬱だとは感じない

「莉愛、起きろ~。遅刻するぞ」


 陽の出る時間が少しだけ遅くなったことに夏の終わりを感じるような、そんな朝。

 俺はお寝坊さんの莉愛を起こしに部屋に向かっていた。

 朝の時間帯に起きないことは理解して、もう起こすことは諦めているのだが今日はそういうわけにはいかない。


 何故なら夏休みは昨日で終わり、今日から学校が始まるのだ。

 しかも莉愛は今日初登校日ということで、学校から早めに来るように言われている。

 初日から遅刻──もしそんなことになったら第一印象は最悪だ。


「起きないな……」


 ドア越しに呼びかけてみても反応がない。

 まあここまでは予想通りだ。

 今更驚くようなことでもない。もう慣れた。


「莉愛、入るぞ~」


 必要なこととはいえ、部屋に入るのは未だに躊躇われる。

 その躊躇いを振り払って扉を開けて部屋に入る。

 ふわっと少し甘い香りがした。


 部屋に入ってまず目に入るのは、大量に飾られたフィギュアやアニメのグッズ。

 これら全て莉愛の愛して止まない魔法少女ラリコ(たん)関連のグッズらしい。

 通販すら難しいアメリカでよくこれだけの数を集めたものだ。


「おーい。遅刻するぞ」


 今度はベッドの前で呼びかけてみる。

 莉愛はすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てて、愛用の抱き枕をしっかりと抱いている。

 半裸のラリコたんのイラストが描かれたその抱き枕を……。


「う~ん……」

「ほら、遅刻するぞ。色々準備もあるんだろ?」


 目覚めかけたのを見て一気に畳みかけるように起こす。


「ふぁ~」

「ほら、いい加減起きろって」


 トドメに布団の上から肩を揺すってみた。


「う~ん……起きるよぉ」

「ほら、起きた起きた」


 言葉とは裏腹に起きあがる気配のない莉愛。

 見かねた俺は布団を剥ぎ取った。


「分かった、起きるからぁ」


 さすがに観念した莉愛は名残惜し気に抱き枕を置いて、起き上がった。


「おはよぉ、マコくん」

「おはよう、莉愛。と言いたい所だけどもう時間ヤバいぞ。朝食はできてるけどどうする?」

「ごめん、今日はパスで」

「了解、じゃ俺も準備してくるよ」

「うん、明日からは起きられるように頑張るから……」

「はは、そうしてくれると助かるよ」


 莉愛が完全に起き上がったのを確認して俺は部屋を出て自分の準備をすることにした。

 時刻は六時を少し回ったところ。

 学校までは家から四十分ほどかかる。

 転校初日ということで七時半までには来てくれと言われているから、結構ギリギリだ。

 準備のことも考えるともう少し早く起こせばよかったかもな……。

 

「くぁ~、さて……俺も準備するか」


 ドタバタと莉愛の部屋から音がし始めた。

 俺も遅れないようにしないと……。



※ ※ ※



「おまたせ、時間大丈夫?」


 時間ギリギリになってそろそろ呼びにいこうかというところで、莉愛がバタバタと階段を下りてきた。

 真新しい白のTシャツに青のネクタイは涼やかな印象を与え、灰色のスカートは清楚に揺れている。

 見慣れた制服でも莉愛が着ると妙に様になっているように見えた。


「全然、まだちょっとなら余裕はあるよ」

「待ちきれないし、もう家出てもいいかな?」

「いいよ。どうせもうやることもないし」

「なんかさ、ワクワクする」

「夏休み明けなら普通は憂鬱になるんじゃなるんじゃないか?」

「そうなのかな?」

「宿題が終わってないとか、昼夜逆転が治らなくて寝不足とか、テストの勉強を全然やってないとか。理由は色々あるだろうけど」


 俺も憂鬱という程ではないが、学校が始まるのを楽しみにしていたわけではない。

 学校があると必然的に自由に使える時間が減ってしまうからだ。

 それは皆同じという点で平等ではあるのだが……。


 夏休みのように朝から晩まで緻密に行動の予定を組み立てて、そのタスクを達成していくという喜びは得られなくなる。


 高校に入って最初の夏休み。

 莉愛が家にやってくることになって、予想外で初見殺しのイベントが多発したが、それを除けば満足行く育成ができたと思う。

 満点とは言わずとも及第点は余裕で達成できただろう。


 あとは育成の成果をテストや学校生活の中で発揮して、如何に充実した高校生活を過ごせるか、だ。


 俺は、【生田誠】はノーマルレアの凡人だが、育成を上手く行ってSSRな連中たちに負けないくらい充実した生活を送るんだ。

 そうして物語に出てくる名前のないモブではなく、主人公は無理でも名前を与えられる主要人物クラスにまで上り詰めてやる。


 改めて決意して、莉愛と共に学校へと出発した。



明日から濃ゆい新キャラが登場します

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