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第14話 コミュ強は距離の詰め方が早すぎる

 待ち合わせの駅前は最寄り駅よりも更に混みあっていて、カップルから家族連れまで大勢の人で賑わっていた。


 当然彼らの目的地もこの先にある大型ショッピングモールなのだろう。

 駅を出れば、すぐに見えるその馬鹿でかい姿はなるほど確かに話題になるのも無理はないなと思わせるくらいだった。


 店舗数は確か百を超えるんだったか……。

 あまりピンとこない数字だったが、実際に見た事がリアルな数字へと変わった。

 確かにあの規模のショッピングモールなら、百や二百の店舗が収容されていてもおかしくはない。


「待ち合わせ場所は確かこの先の噴水広場だったか……」

「すごいね。これだけいたら探すのにも苦労しそうだよ」

「舞衣は……もうついてるみたいだな。ちょっと急ぐか」

「そうだね」


 一応集合時間の十分前ではあるが、どうやら舞衣はもう着いて先に待っているらしかった。

 若干歩調を上げて、駅前の噴水広場へと向かう。


 当然駅前の、それもかなり分かりやすい場所にあるから待ち合わせスポットとして使われているようで、駅の中以上に人でごった返していた。


 これだけ人がいるんだから、普通なら探すのに一苦労しそうなものだが……何せ待ち合わせの相手は舞衣だ。その心配はしていなかった。


 案の定舞衣はすぐに見つかった。

 オシャレに気合いを入れた人が多い中でも一際目立つ装いを完全に着こなしている舞衣もまた、衆目からの視線を集めていたからだ。


 黒のキャップにサングラス、ボーダーシャツの上にはミリタリーテイストなジャケットを袖に通さずに肩にかけ、足元はハイウエストのワイドパンツに白のスニーカー。

 白と黒を中心としたシンプルな色味だが、一見して色の与える印象を計算しつくしていることがよくわかる。


 人込みの中で不自然にポッカリと空いたスペースに近づいて、おーいと声を掛ける。


 それで気が付いたようで、舞衣はスマホに落としていた目線をこちらに向けてヒラヒラと手を振ってきた。


 その様子はとてもクールで、男の俺でも嫉妬するくらいカッコよく見える。

 ただ、こいつの場合は……。


「ごめん、遅くなった」

「いーのいーの。私が早く来過ぎただけだからさ」

「暑かったろ?」

「まーね。でもオシャレは我慢、だからね。日焼け止めもバッチリだし、ノープロブレムよ!」


 話すと途端にその雰囲気が変わるのだ。

 いつもの軽い口調の親しみやすい雰囲気へと変わった。


 その舞衣の顔が少し横に逸れ、莉愛の方へと向かう。

 瞬間、何かに憑りつかれたかのように固まった。

 

 その反応を不思議に思ったのか莉愛は首を少し傾けた。


 尚も固まったままの舞衣に見つめられた莉愛は所在無くなったのか、はにかみながら軽く手を振る。


「ちょっと誠~」


 我に返った舞衣がぎこちなく、油を差し忘れた機械のようにギィギィとこちらを振り返ると、ちょっとこい、とでも言いたげなジェスチャーをした後に口元を覆った。


(ちょっと、あんなカワイイ子が来るなんて聞いてないんだけど。ふざけんなって!)

(何だよそれ! そんなこと一言も聞いてこなかっただろ)

(確かにそうだけどさ、さすがにこれは想定外過ぎるんですけど!?)

(でもメイクとか服装について聞きたいのは本当だっての)

(確かに……! メイクも薄いし、伸びしろは全然あるけどさ!)

(だったら頼むよ)

(素材が良すぎて怖いんですけど!?)


 ひそひそ声ながらもうるさい舞衣のクレームを受け流していると、さすがに莉愛も不審に思ったのか、


「えーと……」


 と困惑したような様子で、目を泳がせた。


(ほら、莉愛が困惑してるだろ?)

(うるさい幼馴染バカ! とりあえずやってみるけどさ……うわ~、緊張するな~)


 先ほどまでの威勢はどこへやら。

 急にしおらしくなった舞衣が改めて莉愛と対面した。


 二人の間にはやはりどこか距離を窺うような空気が流れている。

 仕方ない。ここは俺が間に入って……。


「なんて言うか舞衣さん……お忍びの芸能人みたいだね~」

「へ?」


 莉愛は目を輝かせながら感心したように舞衣を見て言葉を漏らした。


「ぷっ……あは……」


 舞衣が何やら息が詰まったかのような、押さえつけるような、うめき声に近い声をあげた。

 しかし、すぐに抑えきれなくなったのか


「あは……あっはっはっは!」


 豪快な笑い声をあげた。

 ただでさえ集まりやすい視線が更に集まるのを感じた。


 尚も笑い続ける舞衣は困惑する俺たちを他所にたっぷり数秒間、腹を抱えて笑うと、


「あ~……っ」


 とサングラスを外して、目を指で拭った。

 どうやら笑いすぎて涙が漏れ出たらしかった。


「いや~、ごめんね。莉愛ちゃんマジでめっちゃツボだわ~。あ、てか莉愛ちゃん呼びでよかった? 誠がいつもそう言ってるからさ」

「ふふっ……全然大丈夫だよ。舞衣ちゃん。というより初めまして、だね。夕陽莉愛です」

「あ、そっか。私は廿楽舞衣ね。私はその……なんて言うか『ちゃん』ってガラじゃないじゃん? 普通に舞衣って呼び捨てで呼んで欲しいかな」

「なら私も普通に莉愛、って呼んでもらって大丈夫だよ?」

「ん~なんて言うかさ。莉愛ちゃんは、『ちゃん』ってつけたみがあるんだけど……ダメかな?」

「そっちの方がいいなら私も全然。それで大丈夫だよ」

「オッケー莉愛ちゃん、改めてよろしく~」

「こっちこそよろしくね、舞衣」


 どうやら一瞬で馴染んだようでそのまま二人はいえ~い、とハイタッチをして笑い合っていた。

 距離の詰め方新幹線かよ、早すぎな。

 まあでも、そっちの方が俺としてはありがたいからいいんだけどさ。


 予想通り二人の波長は合ったようでそのままキャイキャイと会話を始めた。


──あの~、お二人さん? そろそろショッピングモール、向かいませんか?


 俺はすっかり蚊帳の外に追いやられてしまった。

 


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