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大阪環状線発車メロディー 野田駅・福島駅・今宮駅 編

作者: 尾塚うどん粉

大阪環状線野田駅の発車メロディーは「1週間」

野田駅の1週間の出来事の物語

★月曜日の出来事


朝、改札口で立哨中 

「おはよう」

元気に、挨拶をしてくれたのは、月乃ちゃんである、この子、高校を卒業したんだなと思った、数か月前までは、高校の制服姿だったが、久しぶりにみると、今日はミニスカートの私服で、別人のようだが、相変らず、スケッチブックを肩から掛けている。

駅員、長井道紀は、朝、月乃の「おはよう」で元気をもらう。

「今から、福島駅に行ってくるわ」

「また、スケッチか」

「今年から、美術専門学校に通ってるねん、今日は、課題で、川を描くことになってるので、堂島川まで行ってくるわ」

元気よく、階段を駆け上って行った、ロシア民謡「一週間」が流れた、この駅の発車メロディーで、歌詞の中に「日曜日に市場にでかけ」があり、駅の近くに、大阪卸売市場があるために、この曲が選ばれたそうだ、

月乃の父は、売れない無名の水彩画家で、母が家計を支えていたが、十数年前に、愛想を尽かせて出て行ってしまったが、それを見ていたにも関わらず、小さい時から、父が描いた水彩画が好きで、父のような絵を描きたいと憧れ、画家の道を選んでしまったが、後悔はしていない、

父は、日本画の月丘夢路を尊敬しており、娘に、月の字をつけ、「月乃」とし、妹が出来れば、「夢乃」にするつもりだったが、母が逃げてしまい、夢は叶わなかった、

電車に飛び乗ると、横に、TVでよく見る男性が立っていた、そういえば、次の福島駅には、大阪朝日放送テレビ局がある、

「あっ、あの人は、アナウンサーや」

今まで、大阪で、吉本の芸人以外、有名人とは出くわした事がない、卒業式後、友人と東京の秋葉原に行った時、駅を出たとたんに萌え萌えで有名な芸能人に会った、さすが東京だと感激した。

福島駅に着き、アナウンサーのあとから月乃も降りると「回って、回って、回るー」の曲が流れ出した、福島駅の発車メロディーは、大阪出身の円広志さんの「夢想花」である、リズミカルな曲で、有名人にも会えたし、心が弾み、「回って、回って」と口ずさんでしまった。今日は、いい絵が描けそうだと、気持ちよく、なにわ筋を堂島川に向かて歩き出し、朝日放送を通り過ぎ、玉江橋の土手に座った。

目の前に、福島港(ほたるまち港ともいう)があり、中之島リバークルーズ船が止まっている、対岸には、国立国際美術館のオシャレな建物も見え、流石、父の推薦してくれただけある、最高の場所だ、勢いよくデッサンを始めたが、今日は風が強く、スカートが捲れ、周囲に誰も居ないが気になる、横に置いている鉛筆も風の勢いで、土手の下まで転げ落ち集中できない、更に,左の田蓑橋から、誰かが練習しているトランペットの音が耳障りでイライラしてきた、こんなに心が乱れてはいい絵が描けない、今日は止めだ、明日にしようと諦め、夢想花の替え歌「飛んで、飛んで、飛んで、寄って、寄って、帰ろうー」と歌いながら、途中で、和菓子屋に寄って、父の好きな、みたらし団子を買って、家路に急いだ。


★火曜日の出来事


7時30分

火野正志(28才)は通勤客で混雑している西九条駅をあきらめ、野田駅までやってきた、スカートを一人一人チェックしながら、フォームの端から端まで何度も往復した、近くに女子校があり、大勢の高校生が降りてくる、通勤のOLも多いが、タイミングが合わず実行できていない、もう8時15分、まもなく、ラッシュ時が終わる、早く実行しないとヤバイと焦ってきた、階段を下りて、改札を見たが、該当する女性がいない、もう一度、フォーム全体を見渡し確認してから、再度、改札前まで行った、道紀は、1時間前から、同じ男が、うろうろしているのを気付いていたが、それより、鋭い目つきの男女数名が、不審な行動をしているのが気になり、スリ集団で、カモを物色していると思い、警察に連絡をしようかと迷っていた。

「おはよう、今日も福島やねん」

ミニスカートの月乃が、元気よく、エスカレーターで上がって行った、火野の目が獲物を見つけた獣のように光を放った、肉食系の動物の目だ。スマホを取り出し「もしもし」と大きな声で電話をしているふりをしながら、月乃の後ろに付いた。途中まで上がった時点で、電話をやめ、手を下し、月乃のスカートの中を撮影し、最後の階段の一歩手前で、もう一度、シャッターを押し、上がり切った、撮影成功と安堵した瞬間、3名の男性に取り囲まれ、女性は、月乃を追いかけた、

「君、このスマホをちょっと見せてくれへんか」

「なんですのん、いきなり、失礼やろ、あんたは誰や」

「警察の者や、これで、何を撮ったんや」

「何も、撮ってないですよ、電話をしていたんです、見せる必要はないです」

「何も、悪い事をしてなかったら、見せれるやろ、見せろ」

最後は、強い口調で言った

女性は

「お急ぎの所、すみません、警察です、あなたは盗撮された可能性があります、確認して欲しいです」

「はぁ~盗撮された、私が・・・・」

火野のスマホに、数十枚の盗撮画像や、動画が入っていた、勿論、月乃の画像も2枚あった。

女性警官から、画像をみせられ、自分だと確認したが、恥ずかしいとは思わず、凄く腹が立ち、許さないと思った。

数日後、火野の母親(58)と、姉の金地麻衣(30)が謝罪に訪れた、父親が対応してくれ、月乃は横で聞いていた、丁寧な口調で、謝罪をしてくれるのを聞いていると、気持ちも和らぎ、許す気にはならなかったが、あいつは常習犯で、重い罰を受けるし、まあいいかという気持ちに変わった。

「改めて、本当にすみませんでした」

母娘が、丁寧に、頭を下げて、帰ろうとしたとき、いままで、一言も話さなかった、姉の麻衣が突然言い出した

「月乃さん、でも、あなた、こんな短いスカートをはいていたら、どんな男性でも、覗きたくなるよ、男ってそんなもんよ、あなた、男性に犯罪を誘発させているようなものよ、あなたも悪いよ、ねえ、お母さんも、そう思わない」

「そうやね、このミニじゃねえ、電車や、駅はキャバクラと違うからね、あなたも悪いわ、正志も可哀想や」

母も、月乃のスカートを見ながら、ニコッと笑って帰って行った、

月乃は頭にきた、高校時代から、制服のスカートを上げ、ミニにして、満員の電車で3年間、遠くまで通学したが、男性の視線は感じたが、痴漢に会ったこともなかったし、恐らく盗撮もされていないと思う、男性は、皆、そうとは思わない、正志が異常なんだと思った、

月乃は、火野家の近所で、情報を集めると、姉、麻衣の夫、金地泰司は、銀行勤務のエリートマンで、毎日決まった時間に家を出て、弁天町から大阪駅に向かうことが分かった、恐らく、真面目な男性だと想像できる、でも母娘の言葉「男って、そんなもんよ」にしてやろうと、心に決めた、

1日目

普段より、短いスカートをはき、胸を大きく見せるためにパットを入れ、弁天町で泰司を待った、流石にこの姿では、男性の視線が鋭く、恥ずかしかった、泰司の顔は確認済なので、直ぐに発見した、車中では、ぴたっと横に付いて立ったが、大阪駅まで、全く興味を示しめしてくれず、無反応で、失敗に終わった、さすが、真面目エリート銀行マンと感心してしまった

2日目

今日は、ピタッと後ろにつき、電車が揺れる度に、わざと体を接触させた、泰司は一度だけ、振り向き、月乃をみたが、気にせず、窓の外を見ているだけだった。

3日目

今日も、後ろに付き、揺れる度に、背中に胸を軽く押し当てた、泰司は、昨日とは違う顔で、何回も振り返り、大阪駅に近づくと、ニタニタと笑うようになってきた、少し、嫌らしい目つきに変わってきたと、嬉しくなってきた。

4日目、

今日は、向かい合って立った、泰司は全身をじろじろ見ながら、胸で視線が止まり、凝視している、揺れる度に、よろけたふりをして、胸を軽く押し当てると、ニタニタしている、福島を過ぎたあたりから、1~2回、自分から当たってきた、そろそろ男心が芽生えてきたと、ワクワクしてきた。


★金曜日の出来事

5日目

金地泰司は、今日は自分から無理矢理、向かい合って立ち、電車が発車すると同時に、わざとらしく、自分から当たってきた、それ以後は揺れもしないのに、自分の胸を月乃の胸に軽く押し当て、直ぐに離れる、月乃は、気付かぬふりをして、車中の広告を見ていると、西九条を過ぎたあたりから、2~3秒間押し当ててくるようになり、野田駅に近づくと、だんだんエスカレートし、強く密着して離れない、本当の痴漢と同じである、10秒近く密着している、あまりにもひどい、さすがの月乃も、こらえきれず、「キャー、やめて」と悲鳴をあげてしまった、泰司は、周囲の人に腕をつかまれ、野田駅で降ろされた、月乃は、自分から仕掛けた罠だったが、、胸を強く押し当てられた状態を思い出すと、怖くなり、座り込んで泣いてしまった、駅員さんが、駆け付けてくれた

「また、あなたですか、災難でしたね、怖かったでしょう」

優しく言ってくれて、嬉しかった

計画では、少し触られた所で、誰にも気づかれないように、腕を掴み、謝罪させ、家に行き、母と姉にも、謝罪させようと考えていたが、ここまで露骨に触ってくるとは思いもしなかった。

家に帰り、父の絵を見ていると、落ち着き、冷静さを取り戻し、泰司に悪い事をしたと後悔した、、

2週間後、学校に行く準備をしていると

「月乃、思い出させて悪いが、あの男、銀行を首になり、何処かに引っ越ししたようやで」

父の報告に、自責の念に駆られた。


★水曜日の出来事


水井一郎は、何度も後ろを振り返りながら、階段を駆け下りてきた、その後を、女性二人が追っている、水井は、咄嗟に男子トイレに逃げ込んだ、女性達は、入り口で待ち構えたが、5分経過しても出て来ない、

「お父さん」

娘、、好美が呼んだが、応答がない

「あなた、出てきなさい」

妻、君子も、大声で呼んだが、やはり、応答がなかった。

駅員室に、好美が来た

「水井と申します、お父さんが、トイレから出てこないんです、出してください」

駅員、道紀が対応した

「えっ、トイレに、お父さんが、何処か具合が悪いのですか」

緊急事態発生、トイレに急いで駆け付けた

「水井さん、聞こえますか、駅員です、どうかしましたか」

個室前で、ノックをし、呼んでみたが、応答がなかった

「返事をして下さい、警察に来てもらいますけど、いいですか」

ドアが開いた

「しーーーー」

人差し指を立てて、自分の口を押えた

「まだ、あいつら、居るんか」

小声で質問をしてきた

「いらっしゃいますよ、心配しておられますよ」

「何でやねん、心配なんかしてへんわ、あいつら、わしを捕まえにきたんや」

「えっ、どういう事なんですか」

「わしはな、あいつらにDVを、受けているんや」

「えっ、DV、殴られたりするんですか」

「アホ、そんな手温いもんと違うわ、娘に、両手足を縛られ、押さえつけられ、嫁に、はさみで、ここを切られるんやわ」

股間を指さした、道紀は、なんとなく状況が分かってきた

「あははっは、水井さん、浮気をしたんでしょう」

「アホか、浮気なんかしてへんわ、ちょこっとスカートをめくっただけやがな」

「とりあえず、ここを出て下さい、他のお客さんも利用しますから」

水井は、渋々、トイレから出たが、母娘が待ち構えていた

「お父ちゃん」

「あなた、あのお金、何処の女にやるんや」

「お父ちゃん、また女に騙されているんやろ」

トイレから出るなり、二人に集中攻撃を浴びている、見ていて、面白かった。

水井は、黙って下を向いている

「駅員さん、聞いて下さいよ」

嫁が言い出した、ヤバイ、こんなことに巻き込まれたら大変や

「私は勤務があります、もうすぐ電車が来ますから、行きます」

慌てて、この場から逃れようとした

「待ってや、駅員さん、乗客の困っているのを助けるのも仕事やろ、まあ聞いてや」

手を握り、引き留められた。

「この男、この駅近くの飲み屋の女に、お金を渡そうと、家から現金を30万も、持ち出したんやで」

「アホ、飲み屋と違いわ、居酒屋や」

「お父ちゃん、それも飲み屋や」

父娘、夫婦で漫才するなと笑ってしまった

「あいつがな」

「あいつって誰の事や」

「あいつって、渚のことや」

「お父ちゃん、渚って本名か、怪しげな名前やないの」

「そんなん知らんがな、渚と言っているから渚や」

「渚がな、明日で、店を辞めて、実家の山形に帰りたいが、お金がないと言うので、世話になったし、電車賃くらい出してやろうかと思ってな」

「へぇ、どんな世話になったんや、汚れたパンツでも、洗ってもらったんか」

「お父ちゃん、山形まで、30万もかかれへんで、絶対に騙されているわ、洗濯代も入っているやろ」

道紀が、たまりかねて言った

「すみません、ここで、こんな話をしてもらったら困ります、続きは、家でお願い出来ませんか」

「すまんな、こいつら、あんたがいるから、こんなに優しいんや、いなかったら無茶怖いで、やくざが逃げ出したくらいやからな、あははっは、わしを助けると思って、もう少しだけ、我慢してや」

「その女は、きれい人やろ、あんたは、きれい女を見ると、すぐ手を出すからな、油断も隙もないわ」

「そんな事ないわ、お前にも手を出したがな」

「それ、どういう意味や」

嫁は、大声で怒り、水井の胸倉をつかんだ

「皆、すまん、渚に約束をしているから待っていると思うんや、行かなかったら、騙したことになるやろ、今回だけや、許して、もうせえへん」

「ほんまやろな、今回だけやで」

「お母ちゃん、甘いわ、今回だけが、今まで何回あったんや、許したらあかん、なあ駅員さん」

道紀は、返答に困った

「・・・・・」

「ここから5分くらいの所や、行ってくるから、ここで待っててや、帰ってきたら、一緒に飯でも食べに行こうや」

二人とも、なぜか、黙って承諾した、

「駅員さん、あんたなあ、あんな女にだらしない男になったらあかんよ」

母親が、助言してくれた

「駅員さん、こんなきつい嫁をもらったら、飲みにも行かれへんよ、気をつけや」

娘からも、助言をもらった、

15分で水井は帰ってきた

「さあ、皆、行こか、何食べたいねん」

「私は、中華がいいです」

「あかんで、お母ちゃん、イタリアンがええわ」

「お金は、お前が払うんやで、わしは、無一文やで」

家族揃って、楽しそうに、駅から出て行った、やっと嵐が過ぎ去った、あの家族は、何やってんと苦笑いをした。

★木曜日の出来事


木下恵子(62)は、孫の誕生日祝いを届けた帰り、今宮駅から電車に乗り座席に腰かけた。発車メロディー「大黒様」が流れた瞬間、50才くらいの男が飛び乗り、恵子の前に座り、難しそうな顔で、何かを考えているようだった、

「うだつの上がっていないような、しけた顔した男や、仕事が見つからず、今日も家族に無視されるのかな、可哀想な男や、名前は、しけた無視男や」

推理しながら、恵子は自然と下を向いて笑ってしまった。

この男は、友人から、今宮駅近くの商店街のイベント広告のチラシのイラストを依頼されての帰りだった、商店街の近くに、食物、財福を司る神様として知られている大黒様を祀っている大国主神社があり、そのため、今宮駅の発車メロディーが「大黒様」が選ばれている、大黒様が、打ち出の小槌を、大げさに振り上げている図案にしても、若い子には支持されないし、しゃれで大黒様を女にして、水着を着せると、年配から、こっぴどく叱られるだろうと、レイアウトを真剣に考えていたので、難しそうな顔になっていただけである、前を見ると、白髪混じりで、茶色のベルトのついた黒のワンピース姿で、布袋を持った女性が座っている、あの、おばはん、服装のセンスがないな、もう少し、明るい色を混ぜたらいいのに、黒系統の色ばかりだ、名前は、黒井服子やと勝手に決めつけ、にやけてしまった、野田駅に到着すると、早々に恵子は降りて行った、黒井服子も同じ駅かと、少し驚いた。恵子は、階段を降りながら、袋の中を探したが、イコカカードを入れた財布がない、途中で立ちどまり、中身を全部出してみたが、やはりない、困った改札を出れない、何処かで落としたか、車中で、すられたかも

「あっ、あの、しけた無視男や」

「ミスターマリックじゃあ、あるまいし、私の財布が、前に座っている、あの男に、移動するはずがない、しけ田無視男ではないわ」

とりあえず、駅員室まで行った

「すみません、財布を落としたか、すられたかで、無くして出れません、今宮から乗りました、家族に来てもらいますので、ここで待っていてもいいですか」

道紀が対応してくれた

「それは、大変ですね、今宮駅で、聞いてみましょうか」

気がつくと、しけ田無視男が、コーヒー缶を持ちながら、話を聞いている、男は、急ぎの用もないし、ゆっくりプラットホームに設置してある自販機で、コーヒーを買って、降りてきていた。

道紀は、恵子の話を途中で制止するため、手の平を胸のあたりまで持ち上げ、待ったをかけた、

「何か、御用ですか」

「話を、立ち聞きするつもりはなかったんですが、財布という言葉が聞こえてきましたので、少し、気になったんです」

「この、ご婦人が、財布を無くされたらしいです」

ご婦人という感じではないよ、黒井服子やと、心の中で笑った

「私、今宮駅のホームに上がる階段の手前で、財布を拾いましたで、どんな色でしたか」

黒井服子に尋ねた

「えっ、やっぱり落としたんやわ、黒の折り畳みの財布で、カードや、2万円と、小銭も入っています」

財布まで黒かと可笑しかった

「きっと、それやわ、でも中身は見てませんよ、ほんまに見てませんからな、駅員さんに預けたから、まだ駅にあると思います」

「いやー、ありがとうございます、助かりましたわ、早速、今宮に戻ります、そうだ、あなたのお名前を聞かせてください」

「いやいや、名前なんて大袈裟な、そうや、駅で名前と、電話番号を聞かれましたので、そこで聞いてください」

恵子は、今宮駅で、財布と、土井恒富の電話番号のメモを手渡された、


★土曜日の出来事


土井恒富は、久しぶりに、娘と一緒に家を出た、何か凄く嬉しかった

「こんにちは、この前はありがとう、今日は、お父ちゃんと一緒やねんで」

道紀は、月乃が元気な姿を見せてくれ、安心した、

「あっ、あなた、あの時の人ですね」

二人が親子だと分かり、驚いた

「そうです、あの時の、男ですわ、あの、おばさん、財布があったんかな」

「今宮駅にあったと、喜んでおられましたよ」

「そうか、よかった、よかった」

改札に入ろうとした時、改札を出て来た女性に、声をかけられた

「あらっ、この前の、お方ですね、財布がありました、助かりました、この方は、お譲さんですか」

偶然、木下恵子と遭遇した

「一度、お礼に、電話をしようと考えていた所です、今、時間があれば、近くのカフェで、お茶でも飲みませんか、お譲さん、いいですか」

月乃は、父の顔を不思議そうに見ている

「木曜日に。財布を拾てあげた方や」

誤解されては困るので、慌てて、訳を話した

「へぇー」

月乃は、まだ顔をみている、

駅前から、少し歩いた、小さな店に入ったが、昼過ぎだったかもしれないが、客はいなかった、

恵子は、再度、財布のお礼を言った

「お父さんが、娘さんと一緒なんて、珍しいですね、仲がいい親子ですね、はははは」

「お父さんは、画家なんですか、仕事がなくて、家で暇してるんです、私も画家をめざしていて、今日は、堂島川のスケッチをしながら、いろいろ教えてもうらおうと、一緒に来てもらったんです」

「へえ、お譲さんは画家志望ですか、素晴らしいわ、私も絵が好きなんですよ、絵が描ける人て羨ましいですよ、頑張ってね」

「ありがとう」

月乃は、恵子に、専門学校や盗撮、痴漢の話を、聞いてもらった

「悪い人って、一杯いるね、短いスカートをはくのは、あなたの自由、それ咎めるのは、間違っています、あなたの気持ちも考えないで、自分の家族をかばうなんて、自分勝手で、私は、嫌いやわ、自分がはけないから嫉妬しているんですよ、はっはっは」

終始、月乃の話で、終わってしまった

恵子と別れてから。、月乃は父に言った

「何か、変わったおばさんやな、服装もセンスないし、自分の事は何も言わないし、見たか、持っている電話はガラ系やったで、家が貧乏と違うか、うちと一緒やな、お父ちゃん、あんな女に関わったら、えらい目に合うかもしれんで、気を付けや、それより、おばさん、コーヒ-代を払っていたか」

奇妙な質問をしてきた、恒富はしっかり見ていなかった

「そら、払ったやろ、払っていなかったら、食い逃げや、誰も、追いかけて来ないから、大丈夫や」

「そうやな、払ったんやな」

月乃は納得した。


★ 日曜日の出来事


画商、日比谷隆は、土井恒富の絵を受け取るために、野田駅で降りたが、表情は暗かった、日比谷は、恒富の絵の腕前は認めているが、全く売れず、商売にならない、今日は、仕方なく、彼に強引に頼まれて、店に置くことにしたが、あまり気が進まず、家に向かうのに、気が重かった、今の恒富は、日比谷の紹介で、出版社、広告代理店から、依頼を受けて、イラスト、小説のカット絵、絵本の絵を描いて、生計を立てていて、本業の、水彩画が、趣味のようになっている、恒富は、1989年、大阪府が、府民の投票に基づき、例えば、千里の竹林、浅香山浄水場のツツジ、道明寺天満宮の梅園など、100か所を選定した、「大阪みどり100選」が好きで、安藤広重の「名所江戸百景」にヒントを得て、浮世絵ではなく、水彩画だが、「名所大阪みどり百景」と名付けて、5年間、大阪中を回り、描き続け、やっと完成したので、日比谷に頼み込み、店に飾ってもらうことになっている、家に着くと、部屋に100枚の絵が飾られていた、どれも美しく、素晴らしいと思うが、油絵ならともかく、水彩画では売れないと判断した

「土井君、悪いけど、無理やで、買う人はいないわ、しょうないな、これだけ、持って帰るわ、あとは

自分の家で飾っといたら、娘さんの絵の参考にもなるやろ」

自分の気に入った3枚だけ、義理で持ち帰り、店の空いている棚に並べた、1時間ほどして、初めて見る女性客が来店してきた、身なりをみて、冷やかしの客と推測し、応対は女の子の任せた、

この女性は、60才になった時、息子に社長の座を譲ったが、まだ62才、実質上は、実権を握っている、ビジネスホテル経営の凄腕会長で、現在、近畿圏だけで、20のホテルを経営している、近年、大阪は、外国人観光客が増加傾向にある、USJは老若男女に人気あり、2025年に大阪万博開催が決定し、カジノの建設もされそうで、ビジネスチャンス到来と、野田駅、中津駅近辺に、2つのホテル建設を進めていて、各部屋に、彼女の趣味でもある、絵画を額に入れて飾りたいと、一人で、画廊を回っていて、この店を発見した。

 彼女は、社長時代から、心がけていることがる、お客さんより、いい服を着てはならない、派手な装飾品もつけてはならない、従業員に対しても、偉そうな、態度をとってはならない、、常に目立たぬようにと思うと、どうしても地味な服装になってしまう、この前、フロントに行くと、新入社員から、掃除のおばちゃんと間違われ、ごみ捨てを頼まれてしまった、先輩従業員が、真っ青な顔で謝りに来たが、喜んで焼却場まで、ごみ袋を運んだ、

10分程、店内を見渡した、大きな額に収まった、立派な洋画が多かったが、ホテルの個室に飾れる、額の四つ切サイズの、日本画、水彩画がない、やはり、この店も駄目だと、あきらめ、帰ろうと、振り返った瞬間、無造作に置かれている、水彩画が目に入り、「あっ」と小さく、驚嘆の声を発して、立ち止まってしまった、爽やかで、写真のような細かい所まで、風景の描写が出来ていて、絵が生きている、感動してしまった、

「これ、誰の作品ですか」

女の子に尋ねたが、首を傾けるだけだった、絵を目に近づけ、右下に書かれているサインを確かめた、

「Thunetomi・Doi]と読めた、何処かで聞いた名前である、

「あっ、まさか・・・・・・」

お譲さんが、お父さんは画家やと言っていた、もしかしてと、店主に聞いてみた

「この、つねとみどい という画家はどんな人ですか」

「ああ、あいつですか、売れない水彩画家ですわ」

「いい絵ですね」

「腕は、私も認めていますけどな、今回、大阪みどり百景と称して描いたから、店に置けと言われて置いたんですわ、これ、大阪の風景らしいです、家にまだ一杯ありますが、これだけ持って来ましたが、こんなの売れるわけないでしょう、あとはもう、無理だから、置いてきましたわ、わっはっはは」

女性は、お客さんが、大阪に来てくれ泊まる部屋に、フランスの風景を飾っても全く値打ちがない、やはり、大阪の素晴らしい風景画が欲しいと、画廊を回っていた。

「これ、いくらですか」

「えっ、この絵ですか」

日比谷は驚いている

「そうですよ、この絵です」

「へぇ、1000円でもいいですから、持って帰ってください」

馬鹿にして、笑っている

「そんな事、言ったら画家さんに失礼ですよ」

日比谷を睨らみながら、どこかに電話をしている

「今から、その人に会わせてください」

「ええー今から、あいつに・・・」

あまり乗る気ではなかったが、少しでも金になればと思い、渋々、恒富の家まで案内した

「あら、やはり、あなたでしたね、お譲さん元気にしてますか」

二人に名刺を渡した

「木下商事(株)会長 木下恵子」

名刺を見て、日比谷の顔色が変わった

「あの、ホテルパルサーの、木下商事ですか」

「そうですけど、それが何か」

日比谷は、急に、ペコペコし出した

「あなた、名前や、職業を見てから、ペコペコしても駄目よ、さっき、私の携帯を見て、馬鹿にして笑っていたでしょう」

再び、日比谷を睨みつけた、

部屋には、97枚の水彩画が飾られていた、どの絵を見ても、構図、色彩、筆使いが、素晴らしい、実際に緑の風景の中に、吸い込まれていきそうな感覚になってくる、特に「夏の淡輪たんのわ箱作はこつくり海岸」「雪の箕面公園」が絶品である、恵子は絵を見た瞬間、感動して涙が出て、しばらく無言で眺めていた、日比谷に言った

「あなたの店にあった3枚、1枚1000円と言いましたね、でも私、3枚で3万で買います」

「ええ、3万で、ありがとございます、土井君、売れたでよかったな」

恒富は、感極まって、涙している

「それと、土井さん、残りの97枚は、1枚30万円で、あなたから直接買います」

「えっ」

二人は、一瞬、固まってしまった

「社長さん、それは、ちょっと、殺生やで」

「なぜですか、この97枚は、あなたの店にはなかったですよ、だからこの絵は土井さんの物よ」

「でも、私も商売やからな、それは困りますわ」

「私も、大阪の商売人ですよ、そのへんは、きっちり割り切って商売をしますよ、この絵は、売れないからと放棄したのでしょう、だから、あなたの物ではありません、売れると持って帰ったのは、あなたの店から買います、1枚1000円と言ったでしょう、でも1万円で買いました、えらい得をしましたね、残りの97枚は、土井さんから直で買う方法しかないのですよ」

日比谷は黙ってしまった。

「今、2店舗、ホテルを建設中です、あと、半年で完成予定です、一つのホテルで部屋が50あるから二つで100部屋に、この絵を飾りたいです」

恒富は、驚き言葉が出なかった

「それと、もう一つ、土井さんにお願いがあります、今、他のホテルにも、絵は飾っていますが、洋画ばかりで、大阪の雰囲気が出ず困っていました、今度は、大阪城や寺院、神社、レトロなビル、街並みなど、大阪らしい物を描いてくれませんか、今度は、こちらからの、お願いです、1枚50万で契約します、何枚でもいいです、是非お願いします」

再度、日比谷を睨んだ

「あなた、こんな凄い画家を、どうして放っておいたの、見抜けなかったの、あなた、画商として才能ないよ、潜りの画商ね」

大声で笑った、日比谷は、すねて帰って行ったが、入れ替わりに、月乃が帰ってきた

「あれ、この前の、おばさんですね」

軽く頭を下げた

「ちょうど、いい時に帰ってきたね、ここから近いから、お父さんと一緒に来て」

以前、3人で入ったカフェに連れて行かれた

「この上が、私の住まいです、このカフェは、会社が経営しています、店主は、旦那、儲けはないが,暇つぶしにやっているようなもんね」

道理で、この前、コーヒー代を払わなっかったのか、理由がわかり、父娘は顔を見合わせて笑ってしまった、しばらく話していると、中年の男性がペコペコしながら、入って来た

「人前で、私に、ペコペコするなと言ったでしょう」

男性は、頭を掻きながら、先ほどより、更に激しくペコペコし出した

「これ、絵画の料金です、日曜日で銀行が閉まっていて、会社に、現金が2500万しかなかったそうです、残りの410万は必ず、明日、振り込みます」

父娘は、黙って、札束を見つめ、同じ事を考えていた

「ここに、お母ちゃんが居たら、逃げなかったのに」

父娘、同時に涙を流していた、

ホテル完成後、部屋の絵画が、外人客に好評で、ここに行きたいからと、場所を聞きに来る人もいたし、絵ハガキで大阪土産として、10枚1セットで販売したところ、毎月100セットが売れ、人気商品となっている、

日比谷画廊は、相変らず、閑古鳥が鳴き、店主も泣いているが、世話になっているし、恵子には内緒で、契約通り、絵画の売り上げ金の1割を、日比谷に渡しているので、最近は、土井君ではなく、「先生」と呼ぶようになった(笑)

ある日、月乃がTVを見ていると、東京の日暮里駅で、痴漢の容疑をかけられた男が、駅員を振り切って、線路沿いに逃げていく姿が放映されていた

「あいつ、金地泰司や」

大声で叫んだ。





人を、顔や、服装のような見かけだけで勝手に判断してはいけない、

世の中には、まだ知られていない、隠れた才能を持った人達も多くいる、

真面目な人でも、一つ間違えば、どん底まで落ちる時もある。

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