第9話 学徒動員ではなく徴兵されました。
場面変わりました。
コータと福岡さんの話です。
第三次世界大戦が始まって一年が経過した。
「コータ二等兵、立つな。頭を下げろ!」
『ドンッ』
瓦礫の中、上官殿に襟元を引っ張られ頭を抑えつけられた。とたん、後方で爆破があった。
「コータ二等兵。周りに注意をしろって言っている」
「了解です」
今から一年前、通学途中で話題になった学徒動員は思った以上に早く、その二か月後に実施された。私もどこかの軍需工場へ行くのかと思ったのだが、軍に配属されることになった。
予想外だった。
学生が軍に配属されることは皆無ではなく、少ないがありえた。
が、私が選ばれた理由は分からない。
私を軍需産業の生産ラインに組み込むより、実戦に投入した方が良いとの判断がどこかであったのか?
いや、それはそれで結構なのだが……
「コータ君、ヤバいとこ来ちゃったね」
と、敵の砲撃を避ける為の瓦礫の下で、同級生だった福岡さんが泥で汚れた顔で明るく笑った。
彼女は戦場でも緊張感が無かった。
いや、それは良いとして、男子の私が徴兵されたのは仕方がないとはいえ、女子である福岡さんがなぜ徴兵だったのだろうか。
「福岡二等兵っ。私語を慎め。ここは戦場だ」
「てへへ、怒られちった」
上官殿に叱咤されても変わらず笑顔を崩さない福岡さんだった。
同じ高校から徴兵されたのは私と福岡さんだけで、最初は二人して名古屋の守山駐屯基地に送られた。
そして近代兵器の取り扱いをたった四か月程で覚えさせられた。
福岡さんは思った以上に器用で体力もあり、近代兵器の取り扱いも上手だったため優秀な成績を修めていた。
私は福岡さんとは反対で……詳細は省くことにするが、戦地へ送られた今でも近代兵器を思うように扱えることは無い。
だが私にも有利な点はある。
戦場で必要なのは、人の命を奪うという人類の禁忌事項に反する心構えが出来るかどうかではないだろうか。
戦争と人類は切れない関係である。戦場に兵士として立ったならば、そこには命を奪う覚悟と、命を奪われる覚悟があってこそだと思うのだ。
その点、精神のコントロールに自信のある私には有利だと思うのだ。
「コータ二等兵っ。撃つならちゃんと相手を狙えっ。何処に向かって撃っている」
「了解です」
いや、心構えは出来ていてるのだが……
「コータ君さぁ、脇を締めて構えた方が良く当たるよ、ほら、私の真似してみたら」
そう言いながら見事に敵を討ち取る福岡さんだった。
いや、以外と言っては失礼だが、彼女も命のやり取りに対する心構えは出来ているようだ。
それはそうとて……
守山駐屯地での基本訓練が終わると、私と福岡さんは敵国である中国の上海へ送り込まれた。
それが一週間前のことで、それから毎日爆撃の音を聞いているのだ。
『ドンッ』
後方で大きな爆撃音が響いた。直ぐに構え直して、敵が潜んでいると思う方向を狙撃する。
「コータ二等兵。どこを狙っているっ。しっかりしろっ」
「了解です」
最前線は思った以上に過酷だ。
我々の小隊の任務は、上海にある重要拠点の奪回らしい。が、その場所は新兵である私には教えられていない。
上海の街は私の良く知る名古屋よりも大きな都市だったが、この一年で道路は陥没しビルは崩壊した。爆撃により瓦礫の街に変わり果ててた上海は、既に住民も避難済みで廃墟化していた。その廃墟の一角に私たちの小隊は身を潜め、反撃のチャンスを伺っているのが現状だ。
『ドンッ』
今度は直ぐ近くで爆撃音が響いた。さっきよりも随分近い。耳鳴りがする。だが怯むわけにはいかない。撃ち返すのみ。
「コータ二等兵っ。何度も言わせるな。しっかり狙え」
「了解です」
いや、狙った筈なのだが。
本日中にもう一話アップしたいと思います。