第6話 魔王ブラックモアが世界を救う
やっと魔王が登場します。
人族は魔族を恐れ忌み嫌い、魔族は人族を見下し忌み嫌う。同じ惑星【異】の住人なのだが、相反する者として存在するのが人族と魔族である。
のだが、魔王とまで恐れられるブラックモアは、人族に対してなんの偏見も持たない。
それどころか、生命体としてか弱い人族が一生懸命生きて、悩んで、喜ぶ姿が好きなのである。
だから好んで人に交じって行動をする。
他の魔族から変だと思われようと、それが魔王ブラックモアなのである。
エイジア大陸南端にあるインド王国。
その北部にある大森林にブラックモアの居城がある。
周りには結界が張られているため魔族以外はその居城に近寄ることは出来ない。
巨大で不気味な雰囲気を漂わせる城の最上階がブラックモアの居室であった。
ブラックモアは1000年を超えて生きている魔族だ。
見た目は人族の40歳ほどだがその魔力は凄まじい。
どれほど凄まじいかといえば、魔王と言われるぐらいなのだから、それはものすごく凄まじい。
紳士のような振る舞いを心掛け、いつでも身だしなみを崩さない。
当たり前だが、年齢の割に若く見えると言われるブラックモアだった。
「うむ。今日も若々しいな」
と、姿見に写した己の姿を見て、自己陶酔型独り言を言ってしまっと思ったブラックモアだが、実際には独り言ではなかった。
「はい。今日も若作りです」
誰もいない筈の自室に、使い魔であるナイトがいたのである。
「な、そ、そこにいたのか、ナイト」
「たった今、ゲートで転移してまいったところでございます」
ナイトはインキュバスというお色気のある魔族である。
ブラックモアと契約した使い魔なので信用はおける。
だが、主人であるブラックモアのことを馬鹿にしているのかと思わせる言動がある。
困るのは、それが悪気があってそうなっているのか、天然ボケ的そうなっているのか分からないところである。
お色気があるだけに勿体ない。
とはいえ、ブラックモアはナイトに対し強く叱咤はしない。
ナイトはナイトなにりに、一生懸命自分に尽くしているのだから。
いや、叱咤しない理由がナイトのお色気とか、そんなことは一切ない……筈である……本当に……
「ナイトよ。我が自室に入る際には自分の足で歩き、そして入る前にドアをノックをしなさい。何度も言っているように、ゲートは魔力を消費するから使用は控えるように」
ゲートと言われる亜空間移動魔法は便利であるが魔力の消費は大きい。
巨大な城ではあるが城内で使うことにメリットはない。
魔王と言われるブラックモア級になれば話は別だが、使い魔程度では直ぐに魔力が尽きてしまう。
「分かりました。魔王様」
これでこの注意は何度目で、そのナイトの返事も何度目だろうとブラックモアは考えた。そしてふと我に返った。
「ナイトよ。先ほどのセリフ、少し気になるのだが」
「先ほどと言いますと……分かりました、魔王様。ですか?」
「いや違……」
そう言い淀んだブラックモアに対し、
「……うん?何ですか?」
と、ナイトが愛らしい顔で聞き返す。
『ナイトよ、我に若作りと言ったのではないか』と言おうとしたが思い直し、聞き流すことにしたブラックモアだった。
ちなみに、ナイトの色気に翻弄されたわけでは決してないと付け加えておく。
「……ま、まあ良い。で、報告でもあるのか?」
「はい。破壊王の現在位置が特定できたと、ホンコンのエバンス殿から連絡がありました。情報源はホンコンを本拠地とする正教会です」
「正教会が絡んでいるのか?」
「そのようです。世界を破壊する破壊王の復活は、神の意思により正教会が動き出したということでしょうか」
破壊王。それは数万年前にこの星の全ての生物、そして文明を根こそぎ食らいつくした生物。
長い年月を経て歴史からその名前は消え去り、その存在さえもあやふやで姿かたちさえ分からない生物だ。
魔族に伝わる歴史書には、あらゆる建物よりも大きく山のような巨大な生物で、火を吐きながら世界を練り歩き、一年で全ての文明と命を食らいつくしたと記載されている。
その破壊王が復活するのではと、この星のオーラから感じ取った魔王ブラックモアは、全世界の情報網から破壊王に関することを集めるようナイトに命令していた。
今回、ホンコンに住まう魔族の一人、エバンスからその情報が得られたのだ。
神の意志がどうであれ、ブラックモアは今の世の中を気に入っている。
滑稽な人族も、高慢な神族も、我儘な亜人族も、脳筋なモンスター族も、それらが入り混じって争って面白おかしくく生きている。
こんな面白い世の中を神や破壊王などに壊されたくはないのだ。
「で、現在はどこに眠っているのだ?」
「はい。遠い過去にはジャポン国の北、ベーリング海峡の底に眠っていたとの伝説がありましたが、現在は違います。タイ王国の王都、バンコクの南海に眠っているそうです」
「復活の予兆はどうだ?」
「確認されてません」
「うむ。ならば直接向かい結界を張っておくべきだな」
「旅行です……」
「旅行ではない」
「……」
食い気味に否定するブラックモアは、ナイトから恨めしい視線を受けた。
が、破壊王を結界で守り刺激を与えないようにするのは、旅行気分で行くべきではないとブラックモアは考えたのだ。
そんなブラックモアの考えはナイトには反するようでっあたのだが。
「でも現地まで行くのですよね」
「ああ。ではないと強力な結界は張れないからな」
「ではやはり旅行で……」
「ではない」
「……」
もう一度食い気味で否定し、もう一度恨めしい視線を受けるブラックモアだった。
「ではとりあえず、旅行の準備を致します。着替えの他、洗面用具やお小遣い、お菓子などはどのように致しましょうか。あ、ついでというには大回りですが、ホンコンに小籠包を食べに行くというのも良いですね。どうでしょ……」
「だから旅行ではないといっておろうっ」
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