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〜【異】世界の歩き方~  作者: スタジオ310
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第4話 二足歩行の牛に吠えられました

 私の最初の転送先は、惑星【異】にある5つの大陸の一つ、アジア大陸の東沿岸に位置する半島と、複数の島からなる小国、ホンコン王国でした。

挿絵(By みてみん)

 ホンコン王国には巨大な港が複数あり、常に多くの外国船が出入りしているので、アジア大陸最大の自由貿易国と言われていました。

 ホンコン王国が最初の転送先なのは連邦の指定です。

 未開惑星ということで治安に不安のある惑星でしたけど、その中でも比較的安全とされるのがホンコン王国だったのです。

 まずは比較的安全なホンコン王国でその環境に慣れ、そして本格的に調査を開始するようにと、惑星連邦の指示があったのです。

 

 ということで、転送ステーションから惑星【異】に転送されることになったのですが……


 転送そのものは一瞬でした。

 AIが人の居ない裏通りを選択し、私は誰にも見つからずに転送されたのです。

 今でも覚えています。

 その初めて見る惑星【異】の景色に


「……わあぁ……」


 と。思わず声を出してしまいました。

挿絵(By みてみん)

 惑星【異】のホンコン。

 その裏通りに立った私の目に最初に映ったのは、故郷星である惑星テラよりも近くに感じられる、沈みかけの赤さが強烈な夕日だったのです。


「……惑星【異】なのですね……」


 初めて吸った惑星【異】の大気が濃厚で、身体に張り付くようで息苦しさを感じました。

 ホンコンの気温は、惑星テラで私が住んでいた地域より少し蒸し暑いかなと感じる程度です。

 大気成分としてはテラ人の私には何の問題もない筈なのですから、あくまでもそれはそう感じただけで、初めての一人旅、初めての冒険旅行と……訂正、初めての任務に対する不安と期待からだったのかも知れません。

 で、最初の一歩を踏み出したのですが……

 

 思わぬ出来事は不意にやってくるもので……


 感動かみしめながら、ゆっくりと周りを見回した私は、想像の外側にあるものを目撃したのです。


「って、えええええっ……」

 

 牛、牛がいたのです。

 違うんです。

 牛が二本足で立っていたんです。

挿絵(By みてみん)

 で、前足なのか手なのか分かりませんけど、振り上げて唸り声をあげていたです。


『うがああああっ。がうっ』


 二足歩行の牛が叫んでいました。

 そして牛と目が合いました。


「ご、ごめんなさい。私、本当に、怪しい者でありませんっ」


 謝っている場合じゃないとは、この時には思い付きませんでした。

 ですが怖くて冷静な判断が出来なくなってしまったのです。

  

『ふがっ』


 なおも、叫ぶ牛に声で、両手で頭を庇うようにして目をつむった私でした。

 けど……

 暫くしても特に何も起きませんでした。

 なので、恐る恐る目を開けたのですけど……


「って、えっ?」


 何がどうなったか分かりませんけど、気が付くと二足歩行の牛が倒れていたのでです。

 この時、二足歩行の牛は惑星【異】の固有の野生動物なのかとか、聞くところの魔物なのか、そんな事が頭に浮かんだのを覚えています。

 もちろん、今は二足歩行の牛がミノタウロスという魔物だったってことは知っています。

 けど、なぜミノタウロスが街をうろついていたり、そしてなぜ急に倒れたのかまでは未だに分かりません。

 なんにしても、この時は入星第一歩で惑星【異】の洗礼を受けた感じでした。


「こ、これが未開惑星【異】なのですね。これも冒険ということでしょうか」


 そんな言葉を出しながら、恐る恐る側に寄ってみましたけど、やっぱり死んでいるようでした。


「手負いの二足歩行牛が、ここまで歩いてきて、で、力尽きたって、そんな感じなのかな……」


 牛はさておき、この場を離れた方が良いことは私にも理解できました。

 大きく深呼吸をして自分を落ち着かせながら、もう一度周りを辺りを見渡すと、賑やかな雰囲気がしてくる表通りが見えました。


「とりあえずは、ここから離れましょうか」


 私はそちらに向って歩き出しました。

 二足歩行牛のショックはありましたけど、表通りに出ると高揚感が沸き上がりました。


「うわぁっ!」


 そこは事前に聞いていたホンコンの中心街、チムサーチョイでした。

 そのチムチョーサイは活気に溢れていたのです。

挿絵(By みてみん)

 石畳の道。その道の両端に並ぶ露店。木と石を組み合わせて作られた建築物。通りを埋め尽くす程の人。人を押しのけ時折通る馬車。高級そうな衣装を纏った人も、兵士のような制服を着た人も、ボロな布を纏った人もいました。

 多くの人が帯刀していました。中には大きな帽子とマントを羽織り杖を持った少女もいましたし、不思議な匂いもしました。

 とにかく惑星【異】は私にとって異質でした。

布と木材の組み合わせで造られた道の両端を埋める露店など、初めて目にした異星文化は全てが新鮮で、その露店に並べられた商品も独特で、異星情緒があふれていたのです。

 何かの肉の塊。何かの内蔵。強烈な匂いのする粉。毛をむしられ吊るされた鳥。瓶に入った生きた蛇。宝石。指輪。服。食器。草履。木製玩具。何が書いてあるか分からない小冊子。原色だらけの色々なお菓子……

 見たことがあるような物もあれば初めて見るものもありました。

 衛生的とは言い難いのですけど、露店には色々なものが売っていました。

挿絵(By みてみん)

 惑星【異】での初めての地、ホンコンは混沌としていたのです。

 舞い踊りたい気持ちになりました。

 けど、私も良い年をした成人女性です。踊りはしませんでしたよ。

 あ、スキップはしましたけど。

 私はホンコンの熱気に当てられてしまったのです。

 初めて異星に来たことによる浮遊感か、地に足がついていない、そんな不思議な感覚に襲われたのです。

 言っておきますが、スキップしていたからではありませんよ。


明日、アップ予定です。

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