第3話 第三次世界大戦渦でも学生らしさを忘れません
異世界から部隊が変わって近代になります。
第三次世界大戦渦の世界です。
「学徒動員って、なにそれ?」
「知らなぁい。今朝、テレビでそんなこと言ってたから」
「戦争関係かなぁ」
「あんまし状況良くないみたいだし」
「日本、負けるのかなぁ」
「さぁ、どうだろう」
「学校どうなるんだろう」
三河駅から学校への通学途中、大勢の学生に混じって歩いていた私は、ふと周りの会話が気になり、
「学徒動員か……」
と、小さな声で呟いてしまった。
戦時中とはいえ、今現在は学生生活がなんとか出来ている。
が、この先の戦況によっては学徒動員も大いにありえるだろう。
「戦争中なのだからな……」
第三次世界大戦が勃発したのは、今から半年前の高校二年の秋だった。
中国が無理を通した海洋進出に対し、世界警察を自称するアメリカが過敏に拒絶したことを原因とし、中国対アメリカという図式で戦争の火ぶたが切られた。
早期に北朝鮮、反アメリカの中東諸国が、そして日本や東南アジア各国も参戦し、開戦から半年も経過すると戦いは全世界へと拡大した。
今現在、アメリカ軍を主軸とした同盟軍と共に、日本軍も多くを中国へ出兵している。
歴史の授業や色々なメディアから、前の大戦である第二次世界大戦時の生活様子は知識として知っていた。
が、実際に自分が近代戦争を経験するとは思わなかった。
物価が急上昇し、ネット回線の繋がりが悪くなった。
各種メディアが戦争に肯定的になった。
警察官が横暴になった。
敵国である中国製品の輸入規制のため、食材から電子機器まで様々な商品が激減した。
計画的停電が行われ、街から車が減った。
日本政府が徴兵制を取り入れるとの噂が流れ、同時に学徒動員との声も聞こえるようになった。
戦争は予想通りに私たちの生活を不便にした。
「コータおはよう。コータなら学徒動員って意味知ってるでしょ、教えてよ」
同じクラスの女子グループの一人に声をかけられた。
「私たちの様な学生が軍需産業などに従事させられることです」
端的に答えた。
「え、私たち、働かされるの?」
他の女子が声を上げた。
「戦況の悪化により国内の労働力不足は深刻です。このままでは学徒動員もあり得るでしょう」
「さっつすがコータ。何でも知ってるぅ」
「でもさ、学徒動員ってなったら、私らは中卒ってこと?」
「まぁ、それなら学校行かなくても良いから嬉しいかも」
「だよね。テストも無くなるし」
「それよりほら、コータも急がないと遅刻だよ。先行くからね」
女子グループが足速に学校へ向かった。
だが私の歩速なら十分に間に合う時間だ。慌てる必要はないと判断出来る。
駆けて行く女子グループの後ろ姿を見ていると、なんと幸せなのだろうと思えてくる。
戦時中であるのに緊張感が皆無なのだ。
彼女らに、いや、彼女らに限らず多くの学生からもストレスが感じられない。
戦時でもあるにかかわらずストレスを受けないのであれば、戦争に反対を唱える声も上げないであろう。
これはまさに近代教育の成果だと思われる。
社会的立場、守るべき家庭、それらのない若者の力は強い。
その若者が大きな声で戦争に異を唱えなければ、戦争はこのまま突き進む。
その先はどんな犠牲をもって戦争が終わるのか?多くの人の命だけではなく、この地球も……
いや、そのような危惧は私のような一介の高校生がしても仕方がない。
それにだ、高校生の私にはもっと身近な心配事があるのだ。
「ふぅ、学徒動員か……」
と、声を漏らしたとき、
「ねぇねぇコータ君。何、難しい顔してんの?みんな行っちゃたよ」
と、一人の女子に思考を止められた。
先ほどの女子グループの一人、福岡さんだ。
「ああ、福岡さん。慌てなくても間に合うと思いますので」
「ふぅん。じゃあ私もゆっくり行こう。でさ、コータ君は何で難し顔してたの?気になることでもあるの?っていつも難しい顔してるけど」
そんなにいつも難しい顔をしているのだろうか?
自身としてはそんなつもりなどないのだが。
「少し考えることがありまして」
「どうせコータ君のことだから調子外れなことでしょ。コータ君はさ、優等生で何でも知ってるけど、どっかおかしいんだよね。でもそれが見ていて面白いんだけど」
福岡さんは何かと私に話しかけてくる。
彼女から見れば私に興味を示すような箇所があるのだろう。
私には見当もつかないが。
「面白いところがある自覚はないのですけど」
「良いのよ、私がそう思っているんだから。で、なになに、何を考えているの?」
「ええ。もし学徒動員になった場合、私たちが働く職場の環境はどうなっているのだろうかと、そう思いまして」
「はぁ?環境?」
労働時間、休息時間、各種保険制度、給与などの勤務条件が、目下の私の心配事なのだ。
「そうです。学徒動員とはいえども職場の福利厚生は気になることです。劣悪な環境では仕事効率も悪くなるばかりですし」
そう言うと、福岡さんが珍しいものを見るような視線を私に向けてきた。
そして急に笑い出した。
「さっすがコータ君。想像以上の回答です」
何かおかしなこと言ったのだろうか?
私には見当もつかないが。
出来れば、明日、もう一話進めたいけど……