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夢玖夜  作者: じじ
6/9

さだめ




 こんな夢を見た。

 橋の欄干に小男がひとり、こちらに背を向けて座っている。

 退屈そうに足をぶらつかせ、危なっかしく体を揺らして空を見上げている。高く昇った日が男の影を橋の上に落とす。

 そんな真似はやめなさい、と注意するが男は抑揚のない声でケラケラと笑い「大丈夫だ」と答えた。顔は見えないから年は分からないが、子供の声ではなかった。

「見ているこっちがひやひやしていけない。もし、落ちでもしたらどうするんだい」と言うと、男は「そうしたらまた登ればいい」と振り向きもせずに言った。

 私は反対側の欄干から下を覗いた。川は大して大きくはないが、高いうえに流れが激しい。果たして戻ってこられるものだろうかと思案していると、目の前を若い男が通った。彼は小学校に通っていた時分の数少ない友人の一人であった。しかし、彼は私に気付かない様子で通り過ぎて行った。


「友人かね」


 男が尋ねた。私は何も考えず、半ばぼうっとした調子で「そうだ」と返した。すると男は少し浮かれたように厭らしく笑った。


「あれはもうだめだ」


「何が駄目なんだ」


「ずっと遠くへ行くんだ。もう戻って来やしないだろう」


 私は腹が立ったが、何も言うまいと下を向いた。日が傾いて男の影が私の方へ伸びた。その影がなんだか薄気味悪くて私は後ずさった。

 また、目の前を人が通った。弟であった。今度は声を出して呼び止めようとしたが、彼も私に気付くことなく橋を渡り終えた。


「約束をしただろう」


 男が得意げに言った。


「あいつはそれを守らんよ」


 何を約束したか忘れてしまったが、確かに何かを約束したし、それを弟が守らないことも分かっていた。だが、男が気に食わなかったので「あいつはそんな奴じゃない」と反論した。男は私の言葉など聞いていない様子で「あれは薄情だから仕方がないんだ」と続けた。

 私は更に強く言い返してやろうと前に出た。すると、すぐ脇から女が現れてぶつかりそうになった。慌てて体を反らして回避したが、やはり女も私に気付かない様子で通り過ぎて行った。「ああ、いっちまったな」と見えもしないのに男が言った。

 後ろに目でもついているのだろうか。


「あんたのだろう」


 そう言われて女の後姿を見ると、確かに私の妻らしかった。

 でも、じきにあんたのものじゃなくなるんだ、と言って男は背中を丸めた。私は先を知りたくなくて押し黙った。が、男は構わず続けた。


「人のもんになるんだ」


 さらに日が傾いて男の影が私に近づく。影から声がしているようにも思えた。


「それが、さだめってやつだ」


 それを迎えぬ者はいない、と男はまた厭らしい声で笑った。男の影が私の足先を侵食する。私は堪らず男に駆け寄り、丸まった背中を力いっぱい突き飛ばした。

 男は軽かった。

 何の抵抗もなく欄干から落ちると、暗い川底へ消えて行った。




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