食人鬼
こんな夢を見た。
それは立派な屋敷であった。
そのエキゾチックな佇まいは陰鬱な空気を纏い、薄気味悪く見えた。熱い雲が空を覆いつくし、広い沈床園に咲く色とりどりの花はモノクロームに映る。昼なのか、夜なのか見当もつかない。
しばらくすると、夜会の礼服に身を包んだ人々が屋敷を訪れた。客だろうか、と考える。ならば、この屋敷には今でも人が住んでいるのだろう。
やがて、鐘が鳴り……轟くような鐘が鳴り、屋敷の扉が音を立てて開いた。
そこから幾人かの子供が飛び出してきた。歳も背格好もばらばらである。血の気のない肌と、石膏のように白い歯だけが同じであった。少女たちは艶やかな色のドレスを翻すと、甲高い笑い声を上げながら少年たちと沈床園を駆け回り、客人たちの方へと走り寄った。それを見た途端、礼服の人々は青ざめ、子供たちに背を向けて、散り散りに逃げ惑った。
彼らの尋常でない様子に怖気づき、私は大木の後ろに隠れた。
目をやると、先ほどの少女が客人の一人の男に噛みつき、その肉を引き千切っているのが見えた。もう死んでいるのだろう。男は身を横たえたまま動かない。少女は牙をむき無心に肉を貪った。他の子供たちも同じように礼服の人々を捕まえては噛り付く。
ああ、この子たちは食人鬼なのだ、と思った。
これは彼らの晩餐会なのだ。
私は息をひそめ、彼らが腹を満たして帰るのを待った。木陰が私の身を隠した。
ふと、正面扉に少年がいるのに気がついた。彼も血の気のない肌をしている。他の子らは食事にありついているというのに、少年は白いズボンの端を握ったまま立ち尽くしている。
少年は死ぬのだと誰かが言った。口元を真っ赤に染めた少女が、莫迦にしたように笑った。私はなんだか、少年が可哀そうになってしまった。
私は木陰から歩み出ると少年の前に立った。彼は見上げるだけで噛みつこうとはしなかった。体を屈めて膝をつくと、ようやく少年は小さな牙をむいた。その可愛らしい白い歯が私の頭をがりりと噛んだ。
最後に頭蓋骨の砕ける音を聞いた。