くちなしの庭
こんな夢を見た。
此処は何処かの庭である。辺りには梔子の花が咲いていた。私は一文字に口を結んで、一心に穴を掘っている。
ひどく暑い。
唇が溶けだしてしまいそうだった。そうしてずっと、口を閉じていると、上唇と下唇の境界がなくなっていくような気がした。それでも構わないと思った。
しばらく掘り進めると手を止めてふり返る。男が一人横たわっている。触れると、こんなに暑いというのに手はひんやりと冷たかった。
何のために掘っているのか、失念していた。
男の隣にも幾人か横たわっている。皆、知人である。
殺されたのだ。犯人は分からなかった。
自分かもしれないが、そうでないかもしれなかった。
どちらであろうと誰かに言わねばなるまいが、口を開くのが億劫である。
そもそも、何と言えばいいのだろう。
しばらく、並べた死体を眺めていたが、ようやく決心がついた。
立ち上がると、ぽっかりと空いた穴に死体を全部投げ込んだ。シャベルを握ると、今度は一心に土を被せる。
死人に口なしと云うのだから、このまま葬ってしまえばいいのだ。
すっかり元通りに埋めなおしてしまうと、シャベルを茂みに隠した。
梔子の花が綺麗に見える。
ずっと黙っていよう。そう思った。