手を引かれ
こんな夢を見た。
手を引かれ、山道を歩いている。見上げると、女は振り向きもせず「もうすぐさ」と言った。
どこへ行くのか。
山に私を捨てるのか。
女はずっと前を見ていた。私はすっかり安心した。
女は着物を着ている。母ではない。祖母でもないと思う。誰でもいいと思った。自分は悪い子なのだから、捨てられても仕方がないのだ。
あちこちで虫が鳴いている。月が出ているのだから、夜なのだと思う。満月なので辺りは明るい。歩く先が照らされている。
女は足早に歩いた。私は遅れぬように小走りになった。それでも、女は速かった。手を引かれ、千切れそうに痛い。
怒っているのか。叱られるのは好きではない。
そんなことを考える。
随分と進んだというのに、女は手を離さなかった。
どこまで行くのだろう。
月が私たちを追って照らした。私は再び女を見上げた。白い頬が暗い木々の中に浮かぶ。長いまつ毛が見える。女はひどくゆっくり、しかし、確実にこちらを振り向こうとしていた。
心臓が早鐘を打つ。
絶対にふり向かないと思ったから、大人しくついてきたというのに。絶対に私を見ないと思ったから、ついてきたというのに。
厭だ。
そう思うのに、目は女の横顔に釘付けになった。女がぱっと手を離した。私は転んで尻もちをついた。慌てて立ち上がると、大きな影が私を覆った。
赤い鼻緒が、裾に描かれた鶴が、市松模様の帯が、あんなに歩いたというのに着崩れていない胸元が、見えた。
その上に、女の顔があった。