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夢玖夜  作者: じじ
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 こんな夢を見た。

 独り列車に乗っている。

 窓辺に座り外を見ている。つい先ほど乗り込んだようにも、もう随分とこうしているようにも思う。

 夕暮れである。

 木立が黒い影絵(シルエット)となって流れ去っていく。大きな鞄を背負った幼い子供たちが、はしゃぎながら車両の向こう側へと消えて行った。

 とたん辺りはしんと静まり返った。

 強い西日が差しこんだ。車内の影が一層濃くなった。奥の方は薄暗くある。何故、電気をつけないのだろう。

 しばらくして、声をかけられた。顔を上げると、帽子を目深にかぶった車掌が立っていた。切符を拝見すると云う。切符を見せると、車掌は小さく礼をし、次の車両へと歩いて行った。列車の揺れに大きくふらつき、まるで酔っ払いのような足どりであるのに、車掌は転びはしなかった。


 いつの間にか、昔の友人が立っていた。車内が暗いせいで顔はよく見えない。だが、彼が友人だということはすぐにわかった。長らく連絡をよこさなかった彼に腹を立てていた私は、友人を無視して窓の外へ視線を戻した。

 友人は隣に座った。しかし、一言も話さなかった。私は更に腹を立てた。一生、口をきいてやるものかなどと思ったりした。

 また、大きな鞄の子供らが、楽しそうに笑い声を上げて通り過ぎた。西日がサーチライトのようにさっと差し込んで、車内を一時赤く染めた。車窓の風景は一向に変わらない。

 また、声をかけられた。

 先ほど声をかけてきた車掌であった。切符を拝見すると云う。「さっき見ただろうに」と言うと「さっきはさっき」と笑い「今は今」と手を伸ばした。私が怪訝そうに切符を出すと、また同じように礼をして歩いて行った。

 ふと気付くと、友人はいなくなっていた。

 また独りになった。

 声をかければよかったと後悔した。起こらなかった未来のことがあれこれ頭を巡った。ため息をつくと、しばらく窓の外を眺めていた。

 子供らも、車掌も、もう来なかった。

 車窓の風景は、やはり一向に変わらなかった。




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