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キャラエピソード・四月某日の護道六華・貴田瑪瑙

 四月と言えば、健康診断身体測定である。


「神崎また背ぇ伸びた? 176? ヤバ、彼氏にしよ」

「従野がもう少し胸が大きかったら彼女にしようかな」

「は? なに、神崎の癖に胸の大きさとか気にしてんの? 一番そういうのと無縁じゃん。ってかなに私のことそういう風に思っていたわけ? 自分もないくせに恋人にはそういうの求めてんだ。だっさ。今までずっと一緒にいた幼馴染にかける言葉がそれなの。ふーん、まあいいけど。冗談で言っただけだし」

「怖い怖い。こっちも冗談だから。ごめんって、従野」

「いいって言ってんじゃん、冗談だって。なに、本気にした? あははっ、気にしてないから。気にしてないから」

 

 身体測定、それを気にするなというのは難しいのが思春期というもの。


「……176、神崎は176?」

「あ、六華。六華も背高いよね、いくつだったん?」


 ひよりが声をかけるも、六華は無視して身体測定器に再び割り込む。


「すいません、さっきのは何かの間違いだと思うので測り直してくれませんか?」

「あれ、君、護道さんさっき測ったよね。174だよ」

「いや何かの間違いなので」

「別にいいけど……」


 有無を言わさずに六華は他の面々の列に割り込んで身長を測る。


「174だね」

「よく見てください」

「……174です。これ以上は滞るから」

「よく見てください!」

「いい加減にしなさい」


 少し怒られて、とぼとぼと六華は身体測定器から離れる。その姿を見て、彼女を傲慢だとかワガママだと思う者はいない。


「……護道さん、背が低くて可愛いね。キスしてあげようか?」

「殺すぞマジで」

「どうどうどう二人とも落ち着いて。火花散ってっから。まだ体重とか色々測らなきゃダメだから」


 そんなに喧嘩せずとも、と思うのはひよりだけじゃなく、六華の友達三人もである。

 確かに外見だけなら、美空はかなり美形だ。けれど六華は少しも劣っていない。

 高い身長、つやつやの黒い髪も肌も、爪先から頭のてっぺんまで、見た目を重視して日々手入れを怠っていない。

 普通にしていると鋭い目つきも、美空以外には優しい微笑みが目元の泣きぼくろと一緒に可愛らしく見える。


「は? なんであんたの方が軽いの?」

「背が低いのに重いんだ、六華ちゃん丸くて可愛いね」

「……殺す」

「いやいやいやわかるでしょ。体重の理由はわかるでしょ。逆に天然でやってんの? 神崎はわかってて煽ってんの? え、それ後で恥ずかしい奴よ? っていうか一目瞭然じゃん。そこじゃん、そこじゃん、胸部装甲じゃん」


 ひよりがそっと、六華の胸部装甲に触れた。

 クラスでナンバーワンの厚みだ。一目瞭然とは言葉の通り。


「あ、うん……」

「……いいね、六華ちゃん、キスしても……」

「ってか名前で呼ぶな! あんたにそんな……」

「は? いや神崎マジだったの? 胸の話。あ、そう。いやいんだけど。私はいんだよ、それで。ま神崎をこれから見る目が少し変わるっていうか、ふーん、あそう。へぇ、なるほどね。あ、怒ってないし。ちょっとイラッと、いやチクッと来ただけ。お互いに背ぇ高くてお似合いなんじゃないの? ははっ、仲良さそうで何より。じゃあ乳のない私はおとなしく消えるとしますよ。精々乳繰り合ってたらいいよ」


 ひよりが離れると同時に、二人が同時に声をかけてしまう。

 振り返ったひよりの目はまさに永久凍土のごとし。


「いや全然仲良くないから! 本当に! ひより!」

「従野、ちょっと悪ノリが過ぎた。ごめん」

「……じゃあお願い、聞いてもらおうかな」

「もちろんなんでも聞く!」

「私も」

「二人とも、程々に仲良くして」

「えっ……」

「仲良くなりすぎなくていいから」

 

 従野ひより、人を使うのがうまい。


「わかったわかった。もうこいつにそんな敵意とかないから! ただ勉強できてスタイル良いのは腹立つけどそれとこれとは別ってことで!!」

「う、護道さんがそういうのなら。私も別に嫌いなわけじゃないし」

「あ、そう? 良かった。じゃ視力測りにいこっか」


 いいように使われたなぁ、と思いつつ、六華は肩の力を抜いた。

 そもそも六華が美空を敵視したのは秩序を壊す存在だからである。

 正義感やバランサーとしての気持ちが、ついつい負けず嫌いなところを刺激されて私怨と混同していた節はある。

 体型にせよ学業にせよ、美空が尊敬できる場所にあるのなら、そこはきちんと褒めるべき点かもしれない。

 気持ちを改めて、六華は美空のキス魔としての部分は警戒し、けれど憧れるべき部分は憧れる、と考え直したのである。

 護道六華、彼女の本質は超ストイック。


―――――――――――――――――――


 貴田(きた)瑪瑙(めのう)、黒いショートヘアに少し小柄な女子。

 その特徴的な丸眼鏡を外す。


「上。下。下。右。左。上。左。右」

「……右2.0」

「えっなんで」

「これ伊達メガネだから」

「なんで伊達メガネしているの?」

「真面目そうに見えるから」


 貴田瑪瑙、護道六華をして見掛け倒しと言われた人間。成績は下から数えた方が早い。

 授業中に既に寝こけているところを見られているし、見掛け倒しの不良なのである。


「上。上。下。下。左。右。左。右。……はぁ~終わった。寝てこよ」

「……セコい。ああいうやつどう思う? 一回ビシッと言ってやらないとダメじゃない?」

「ふむ、私がキスしてやりましょうか」

「悪をもって悪を制すみたいな? なるほど……。あんたが得するだけでしょ。ざけんな」

「ちぃ」

(案外仲良いじゃん)


――――――――――――――――――――


「ふむ、本当に寝ている」

「見た目なんか変えたって、何も変わらないのに。何考えてんのかな」

「第一印象を大事にしたいんだってさ」


 六華と美空がこそこそと瑪瑙を囲む中で、少し離れたひよりが言う。


「第一印象さえ良ければ、最初からずっと悪いやつじゃなくて、最初は良かったけどだんだん悪くなったって思われてマシ、みたいなこと言ってた」

「いつ聞いたの?」

「この間。一応クラスのみんなと喋ったし。悪い奴じゃないよ」

「悪い奴じゃないって。じゃあ寝る理由とか聞いてない?」

「単純に昼夜逆転」

「つまんね」


 すーすー、規則正しい寝息を立てる瑪瑙。お仕置き、と言うほどではないがどうにかしてやろうと六華は思うのだが。


「あごめん、ちょっと私あっち行くから」


 ひよりが気になる話題を聞きつけて、するりと他のグループの方へ抜けていく。

 残されるのは眠る瑪瑙と、六華と美空。


「ではお顔を拝借。ん~」

「おい待て何してんの。お顔を拝借ってなに」

「お仕置キッスを」

「勝手にすんなよ。寝込みを襲うなんて」

「ふむ、さっきまでこの女に痛い目見せてやろうと言っていたのでは」

「あんたが得するだけだからダメって言ったろうが」

「だが、私は今キスがしたいんだ! 従野が行った以上、この欲望を解消するには他の手段がない。誰かがキスさせてくれればいいんだけど!」

「……わかったわかったから! はいはい私がすればいいんでしょ!」

「え、いいのですか六華さん!」


 ちゅ!

 六華は目を閉じて、美空の頬にぶつけるようなキスをした。

 勢いと速さ、美空でさえ虚を突かれるほどだった。


「これでいいかよ! 満足か?」

「……こういうのも、たまには」

「……ふーん」


 少し離れたグループから、蔑むようなひよりの目が二人を射抜く。バカのような騒ぎに仲が悪い二人ということで妙な注目も集めていたが、その後の反応もまた印象深い出来事であった。


「ち、違うんだって。ひより、そんな目で見んなよ。私はこんなやつのこと」

「そうだ。従野、私と君の仲じゃないか。こんなやつ……」


 六華は唇を、美空はキスされた頬を拭いながら、弁明している。

 その奇妙なパワーバランスがまた美空をクラスに馴染ませることになったりしたのである。


(うるさくて寝らんねえ……)


 机に突っ伏したままの瑪瑙は、寝返りを打つように顔を向けて、恨めしそうに二人を見ていた。

今回の総括

護道六華はクソ真面目。

貴田瑪瑙は伊達メガネ。

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