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作戦

『明後日の放課後、私が退院するタイミングで神崎達と一緒に悪霊小路を通る。そこで足止めして仲間が敵を倒すのを待つって感じで』


 悪霊小路、いまだ還らぬ悪霊が住む家のある住宅街の通り。

 かつて影山たちが悪戯半分の肝試しをしたせいで貴田と神崎が赴くハメになった場所でもある。


「幽霊がいるとかってところか? なんで」

『祓い師が二人もいるんだからを悪霊祓ってほしいじゃん。それで時間稼ぎできるし、あわよくばそ怪我して抜けてくれないかなって』

「それ、私達も危なくないですか?」

『危ない。だからタイミングとしては祓い終わった時とかが安全かも。貴田さんみたいに見える人がいると助かるなぁ』

「……えっ、強制参加なわけ?」

『ううん。いてくれたら助かるって話」


 この期に及んで不参加のつもりだった貴田である。なにせ神崎家に恩はあれど美空には特に恩がない。

 しかし従野のことは好きだ。


「……見るだけね」

『やった、ありがとう。じゃあ後はなんかいい感じに邪魔して動き止めるって感じで』

「適当すぎやしねえか?」

『参加人数もわからないし、無理はさせられないからね。軽く石投げるとかピアノ線で引っ掛けるとかになるかなぁ』


 既に充分犯罪だが、そんなのでいいのか、と思うものもいれば参加者は増える。

 

「じゃ、おれはおれで策考えて後で連絡する。大堂も付き合え」

「承知」

「お前らはどうする? 毒島、坂井」

「えっ、お、俺は……」

「好きにさせてもらう。当てにはするな」


 しどろもどろの坂井が普通なのだ。はっきりと何か企んでいそうな毒島は、流石組の名を冠するだけの男はある。むしろ従野は心配になるほど。


「……私も、連携とか苦手なので、少し考えてみます。煙の人と、炎の人と、透明人間……」

「おう。ペンキとか買ったから後で渡す。透明人間は一発殴りたいなぁ」


 ネジの外れた者たちが行動的な中、冷静な者も前向きに検討を始める。


「俺も何か考えが思いついたら当日向かう。それでいいか?」

『んー、変に結束するよりかはその方がいっか。あんまり危険なことする人は事前に教えてくれればオッケーかも。悪霊小路みたいにそれが終わってからやろう』

「犯罪だよ」


 クラスの雰囲気が従野の協力ムードに流れかけた時、護道の言葉は冷えた水のように打たれた。

 

「どんな理由があっても、やっていいことと悪いことがある」

「先に越えたのは向こうだぞ」

「先生は黙って!」


 折れた腕を見せびらかすも、護道は意に介さない。蔵馬もひゅうと口笛吹いて悪ぶるのだから、黙らせるのも道理だが。


「誘子は何考えてんの? そんなに神崎と仲良くなかったのに、妙に協力的で」

「……悪霊小路でアイツが助けてくれたのはわかった。アイツが来てから人めがけて飛んできた石が、変な空中に向かって飛んだりしていたからな」


 幽霊が実際にいるならば、の話を護道にしても仕方ない。

 けれど、誘子は体験したからわかる。


「アイツは良いやつだ。心配してわざわざ来てくれた。何もしないのは寝覚めが悪い」

「……勘違いかもしれないじゃん」

「それに従野は影山の彼女だからな。手伝うくらいするだろ」


 立石と柴木の方に視線をやる。友達を助けないなんて男じゃない、と言わんばかりに。


『そう言ってくれると助かるよ。別れたけど』

「わ、別れたのか」

『素っ気ないもんさ』


 気まずい空気が流れるが、立石が慌てて問う。


「てか、従野は影山に会ったのか!?」

『うん。気付いたら部屋にいた。あいつも幽霊みたいなやつだねー』


 面会時間を過ぎた後の侵入だったからそれなりぼかして話しながら、話を変えようと続ける。


『作戦は私がまとめるよ。……無理はしないでほしいから、危ないことは本当に行ってね。私と神崎は別に取り返しのつかないことになるわけじゃないから』


 実際に軟禁されるかどうかはわからないし、ここで逃げ果せてもまた連れ戻されるかもしれない。大した意味のない救助劇になるかもしれない。

 それでもやる気満々の奴らはいる。


『じゃあ明後日の放課後かな。またね』

「……明後日の放課後」


 草原が呟く。それが今生の別れになるのか、全部悪ふざけだったで済むのか。

 通話が切られて蔵馬が教室から出て、奇妙な熱気はようやく静まり返った。

 

「で、護道はどうすんの」

「……行かないけど」

「あ、そう。坂井は」

「い、一日考える」

「おう」


 天知は短い言葉を交わしただけで。


「大堂、行くぞ」

「あ、天知殿」


 すぐに教室を出ていく。その後に草原が続き、やがて毒島も出た。

 満仁と鹿目が護道の表情を伺い見るが、言葉を交わすこともできず。


「……行きましょう」


 連れ立って下校した。

 空気の重い護道がいなくなったことでようやくぽつりぽつりと相談の声が始まるが、軽い談笑にもならず重く、寂しげな空気感から逃れることはできないままであった。


ーーーーーーーーーーーーーー


 従野の病室、彼女の傍には影山が立っていた。


「やっぱり天知はすげえな。かっけー」

「私は怖いよ。すげーけど」


 祓い師を倒す増援こそ、この影山であり、今回の作戦のメインは彼が考えたものである。


「で、三人倒すってマジなの? 今ならごめんで済むけど」

「いやぁやるよ。こう見えて一途だし義理堅いんだよ、俺って」

「なんの義理よ?」

「神崎を守れってやつ。俺の中じゃまだ有効」

「……ありがたいけどさ」

「ライバル増えたっぽいしな。株を上げとかないと」

「……あんたって」


 ひょうひょうと軽い態度に本気が滲み出ているのは伝わってくるが、尚更影山は理解しているだろう。立場としても今後取る行動にしても従野の幸せに結ばれるようなことは絶対にあり得ないと。

 

「何考えてんの?」

「幸せな未来」

「……自分が悪人に思えてきたからやめて」

「ひよりが悪いってことはない。だから、俺みたいに無条件で助けるやつがいてもいいだろ。俺だけじゃなかったがな」


 神崎のために、クラスで馴染もうと努力してきた自覚はある。それが自分のために協力してくれる仲間になっている。

 自分が他人を利用している、そんな想いが巡っては無力感と罪悪感に苛まれる。


「あんたにとっての幸せってなに? 正直それに付き合える気がしない。あんたが幸せになる気がしない」

「ははっ! そうか。まっ、幸せな未来は自分でつかみ取るものだからな。従野ができる気がしなくても、俺は気にしない」


 影山は従野の方を見てから、窓の外を見た。

 爽やかな青空が病室からどこまでも広がっている。従野はそこに空々しい虚しさしか感じなかった。


「じゃあ、俺も準備するかな。ちょっと早いけど、退院おめでとう、ひより」

「……それは先に言うことじゃないでしょ」


 影山は慣れたように窓から飛び出ていく。

 毎度のことながら、下に落ちるのではなく屋上に向かって跳ねていくのだから、心配のしようもない。

 それでも、同級生の見るからにしている無茶は、心配であった。

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