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UFDS・影山登

 夜行月が生徒会長になるだろうと一年一組が浮かれている中で、影山もまた友達とそれを喜んでいた。

 その中で、従野からの着信があった。


「おっすひより、どしたん?」

『や、どんな感じよ?』

「どんな感じって? 投票結果なんて見なくてわかると思うけど」

『そっちじゃなくて。神崎』


 神崎美空を見張れ。守ってほしい。

 そういう約束があってひよりと恋人同士になったことを思い出して影山は血相を変えて教室を見回す。だがここにはいない、と確認するとそのまま電話を繋いで慌てて教室を出ようとする。


「いや今か? お前一緒じゃないのか?」

『一緒だけど』

「一緒なのかよ!」


 相変わらずの小気味よい会話のテンポに、影山は一瞬差した不安の影を払うようにノリツッコミをした。

 しかし従野ひよりは別に誰に対してもこういうテンポの会話はできるし、それは彼女がどんなことを企んでいようとできる処世術に過ぎない。

 故に彼女の抱えた闇というものは、同じテンポでいくらでも吐き出せるものだ。


『一緒だけど、私が神崎を守るとは限らないじゃん?』

「……は?」

『なんつーか、いい風吹いてきてんじゃん』

「今どこ?」

『探してみ』


 電話は無慈悲にも切れた。

 不穏な雰囲気のまま、折り返しても意味がないと悟った影山は即座に行動を起こす。


「忍、土愚頼む」

「え、は! お前またっ!」


 言伝だけを残し、彼は目立たないように廊下を歩く。なるべく早く、急いで。

 従野ひよりか神崎美空を探す、と言われても、校内にいるかどうかも定かではない。幼馴染の二人がどこで一緒にいるかというのも想像もできず。しかも従野は神出鬼没であった。

 考えながら急ぐと、廊下の曲がり角で思わず人とぶつかりそうになる。ガタイの良い影山にもぶつかり負けない体は、藤岡頼人

「お前は、影山か。ちょうどいい、従野はいるか?」

「なんで……いや、それが今探してるんすよ。なんかありました?」

「いや、少しな。教室にはいないのか」


 言うまでもなく、影山は頷いてその場を後にしようとするのを、藤岡が腕を取って止めた。


「いたら連絡しろ。何か、嫌な予感がする」

「俺もアンタがそんなこと言うからそんな気がしてきたよ」


 影山は軽口を叩いてまた歩き出したが今度は先ほどより速く、気づけば走っていた。

 嫌な予感どころではない。従野の秘密主義もここまでくると一度怒った方がいい。

 とにかく会えば、きっと普段通りに接してくれるだろう。軽い調子で「やー、見つかっちった。」と苦々しく笑う姿でも見られれば、それだけで安心するのに。

 図書室、保健室、体育館倉庫、と生徒が密会をしそうな場所を見たあと、もうお手上げと言わんばかりに影山は屋上に来た。

 高いところから見渡せば見つけることができるかも知れない、建物の中や教室はほとんど見えないとは言え、他より遠くを見渡せるのは事実だ。

 そして、ちょうど神崎美空を見つけることができたのだ。


「かっ、神崎!」


 ただし、反対側の校舎の屋上。

 階段を降りて渡り廊下を通って行かなければならないが、それより先に影山は手すりを掴んで覗き込む。グラサンをとって肉眼で見るが、そこにいるのは美空と夜行月、のみ。

 従野ひよりがいない。


「……なんだよ。何の嘘だよ……」


 月と美空が一緒にいることを奇異に思いつつも、今はひよりの方が問題だ。美空はクラスから浮いていつも通りと言えるが、ひよりが普段と全く違う状態なのは一応は恋人である影山にはよくわかる。

 だから電話しようと携帯を取った時、ちょうどそのひよりから電話がかかってきた。


『影山、案外速く見つけたね』

「神崎は、な。お前、一緒にいないじゃん」

『え? いるよ。ほらちゃんと見て。恋人でしょ』


 と言われても、屋上にいるのは月と美空のみ。

 目を細めてもそれ以外に人はいない。

 と思ったところで、電話越しと、下の方から「おーい」と声がした。

 美空たちの下、反対側の校舎の外のところで従野ひよりが手を振っている。


「いや一緒じゃねえじゃん!」

『まあね。……そう、そうだよ。一緒にいるって、私が自分勝手に思っているだけかもしれないね』

「……ひより?」

『それなりに悩んでんのよ、馬鹿なりに。どうしたら美空のためになるか、私のためになるかって』

「何の話だ?」

『神崎美空をアンタは守れるかって話』


 一階外の従野ひよりから目を離し、再び向かいの屋上に目をやると、神崎美空は柵を登っていた。


「……は? おい……おいおいおいマジか、マジか!?」

『マジっぽいね。予想はしてたけど。……私は受け止める気はないから。潰れてペシャンコになると思うし』

「おい!」

『じゃ』


 柵の上に立ち、キリストのように両手を広げて、ゆっくりと傾いていく神崎美空を尻目に。

 影山登は電話をかけながら、屋上の柵に手をかけた。



 神崎の行動はどう見ても「飛び降り自殺」としか言えない。その理由も、従野が一緒に潰れて死ぬ気な「飛び降りられ自殺」しようとしているのも、何もかも理解できなかったが、とにかく危険であり止めるべきということだけ理解した。

 

「忍! 神崎が屋上から落ちる! 向かいの校舎だ!」


 繋がった電話にそれだけを言うと、影山は一切の躊躇なく屋上から飛び降りて、階下の窓へ窓へと移りながら思い切り壁を蹴って飛んだ。

 激しく転がり回りながら駆け抜けて向かいの校舎を目指す。

 だが、間に合わない。

 従野ひよりは地面に寝そべって、上から落ちてくる美空を見つめているようだった。


「せめて……俺を見てくれよ! ひより!」


 なるほど、これはたしかに恋人であることが耐えられない。

 なんて思いながら。

 突如背中に走った衝撃と激痛に不意打たれ、影山は意識を手放した。

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