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キス魔と幽霊と生徒会長

ゴールデンウィークにささっと頑張って第一部完ってところまで持って行きたいと思っています。いやこんだけエタってたからみんないくらでも待つでしょって気持ちですが…

 神崎美陸、夜行月、夜行月、朝明日向、夜行月。

 対立候補による投票呼びかけは既に趨勢を決したかのようであった。有力候補である風紀委員藤岡の票が流れた時点で、既に夜行月の当選は揺るがない。

 だがその空気を否! 断じて否! と切り裂く男がただ一人!

 従野ひよりの切ったワイルドカード、決められたスピーチをせずに思いの丈を綴るというのが毒島大仏の予想通り!

 毒島は智略を巡らせることで従野がありきたりな技をせず普段通りの態度を使うと見越していた。あの演説が仮にアドリブであろうと、アドリブに見せかけたものであろうとそういう態度で民衆を騙すことは予想していた。

 神崎美空のために、生徒会長に立候補して欲しい。そんな言葉の真意は最後まで理解できなかったが、あの夜行月が生徒会長になる流れ、このまま行くことがきっと従野ひよりの思惑通りなのだろう。

 それを彼は切って捨てる!


「皆の衆、それでいいのか! と問いたい! 初めから有力だった候補にわざわざ戻して良いのかと! この乱痴気騒ぎを終わらせていいのか! 時代を変えるのは常にストレンジャー! この俺が生徒会長になれば修学旅行の旅行先も! トイレのスリッパも上履きも球技大会も焼きそばパンの値段も……!」


 割愛。

 後に続く従野フォロワーの立候補者たちは、毒島のようにはならず、しかし原稿通りの演説はせずに夜行月への投票を呼びかけることをしていた。


「いいな君たち……、君たちは夜行月への投票を呼びかける原稿を書いて私に見せていた、最初からそのつもりだった。それでいいんだぞ……」


 蔵馬秋良の最後の囁きが、ズルズルと戦いの幕を下ろしていく。


「時間が一分に満たなくてもいい……、そうだ、体調不良ということでの辞退もあるな。規定には書かれていないが、体調不良なら仕方ない……。私が診断する。今は辛くなくても全校生徒の前で演説すると考えただけで目眩や頭痛がするよな……うんうんそうだ……」


 この行為は後に生徒指導の会津からキツい説教が待っているのだが、この場で緊張していた従野フォロワーからはいたく感謝されることになったという。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 予定より遥かに早く演説が終わったために、各クラスの選挙管理委員が各クラスの票を集めて開票する作業が行われることになった。

 急遽立てられた予定では、この後放課後までスピーチがあるはずだったのに、5、6時間目を使って生徒会選挙を全て終わらせようという腹づもりである。

 いっそ授業をすれば学業でにスケジュールは取り戻せるだろうに、選挙を終わらせて安心したいという教師陣の勝手な思惑がそこにはあった。早くケリをつけて帰って寝たかったのだ。

 各クラス、生徒は教室に戻って投票だけを済ませる。あとは自由時間のようなものであるが、これだけ騒ぎになった生徒会選挙ということで多くの生徒が教室で、固唾を呑んで待ったり、あるいは宴会のように楽しんだりしていた。

 特に、当選確実と思われる夜行月などはクラスメイトの祝福を待ちながら教室で待つべきだったろうがーー


「つーちゃん、ちょっといい?」

「……すみません、ちょっと失礼します」


 幽霊に声をかけられ、彼女はそっと教室を出てそのまま戻らなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 また、人気のない廊下で神崎美陸は藤岡頼人を捕まえた。


「やってくれましたね。やるからには生徒会長を目指す、と言ってくれたのに」

「……全く我ながら芯がブレすぎでした。結局、どちらかを決めることができなかったから、初心を貫くことにしたまでです」

「君らしいと言えばらしいですが……」


 元生徒会長が見せたのは、苛立ちのような表情で、それは頼人が初めて見た露骨な美陸の表情であった。


「そういう先輩は随分とらしくなかった。……まだ自分は幽霊だの家系だのという話を飲み込めていないのかもしれません」

「それでも信じてくれたとは思いましたが……過ぎたことを言っても仕方ないですね。あとは祈るだけです。やれることはやった、と」


 果たしてやり尽くしたのか、と問われれば美陸はいくらか不完全燃焼といった具合である。

 夜行月が結局生徒会長になった、と言えば元通りのようだが、全ては従野ひよりの策略のせいで元の木阿弥にされたのだ。

 もう少し穏やかな手段を使えば、藤岡にも必要以上に警戒されることはなかったかもしれない。だが、悔いても遅い。

 何もかも、遅すぎる。


「そうだ。藤岡くんが約束を破ったんだからお願いを聞いてくれますか? 従野さんか神崎さんを見つけたら場所を教えてください」

「……はい。俺も従野を探していたところです」

「では、そちらは任せます」


 言うと美陸は踵を返してどこかへと歩いていく。

 一年の教室とは反対方向であるのに、その迷いのない動きについぞ頼人は声をかけることが出来なかったのである。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 そして、一年一組。


「なぜ誰も俺に投票せん!?」


 毒島大仏の魂の咆哮に護道チョップが炸裂する。


「夜行先輩に投票するって約束だったでしょ。っていうかアンタよくもあんなふざけた真似できたわね……」

「従野に一矢報いてこそ男の花道だろう! 逆境への挑戦、劣勢からの逆転! そしてウハウハ生徒会ハーレムの夢を……」

「おれは応援してるぞ大仏ぅ〜!」

「天知殿は投票権がないが……」


 毒島組からも比較的まともな大堂と坂井が夜行に投票するため、正真正銘の0票である。

 

「……みんな、最初から夜行さんに投票するつもりだったの? じゃあなんで立候補なんて……」

「さぁ、ひよりがそうしてほしいって話していたんです。ひよりは最初からその気だったんじゃないですか?」


 月山女史の疑問はそのまま教師陣全員の疑問になる。

 そもそも夜行月と従野ひよりの接点を知らないし、神崎美陸がいてなお夜行月が最有力候補だったのだ。従野ひよりの策略は「動機不明瞭」をもって完全犯罪となる。

 そうなるはずだった。


「……ところで、その従野さんは?」

「それが、わからないんです。投票権がないからいても意味ないって。ま、神崎美空もいないから、どうせ二人でいると思いますけど」


 投票は着々と進み、大方の予想通りに夜行月が生徒会長へ当選することになる。

 せいぜい30人の出した紙束を、集計するのは難しかろうが結果は既に見えてしまっている。


ーーーーーーーーーーーーー


「……どうだ、夜行月。結果は」

「……そうですね。確信しています。あなた方の働きのおかげで、私が生徒会長になったということを」


 屋上。

 たった二人、夜行月と神崎美空が屋上に来ていたことには訳がある。

 学校で空が一番近い場所だから。


「……まだ、結果発表されてないのにね……」


 夜行星が力なく呟いた。それはもはや月でさえ透けて見えるほどに力を失い、自らの意思で動けないほどに弱っていた。

 幽か、と言う言葉の通り、平生の夜行星と思えないほどに弱々しい病人のような姿は、まさに死を前にしたも同然の状態だ。


「……みんながさ、みんながつーちゃんに投票してくださいって。つーちゃんが一番だよって、言ってくれた。私、もうそれだけで……」

「……星、私は」

「つーちゃんともっと、ゆっくり喋りたかったなぁ……」


 寂しげで物悲しい、けれどどこか割り切ったところのある星の消え入りそうな声に、月の瞳が揺らぐ。

 美しい、と美空は目を見張る。

 黒く淀んだ瞳がぐるんと渦巻くような様相は、ますますその暗さに沈み込んでいくような危うさがあった。それが涙に濡れようと、悲痛に歪もうと、昏き深さは薄まらない。いっそ薄まってしまいそうな危うさもまた美空を惹きつけるところがあった。


「ね、私が消えちゃわないうちにキスしちゃってよ、二人で」

「……星、もう少しだけ……」


 初めて、夜行月が夜行星を惜しむような言葉を言った。星にとってはそれで充分満足だった。もう充分過ぎる、あまりにも、それは今までの年月を埋めるほどに夜行星を満足させてしまう。

 ワガママで陽気な気分屋のような幽霊は、人の心の機微に敏感で、幼い心のままで姉の心労になっているとわかって自ら離れるような人間だった。

 それでも未練がましくこの世に居座り続けて、ついに和解を果たした以上、もはや未練は、和解の協力者がきちんと報酬を受け取る姿を見るくらいしか残ってはいない。


「……美空」

「ああ、私ももう我慢できない」


 月が逃げようとする腕を取り、美空は強引にその体を抱き寄せて、ひときわ大きく揺らぐ瞳を見つめながら唇を重ねた。

 今までで一番最高のキスだと、強引に抱き締めながら美空は確信した。

 強引に月に引き剥がされるまで僅か数秒、この数秒のために生まれてきた。

 黒い激情、悲哀も憎悪も籠った感情の渦に揺らぐ虹彩を目に焼き付けて、その唇の温かさを、嫌がる力強さを、夜行月の感情というものを味わって。


「……美空、つーちゃん、ありがとう……私……」

「――ああ、満足した……」


 夜行星の体がひとりでに空へと上がっていく。薄く蜃気楼のように空の青に溶け行きながら、遠くなっていく地面を見下ろした。

 神崎美空は、飛び降り防止柵に立ちながらゆっくりと倒れていく。青い空の中に薄れ消えていく夜行星を見ながら、空が離れていく。

 堕ちていく。


「……はぁ?」

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