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エピソード・ゴールデンウィーク最終日の夜

 家に帰ると、玄関に見慣れた靴が一足。

 今日は影山と貴田のせいで変に疲れたけど、わざわざ電話をする手間が省けると思うと幾分か気が楽だった。

 と、思いきや廊下に兄。


「ただいま」


 兄の美陸(みろく)は私を一瞥すると、声も出さずにそそくさと部屋に入っていった。相変わらず無視されている。

 今更、美陸にかける言葉も何もない。私も気にせず自室に向かった。


「従野、来てたんだ」

「おー、邪魔してる」


 カーペットの上で寝転がった赤い髪の妹に、私のベッドに座っている金髪の幼馴染、どうも治安が悪い。


「何か用か? 連絡してくれれば……」

「や、ゴールデンウィーク会ってないし会いたくなった」

「明日会えるのにか?」

「ゴールデンウィーク中に会うのが大事なんだって、こういうの」

「そうか、私もそう思う」


 ベッドに座って、そうそうに唇を触れ合わせた。懐かしくも新鮮味のある口づけに、思わず身を引く従野を追いかけるように体を添わせる。

 結局、貴田は睨みが怖くてキスできなかった。こういう時に、従野はおとなしいから助かる。


「……情熱的じゃん」

「電話しようと思っていた」

「そう? ……美海ちゃん見てるけど」

「夜行星も見ている」

「……どんな顔してる?」

「美海と同じような顔だ」

「はは……」


 気付けば従野の肩を抱いていた。自分でも少し恥じるほどに、嬉しかったんだと思う。これは反省すべきかな。


「私、邪魔か?」

「この感じだとみられんのちょっと恥ずかしいし、席外してくれると嬉しいかな。幽霊は私見えないから平気だけど」

「じゃ、じゃあ私は見ておこうかな……」

「星、美海と一緒に遊んできなさい」

「でっ、でも見れないことが後悔になるかもしれないし!」

「ダメだって星ちゃん。ほら、行くよ」


 美海がむにゅるんとゼリーみたいに星の髪の毛を引っ張っていく。あの体はどうなっているんだろう、と疑問が浮かんでは即座に消えた。

 

「……家に来るの、久々だよね」

「あー、ま、そうなる? 急に喋り方戻すじゃん。ビクるわ」

「あっちも慣れてるけど、たまにはこうして喋らないとね。従野も安心でしょ」


 元々、あの演技みたいな喋り方を勧めてくれたのも従野だ。キス魔の変なキャラを覆い隠すとか、クールっぽくてキスの嫌悪感を減らせるとか色々と考えてのことらしい。

 今は、それにも慣れてきたし、不満もないけれど、従野は昔の喋り方の私も気に入っているようだった。


「別に、神崎の好きなようにしなよ。私は……」


 消極的なことは聞きたくない。軽く口づけてから私の手番だ、と言わんばかりに。

「従野がどうしたいか、を知りたいから」


「……私は、戻ってほしいよ。神崎のお母さんが死ぬ前の神崎に」

「……そんなに変わったかな?」

「気付いてないんだもんなぁ」


 従野が呆れた風に言うのが無性に腹立たしくて、またキスをした。

 従野はキスをしたくないのだろうか、ということもたまに考える。彼女は私の言うことに逆らわないし、私が嫌がるようなこともしない。

 そして、私のために尽くしてくれている。そんな献身を私はたまに心苦しく思う。


「今の私は嫌い?」

「まさか。嫌いな奴に尽くすように見える?」

「でも従野は誰とでも仲良くなるし」

「それは……アンタのためだけどね」

「影山と付き合ってるじゃん。何気に一番驚いた」

「それも神崎のためだって言ったら信じる?」

「そこまで私はお人好しじゃない」

「あ、信じてくんないんだ。それ一番傷つくかも」

「いや、従野が影山と付き合うことと私になんの関係がある?」

「それは秘密~」


 ……従野は影山の秘密を何か知っているのだろう、と感づいた。

 従野が私に隠し事をすること自体、まずないのだ。それこそ貴田の『宝玉眼』のような秘密でもない限り。

 ここで問い詰めてしまうこともできるけれど、影山の秘密は危険なことに及ぶ可能性もある。従野が影山を何かに利用することができるなら、影山が従野を利用することもできる。

 

「……どう考えても怪しいから気を付けて」

「見りゃわかんでしょ。あのバカメガネつけてるやつが普通なわけないし」


 けらけら笑う、そんな従野が一番胡散臭くもある。彼女がどこまで知っているのか、私にはわからない。

 それだけは、何度キスをしてもわからない。

 再び唇を重ねる。別に、キスなんてしたところで何もないのだ。ただ落ち着くからしているだけで、それに傲慢さすら覚える。


「……なんか従野とのキスも飽きてきた」

「……え、それ本当にめっちゃショックなんだけど」

「影山とキスした?」

「なんで、急に」

「したんだ」

「……うん」

「どんな風に?」

「……えー、そこ座っといて」


 私がベッドに腰掛けていると、従野は私の足の上に座ってきた。けれど、少しだけ高さが足りないのか、私の足を開いて、その間に座り直した。


「……こんな感じで、私がこう」


 膝の間の従野は、私に体を預け、仰け反るように頭を預けてきた。

 そして、そのまま私の頭を掴んで、引き寄せた。

 こんな体勢のキスは流石にしたことがない。


「……こんな。うわ、ヤバ。これ今までで一番ハズイわ」

「……飽きないね、従野には」

「やめろって、マジ。うーわ、影山にはそんな緊張しなかったのに」


 従野が本気で恥ずかしがっているのは珍しい、両頬を手で覆うくらいに顔が熱そうだ。

 うーん、壁から星の首だけがこっちを向いて恥ずかしそうにしている。しっかり覗かれた。

 言わない方が、いいだろう。従野がますます恥ずかしがる。


「今日泊ってく?」

「え? あー、どうしよ。いやそのつもりで来たんだけどさ。あー……ハズいし」

「そんな恥ずかしがるなよぅ。美海も喜ぶしさ」

「……じゃ、甘えるか」

「やった」


 その日はしっかり従野を抱き枕にした。

今回の総括

神崎美陸は美空と口を利かない。

従野ひよりは飽きられるのがショック。

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