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エピソード・カラオケ後

 しばらくみんなで騒いだ後、だんだんカラオケに飽きてきた人とまだ歌いたい人で部屋が分かれた。

 歌わないグループは女子が私と鹿目、岬、とクラスでいつも一人の草野。

 男子が影山、大堂、と、影山とよく一緒にいる馬鹿の立石。

 歌わないったってそれなりに会話は盛り上がっている。

 

「ってか草野さん大丈夫? こういうの来るキャラと思ってなかったし」

「それは、その……うん、でも従野さんがいるから、だいじょぶ、だよ」

「そう? 辛かったら言いな? 別にこんなん途中抜けしたっていいし」

 

 草野さんはいかにも大人しそうな子だ。前髪は目を隠しそうなほど長くて、眼鏡をかけていつも一人で勉強してる。その割に成績はクラスで真ん中くらい。や、私よりはめっちゃ頭いいけど。

 歌う、歌わない以前にこういう騒がしい場所が苦手そう。ってか影山とか私が苦手なタイプぽい。

 なんか、全般的にのんびりした会話してまったりさせたいな。


「ってか大堂、毒島組でソロで来てんじゃん。ぶっちゃけあいつらどうなん? ヤバい?」

「え。ヤバいが」


 大堂(わか)、馬鹿みたいに背が高くて二メートルくらいって言うからなんかチビの天知と揃って変なマスコットみたいになってるけど、そもそも顔がいかついんだよな。


「毒島殿は今日も睡眠薬を手作りして誰かに仕込むとか言っていた」

「犯罪じゃん。何もかも。え、なんで放置してるの?」

「まずうまく行かんし、うまく行ってもその後を考えてないやつだからな。先程、坂井殿がぐっすり眠っているのは確認した」

「へえ。ちょっと面白いね」


 眠っている坂井を運ぶ毒島たちの姿が簡単に想像できる。

 確かに、あいつらはなんか何やっても上手くいかなさそうなイメージがある。ゴールデンウィークの登校でも基本怒られているし。


「で、大堂はどうなん? やっぱスケベなことばっか考えて生きているの」

「やあ、私はそんな。天知殿との付き合いで」


 こいつが妙に紳士ぶっているのはなんか腹立つけど、他のと比べて悪い噂を聞かないのは事実だ。

 毒島と天知が問題なんだな……。その毒島と天知が、眠っている坂井を運んでいるのが扉の外に見えた。ははん、なるほど。こいつら馬鹿だな。


「じゃ、なんかあったら止めろよ。体デカいんだし」

「御意」

「武士かよ」


 大堂とはたまに格闘技の話で盛り上がったりするけど、その話は今持ち出しても仕方ないな。立石になんか話振ろうかな。

 と悩んでいると影山がこっちに話を振ってきた。


「友達の話って言えば、ぶっちゃけ神崎さんってどんな感じよ、従野ちゃん」

「え、神崎の話? 結構デンジャーな話題じゃん」


 ま、気になるのはわかる。本人に聞けないことも私になら聞けるだろうし。

 神崎のことでしていい話はなんかあるかな。みんなが満足しそうなやつ。


「何が気になんの?」

「いつから仲良いの?」と、鹿目。

「親同士の付き合いあっから物心ついた時から一緒。幼馴染ってやつね」

「き、キスってその時から?」と、岬。

「あー、幼稚園の頃からちょいちょいね。最初は嫌だったけど小学生ん時に今みたいな感じに」

「神崎のことは好きなのか?」と、影山。

「は? いやそういうハズイこと聞くなし。別にそんなんじゃねーし」

「でも付き合ってんだろ」と、立石。

「……は? 私と神崎が? 何それウケる。あーし恋人募集中ですけど」

「……え?」


 全員がぴたりと止まった。なにこの空気、めっちゃスベった? え、恥っず。そんなわかりづらかった? 市ヶ谷がいたらめっちゃ笑っていると思うけど。


「彼女じゃないんですか、神崎さん」

「いやどこを見たら恋人になんのよ。そんなイチャついてねーし」

「いや……それは無理があるだろ」

「クソバカップルだと思ってた」

「……えー」


 喋ってない大堂や岬やらも同じような視線を送っているから、全員そう思っていたらしい。なんていうか、ひどい勘違いをされているらしい。


「付き合ってないってクラスライン送っといた方がいい?」

「いや、別にいいけど。まあ変な感じだとは思ってたけどさぁ」

「キッツ。もう神崎の話はやめやめ。なんか他にないの?」

 

 話を逸らしたいけど、みんな神崎に夢中っぽい、困ったなぁと頭を抱える。

 けど、助け舟もまた影山からだった。


「あ、じゃあ女子に聞きたいことがあんだけど。健康診断の時ってだいたい裸になるよな」

「は? 殺すぞ」

「いやそうじゃなくって! 純粋な疑問があって!」


 岬や草野はもちろん、大堂でさえちょっと引いている。影山は真のスケベだと思ったけど。


「……土愚さん、体どうなってんの? なんか、なんつーか、境界線、みたいな……」

「ああ~」


 納得の声がそこかしこから聞こえてくる。

 土愚さん、頭はどう見ても柴犬だけど、制服から見える手足はしっかり人間のものだ。ちょっとふっくらしてて柔らかい、指先を見ただけで綺麗だなって思う。

 私は納得の声に反発して、むしろ影山を睨み返した。


「は? 境界線? 何言ってんの? 可愛いクラスメイトの裸の話なんてするもんじゃないし」

「いや、そういうのじゃなくて、純粋な好奇心が」

「スケベ魂だろがい。六華とか草野さん相手でも同じこと言えんのか」

「それは……いや! 絶対違うだろ! 土愚は!」

「バスト91」

「えっ……」


 私の一言で、すっかり全員黙った。この一瞬の沈黙が何を意味するのか、私も奴らも理解しているだろう。


「……土愚さんのことをいやらしい目で見やがって。男は本当に獣ばっかりだ。狼どもめ」

「いや狼っていうか土愚は犬……」

「人の女を犬呼ばわりかよ。サイテー」


 むしろ岬とか女性陣も若干困惑気味だけど、私だけは土愚さんの名誉を守るからね。西木戸がここにいたらたぶん同じように言っているだろうし。

 

「ウエスト59だよ」

「えっ……」

「モデルじゃん……」

「六華ちゃんくらいすごい……」


 うんうん、護道はマジでヤバいよね。ついつい見ちゃうんだよね。んで顔上げたらちょっと目が細まってるからごめんって謝る。


「ともかく、土愚さんのことをいやらしい目で見る奴らには土愚さんの話はしません」

「いやスリーサイズ言ってんのお前じゃん! いいのかよ!」

「良いって言われたも~ん。ふふん、わんわん」


 別に境界線のことを隠さなくてもいいけど、乙女の秘密を詮索する奴に土愚さん自慢をしたくなったわけだ。

 毒島たちも帰ったし、時間もぼちぼちいい感じになってきた。


「こんなスケベとこれ以上一緒にいられないし、そろそろ帰ろうかな」

「……じゃ、じゃあ私も」

「毒島殿らも部屋を出たようだし、私も」


 草野が一緒に立ち上がるし、まあこれで良かったんじゃないかな。


―――――――――――――――――


 もう片方の個室にも似たようなことを告げて、まだ残る人らが一部屋借りたまま、一部屋は引き払って。

 歌わない組はほとんど帰路に着く。満仁のために残る護道組にちょっと同情しながら、影山が帰るのが意外だ。


「じゃね、草野さん」

「あ、う、うん! 従野さん! また!」


 ぱたぱたと手を振って、さっさと駅の方へと向かう。

 影山と二人きりってのも変な感じだ。こいつも大堂ほどじゃないけどかなりデカいし。まあ私がちょい背が低いからそう感じるだけかもだけど。


「……ちょっと寄らね?」

「え、なに」


 影山が指差したのは駅近くにある小さな公園だった。もちろん、夜分遅く、ってほどじゃないけどそれなりの時間だから誰もいない。

 公園の方もさびれているっていうか、こんな駅前で子供は遊ばんでしょ、って感じのボロ具合だ。


「どういう趣味よ?」

「まあいいからいいから」


 へらへらしてる影山につられて、ついていくことにした。草野に合わせて早く抜けたけど、別にまだ帰らんくても大丈夫な時間だし。

 直接座るのもはばかられるようなベンチとかブランコだけど、私はそこに座ってキイキイと音を立てながらのんびり揺れた。


「で、なに? そんな土愚さんの境界線気になる? それとも神崎?」


 影山が私をわざわざ呼び止める理由なんてそんなもんだろう。ま、あいつも影があるわからんやつだし他の可能性もあるけど。

 影山は隣のブランコに座ってきた。ちょっと青春じゃん。ウケる。


「従野のことなんだけどさ」

「私? めづいじゃん」

「付き合ってくんね?」


 めづい、どころじゃない珍しい話だった。ブランコがキイ、と音を立ててから、影山の方を見た。相変わらずキラッキラの眼鏡が夜空の方を向いていた。


「……え告白的な?」

「的な」

「ヤバ。ガチの青春じゃん」

「おう」

「でも土愚さんみたいなのが好きなんでしょ?」

「いやだからそれは」

「はいはい好奇心ね」


 土愚さんに対してはそれ以上ないか。それが普通だと思う。半分冗談で聞いてみただけ。


「でも小さいよ。胸」

「胸で判断してねえって」

「ま触ってみなよ」

「え。ちょおまっ!」


 立ってから、強引に影山の腕を取って胸を触らせた。揉むほどもない……いや平たくても揉むことはできるけど、私のは誤差って感じだ。コンプレックスの一つだ。


「どう?」

「……いや……意外と強引なんだな……」

「ドキドキしてないでしょ」


 ない胸みたいなもんだから気にしてないけど、そもそも影山から告白されても特に何も感じなかった。そりゃちょっとは驚いたけど。


「それ、断ってる?」

「八割くらい無理じゃん?」

「二割は?」

「チャンスある」


 正直、どうでもいい。

 そもそも恋人なんてできないと思っていたし、いてもいなくてもいい。恋人募集中はもちろん冗談だった。

 ただ煩わしいのが面倒臭いけれど、影山はむしろそういう距離感を大事にしてくれそうだから二割はありだ。他の人だと普通に断っていたかもしれない。

 ……まあ、距離感大事にしてくれそうな割には告白が早すぎるから断り気味の方向で。


「俺結構尽くすタイプだけど」

「そう」

「一途だし」

「うん」

「……優しい」

「あっそう」

「脈ある?」

「ま二割。ってかなんで私なん?」


 そういえば男子に人気みたいなことを影山は言っていたけど、まさかご本人がそんな感じなのか。でも影山みたいなお喋りが私を恋人にしたいというのは納得しかねる。


「信用できないんだよね。影山って」

「ひどっ。いやマジで好きよ? 従野ちゃんのこと」

「そうなん? そんな感じ出さないじゃん」

「いや普通そうだろ。好きって気持ちがバレたら男子おしまいだし」

「へー、男子社会オモシロ。……なに、キスとかセックスとかしたいの?」

「……行く行くはな」

「うん」


 座っている影山の足の上に座った。見上げれば間近に影山の顔がある。

 後頭部を掴んで、引き寄せた。


「ん……」

 きらりと光る眼鏡の奥は見えない。見えないなら見えないで、まあいいや。

 私も雰囲気を出すために目を閉じる。

 時間にして数秒にも満たない。一瞬ながら、神崎以外にキスをしたのなんていつ以来だろう。

 唇が離れて、ぼーっとした影山が呟いた。


「……えーっと、オッケーってこと?」

「あ、そういう風に受け取った? まだ一割だけど」

「減ってるじゃん! なんで!?」

「……さっきから言ってる二割とか一割って、私が断るかどうかじゃねーし」

「え、じゃあなんの……」

「アンタが耐えられるかどうか」


 影山の唇をふにふに触る。いやこれはめっちゃ緊張する。

 これは、ね。


「キスとか私もうどうでもよくなってんだ。神崎とずっと一緒だったから、今更キスしても。いや、まあ神崎以外は初めてくらいだからちょっとはドキついたけど」

「それなら……」

「私、明日からもそれからも、ずっと神崎とアンタ以上にキスしまくるよ。それでアンタが耐えられるかって?」

「……俺が代わりに神崎と」

「いやなんで彼氏と幼馴染のキス見んとダメなん。バカじゃん。それは私が嫌だわ」


 誰が恋人になろうと、私が一番キスをするのは神崎だ。

 それが事実である以上、私の恋人には嫌な思いをさせるだろう。


「私はいいけど、アンタそれでいいの?」

「……それってオッケーってことだよな! よっし! これからよろしくひよりちゃん!」

「……、根性据わってるじゃん。いいね、嫌いじゃないよ。じゃ尽くすタイプって言ってたし早速頼み事しようかな」

「おう、なんでも言ってくれ! へっへ、ひよりちゃんと付き合えてラッキーだからなんだって聞いてやる」

「アンタって土愚さん見張ってるじゃん?」


 ビタリ、と揺れるブランコごと硬直したみたいだった。

 やっぱ隠してたんだ、言うかどうか悩んだけど恋人になった記念に聞いてみようと思ったんだけど。


「ま、そこはいいんよ。アンタが土愚さん見張っているみたいに、神崎のことも見張ってくんない?」

「……なんで? ちょっと混乱してんだが」

「や、いい、いい。シンプルに考えて。神崎を見張ってほしい、っていうか守ってほしい」

「いやもっとわからなくなったぞ。なんかあんのか、あいつ」

「まあね。幽霊が見えるし」

「幽霊。え、俺馬鹿にされてる?」

「彼女の言うこと信じろし」

 

 今の影山は、土愚を見張っていることがバレた上に、神崎が幽霊が見えるとかいうヘンテコ情報を与えられた。盛りだくさんで困惑するのも無理もない。

 でも、こっちが要求するのは本当にシンプルなことだ。


「神崎に危険が及ばないように影から守れって言ってんの」

「……わ、わかったよ。……ってか全部神崎じゃん、お前」

「まあね。不満なら恋人解消する?」

「いや、請け負った。好きな女の好きな女も守ってみせてこそ男だろ」

「やり。かっこいいじゃん」


 今度こそ、時間もほどほどだろう。帰るのにはいい時間だ。

 影山と別れてからしばらくたつと、クラスラインで付き合います、なんてメッセを影山は出していた。

 まあ、別にいいけど。

今回の総括

従野ひよりと影山登はお付き合いすることになった。

毒島大仏は薬とか作れる。

草野春海は従野ひよりが好き。

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