エピソード・ゴールデンウィークを前にして
学校が始まって一月が経とうとしている。
クラスの雰囲気も落ち着きつつあり、みんなが部活や交友関係でつるむようになってきた。
そして、四月末から五月初頭にかけて始まるのがゴールデンウィーク。
高校が始まってからの楽しい長い休みを、どんな風に過ごそうかな。
「今日集まってもらったのは他でもない。わかるな、従野」
「いやわかんねえし」
休みを待つ前に、秋良とかいう生徒指導の女教師に呼び出された。それも私だけじゃない。
クラスの馬鹿代表影山、問題ばっか起こしてる毒島グループのうちの三人、寝てる貴田、走る根来、変な祢津で合計八人。
わかんねえ、とは言ったけど何となくわかる。職員室内にある生徒指導室にぎゅうぎゅうになりながら集まったのは、問題児ばかりだ。
「お前らは問題ばかりを起こしているから呼び出した。場合によってはゴールデンウィークの補習を受けてもらうことになる」
「マジかよ秋良ちゃん! そんな厳しいこと……」
「影山、お前はもう初日決定してんだから腹括れ。おい貴田、立ったまま寝んな目ぇ開けろ。祢津はスマホ見んな。根来は走りたそうにウズウズすんな!」
まとめて注意してしまおう、としたんだろうけど先生も考えが浅い。この問題児を一度に注意なんてできるわけがないんだから。ほんと軽いわ。
「先生まだー?」
「……グオッ! ん、……ぐ、ずず……」
「スマホを見ているんじゃないよ、漫画を読んでいるんだ」
「口答えすんなっ!」
「てか秋良ちゃん、私呼び出されるいわれなくない? 真面目にやってんだけど。マジ」
「従野、お前は授業態度は良いし、神崎のお守もしてくれる。言葉遣いと振る舞いの割には優等生と言っていいと思う」
「じゃなんで?」
「単純に成績が一番ひどい。補習を受けるべきだと思われる」
「ぶー」
親指を下に向けてブーイング。けれど秋良ちゃんが睨んできたからすぐやめた。怖いし。
ゴールデンウィークに補習するかどうか、それが問題。
「私は、お前らの意識改革を求めている。態度が変わらないようなら補習でしっかり学んでもらうが、これから気持ちを改めて頑張りますと言うのなら、補習をする必要はないからな」
「あー、じゃ、まあ頑張りますよ。勉強するかどうかわかんないっすけど」
「え~ずっと走ってたいです」
「まあ、気が向いたらね」
「……ぐごっ!」
「ってかそんな強制されて気持ちとか変えらんねえって秋良ちゃん!」
「お前ら補習な」
「……え、私もっすか? ぶー」
「「「「ぶーぶーぶーぶー!!」」」」
「マジで泣かすぞ」
秋良ちゃんにますます睨まれたので、私たちは揃って黙った。私が言うのもなんだけどみんな正直ものだ。
次に秋良ちゃんは毒島組を見た。こいつらとにかく評判悪いんだよな。スケベ男子ズ。
「君らの方は結構な悪評が飛び交っているが、まずエロ本の貸し借りをやめろ」
「証拠もなく生徒を疑うものではないぞ」
リーダー格の毒島、がり勉って感じの見た目とキノコみたいな髪型が特徴的な陰険そうな眼鏡だ。でも物怖じしないしはっきりとものを言うし、苦手ではないタイプ。
こいつがチビの天知とまともそうな坂井、あとここにはいないデカい大堂を率いてグループを作っている。以上、説明おわり。
「何が証拠だよテメェ。こっちが何十冊没収したか分かってんのか。黙ってお前らもゴールデンウィークに来いよボケぶん殴るぞ」
「ふん、今の言葉を教育委員会に……」
「こっちは怖くねえぞ、もう三回飛ばされてんだ」
「ゴールデンウィーク、出ようではないか!」
先生の野蛮そうな過去がさらりと飛び出てきたのも驚きだけど、毅然とした毒島の反応もビビる。
案の定、坂井と天知は毒島に食って掛かっている。休みに学校とか、そりゃ嫌だけど。
「お前らは本質がわかっていない。自らに反省を課すのではなく、休みの日に学校にさえ行けば生徒を矯正できると考える学校側の怠慢に甘んじて我らの欲望を貫き通すのだ!」
「な、なに言ってるかわかんねえぞ毒島!」
「ゴールデンウィークに学校さえ行けばエロ本貸し借りできるってことだろ!」
この馬鹿共を見てうげーとなっているのが根来と私だけなのがもうヤバい。影山は笑ってるし貴田は無表情だし祢津はスマホ見てる。……たぶんこいつら地球が明日滅びるってなってもこうなんじゃないかな。
「……反省する素振りでも見せれば自由に休めるんだぞ馬鹿共、教師の方だって補習なんて面倒臭いことしたくねえってのに……!」
「秋良ちゃん、本音漏れてるし。ってか、アンタらもちょっとは先生に協力的な姿勢見せたら? 実際このメンツだったら働くのコウちゃん先生っしょ。コウちゃん先生泣いちゃうよ」
適当にごまかしごまかし言ってみると、影山辺りは考え始めた。こいつも私と同じで協調性とか考えているし、コウちゃん先生を困らすのは心が痛むんだろう。
根来を見ろ、こいつ悲しそうにしてるし。一番優しくて女の子っぽい、ちょっと頭撫でてあげたいわ。
祢津はマジでカス。欠伸してるし。
欠伸と言えば、貴田。
「ずおっ」
「……? あ、貴田、目ぇ開けたまま寝てる」
「なに!? いや目ぇ開けろとは言ったけど寝んなとも言っただろ貴田!」
「秋良ちゃん、もう話まとまんないし私だけ後日呼んでください」
「そう言うな従野、お前がいないとますます収拾がつかなくなる!」
「いや~こうしている間に私の勉強の時間減るわ~。ま、帰っても勉強とかせんけど」
「お前……クソ、どうすれば……」
先生がマジで可哀そうになってきた。ちょっとこのクラス問題児が多すぎるのかもしれない。私はだいぶ真面目な方だ。
「で、アンタら反省は?」
「つっても、俺は授業態度そこまで悪くなくね? 賑やかししてるだけだし」
「ふん、影山はそうか。で、アンタらは、女子三人」
「眠いのは仕方ない」
「走ってるうちに気付いたら授業始まってるんだもん!」
「……あ、私? さあ……」
「ポンコツヤンキーズが。毒島組は?」
「態度を変える気はないが……どうせ大堂がここに呼ばれなかったのは成績が理由だろう? 我らで勉強会を開催し前向きに解決しよう」
「お、意外と男見せるじゃん」
「……従野、お前はご意見番か何かか?」
「さあ。それなりにみんなと仲良いだけっす」
本当に、それ以上でもそれ以下でもない。本来は神崎がクラスから孤立しないために潤滑剤みたいになる努力してたけど、先生を助けるのにも活用できた。
……いや、ヤンキーズが結局補習コースっぽいから全然助けれてないけど。カスだけど。
結局、毒島組が補習から外れるだけになった。
私も補習には参加だ、馬鹿だから。
「ってか影山は? 別に適当に反省すれば不参加行けるっしょ」
「いや、せっかくこんな女子集まるのに行かないのは損だろ」
「……やはり我々も教員の元に勉強をした方が効率がいいと思わないか! 坂井! 天知!」
結局、全員参加らしい。先生が白目を剥いているように見えた。
何もできなかったけど、私が良い人だってアピールはできたしいいか。
職員室を出る時、私を追い抜いて祢津が先へ進んだ。
瞬間、待ち構えていた神崎が、私じゃなく祢津にキスをした。
たまにある。というか最近よくある。ていうか最初からある。
私がいない間、神崎は普通に他の人間とキスをする。一応同じクラスの奴に限っているらしいけど。
野比さんとか芦谷くんに管理不行き届きを叱られたこともあるが、そこまで面倒見切れんわ。
ただ、祢津の反応はそういうやつらと少し違って。
「――ふぅん、悪くないね?」
ほくそ笑んで、歩いて行った。
「……ふむ、祢津さんだったか。……妖艶な」
「否定されなけりゃ誰でもいいんか。何でもいいけど、待たせてごめん。帰ろっか」
「おーう帰ろう帰ろう!」
今度は影山だ。後ろから無遠慮に。お前と一緒には帰んねーっての。
どたどた! と根来が走り抜ける。職員室を駆け抜けるとは本当に怖いものなしなやつ。
「……ん? もう一人いない?」
「あ? 何が。祢津と根来はもう先帰ったでしょ」
影山がなんか、ちらちらと辺りを見回す。少し離れたところに教師がいる以外、私と神崎と影山の三人だけだ。
が。
「もう一人……なんか気配っつか、視線っつーの? なんか……」
また変なこと言い出した、と思ったけど。
きゅ、と神崎が弱々しく袖を掴んできた。
――神崎と同じものが見えている?
「……はいはい、モテ男は言うことが違うね。アンタらのせいで怒られ時間伸びたんだからとっとと帰るよ」
「あ、そうなー、悪い悪い。あ、悪いついでに今度カラオケ行かね!? もう毒島たち誘ったんだけどさ!」
影山はあっけらかんと楽し気に言ってきた。毒島たち誘うって、そりゃ女子ほとんど来んでしょ。
ゴールデンウィーク、果たして何日休みがあるか知らんけど、せっかくだしカラオケ行こうかな。
「神崎は?」
「行くわけないだろう」
今回の総括
毒島大仏はスケベ男。
祢津航は女同士のキスに抵抗がない。
影山登は『見えないもの』の気配を感じ取れる。




