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08話

「…なんで着いてきてるんですか」


 次の日、図書館。本棚の整理中。

 ツバサくんは図書館にやってきた。

 朝起きたらツバサくんとまぁちゃんは二人ともぐっすりと寝ていたので、起こさないようにそっと二人の分も朝ごはんを作り、机の上に置いて出勤した。

 あのごはん、ちゃんと食べて来てくれたのかな。


 てっきり家にいるものだと思っていた私は、呆れた顔でツバサくんを見たが、当の本人はあまり気にしていない様子。

 まぁちゃんはツバサくんの腕の中で、人形のふりを大人しくしている。

 パッと見は、幼児がただ人形を持っているだけの構図なので、特に違和感はない。


 この子、大人しくすることもできたのか。

 まぁちゃんを見て、ふとそんなことを思った。


「なんでって、監視だ。勝手な行動をされたら困る」


「勝手な行動って、働いてるだけですけど」


 ため息を吐いて、棚の整理に集中する。

 見られながら作業をするのは、なんだか変な感じがする。

 幼い頃から、クラスでも目立つ方ではなかった私は、人から気にかけられたという記憶はほとんどない。


 私は、子どもの頃から良くも悪くも目立たない子どもだった。

 成績もそこそこ、自分から率先して発言することもなければ、誰かとぶつかることもない。

 クラスの隅で本を読んでいるような人間だった。

 自分でそれを選択して生きてきた。自分で望んできたのだ、普通であることを。

 普通であること、みんなと同じであることは、楽だ。とても楽で、とても居心地がいい。

 そんな生き方は、特に大きななにかが得られることはないけれど、でも、大きく嫌なことが起きることもまた、ない。

 全部平均点だと、存外誰かの目に留まることもない。だから私は、なにもないまま大人になった。


 なので、極端にできる子もそうだが、極端にできない子で、みんなに可愛がられている人も含め、みんなうらやましかった。

 目立つから、人の目に留まる。だから良いことも嫌なことも、たくさん起きる。

 でもそれは、その代償に大きくなにかを失ったりもするんだろう。


 そう、だから普通がいい。

 私は、普通。

 そのはずなのに。

 

 ――その私が、なぜこんなことに巻き込まれているのだろう。


「ねぇ、ツバサくん。昨日も思ったけど、なんで私なの?」


 私が選ばれる理由が、一晩明けて考えてもやっぱり分からない。

 ちょっと違うけど、魔法少女に選ばれる子って、一見普通に見えて、なにか特別に人を惹きつけるなにかを持っている子とか、そういう子達がやるものじゃない?

 そして、その『一見普通の子に見える子』って言うのが最大のポイント。

 結局、あの子達は、目覚めていなかっただけで、その才能に気づいていなかっただけで、最初から選ばれる運命にあった子達なのだと思う。

 現実は、本当になにもないまま、誰からも選ばれないまま終わる子なんて、山ほどいる。

 私もまた、その一人だ。


「リンゴが選ばれた人間では、不思議か?」


 私の考えを知ってか知らずか、ツバサくんはそんな疑問を投げてきた。

 なんでそんな分かりきったことを聞くのだろう。


「当たり前だよ、私にはなにもできない。してあげられない」


 作業の手は止めることなく、視線も本棚から動かすこともなく、私は返答する。

 そんな私の隣で、深いため息を吐く声が聞こえてきた。

 昨日も言ったが。という前置きをして、ツバサくんは話し始めた。


「リンゴを幸せにするのは、俺だ。リンゴになにかしてほしい訳ではないということを、まず最初に言っておく」


「しあ…わせに」


 昨日からツバサくんが言っている幸せとは、一体なんなのだろう。

 私は充分幸せだと思って今まで生きてきた。


「リンゴ、お前にとっての幸せってなんだ?」

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