06話
「ここじゃなんだし、詳しい話も聞きたいから、いったん話をしながらでいいので家へ来ませんか?」
そう言って二人を連れて来たのは、六畳一間の狭い部屋。アルバイトの私が、精一杯の家賃を払って住んでいる、私の城。
さすがに幼児と空飛ぶぬいぐるみと、いつまでも人目のある屋外で話している訳にはいかない。
明らかに捕まるのは、私。
そう思って連れて来たのだけれど。
「わぁー! ボロいですねっ!」
まぁちゃんは正直だった。でも、一応建物自体はオートロック付なんですけど。仮にも女子だし。
そういう問題でもないか。
「まぁちゃんは失礼だね…」
「いえっ! でも、好きです! かわいいいです!」
がっくり肩を落とした私とは対照的に、まぁちゃんは室内をくるくる浮遊しながら部屋中見て回っている。
思ったことをそのまま口にしただけで、特に悪意があるわけではないようだ。
歳に似合わず、可愛い小物を集めるのが趣味の私の部屋は、少し物が多いけれど、きちんと並べて整理している…つもり。
一個一個の小物は高くはないけれど、ちょっとずつお金を貯めて、少しずつ集めたお気に入りの小物達だ。
本も多いし、とにかく物の置場には苦労している。
「あ、ありがとう」
褒められて素直に喜ぶ私。
二人にお茶を出しながら、小さなテーブルに腰を下ろす。
「それで、どういうお話なのかな? この本って、なんなの?」
あらためてツバサくんに向き直り、詳しい話を聞こうと質問する。
私の意図が分かったツバサくんは、ひと呼吸おいて話し始めた。
「――この本は、魔法使いが作った魔法の絵本だ」
ツバサくんの話を要約すると。
この絵本には、魔法使いが込めた不思議な力が宿っていて、人の幸せを吸収してページが埋まっていく。
ツバサくんは本の番人で、人の幸せを集めて、本のページをすべて埋めるのが役目なのだとか。
すべてのページを埋めることができたら、ツバサくんは晴れて自由の身になれるらしい。
ちなみにまぁちゃんは、ツバサくんの監視役なのだと。
「それで、なんで私なの?」
素直な疑問を投げかけると、
「お前が一番不幸そうだったからじゃないか?」
と、即答された。
失礼だ、ひどい…。
「その本は、基本的に人間には見えないようにできている。この本が見えるということは、お前、よっぽどだぞ」
よっぽどなに、と聞こうと思ったけど、なんとなく予想ができたので聞くのをやめた。
悲しくなるだけな気がするし。
そんな私の心情など特に気にするでもない二人は、突拍子もないことを言い出す。
「ということで、しばらくこの家に住まわせてもらう」
「安心してくださいっ! まぁちゃんも一緒ですよー!」
「へっ?!」
監視は必要だからなと、さも当たり前のことを言っている風のツバサくんに、とりあえず何も考えていないまぁちゃん。
勝手に住むって。家主は私なんですけど。
さらに言えばこの部屋、狭いんですけど…
でもまぁ、幼児とぬいぐるみが寝る場所くらいは確保できる…のか?
お客さんなんて来ないから、布団は私が使っているものくらいしかない。
私は今日、どこで寝たらいいんだろ。
「もう、仕方ないなぁ」
苦笑しながらも私はクローゼットから、なにか布団代わりになりそうなものを探し始める。
表向き、困った顔をして了承したが、内心は気持ちが暖かくなるのを感じた。
昨日の、寂しい一人っきりの誕生日とは全然違う。
ほんの一日で、こんなに状況が変わることってある?
自分以外の人が一緒にいるってだけで、こんなに暖かい気持ちになるものだっけ?
なんとなく拒否出来ずにいるのは、なぜなんだろう。
普通だったら絶対に許可したりしないのに、不思議と嫌な気持ちがしなくてそのまま受け入れてしまった。
それから明日も早いからと二人に伝え自分の布団に寝かせて、私は冬用のこたつ布団を布団代わりにし、眠りについた。
真っ暗な部屋、絵本がポゥッと、光っていたことに、私が気づくことはなかった。