44話
「まぁちゃんは、リンゴたんなのです。だから、お別れです」
「まぁちゃんが、私?」
なにを言ってるの?
ふわふわ飛んでいたまぁちゃんは、私の前に降り立って、私の手を握る。
唐突な話すぎて、まったくついて行けない。
「リンゴたん、もしや、まぁちゃんが神様かなにかだと思ってましたです?」
首を傾げるまぁちゃんは、思いの外可愛くて、少し笑ってしまう。
でも、鋭い。
「え? 違うの?」
「ちがいますですよー! まぁちゃんが神様だったら、世界はもっと面白いことになってると思うのですー!」
た、たしかに。
もっとふわふわで、くるくるで、のんびりした世界が出来ていそうな。
でも、だったらまぁちゃんはなんなの?
「まぁちゃんは、リンゴたんが作ったのですよー!」
「は?」
突拍子もないことを言われて、面食らう。
やっぱり、まぁちゃんとの意思疎通は難しい。
私がまぁちゃんを作った?
「リンゴたんの、なりたい自分、うらやましい自分が、ぐ、ぐげ、ぐご・・・」
「具現化?」
「それなのです!ぐぎーんかしたものなのです!」
なるほど。私の憧れの姿がこれってことなんだ。
ん? ちょっと待って。
私はこんな風になりたいって思ってるってこと?!
「まぁちゃんは、リンゴたんです。いつでもリンゴたんの中に、まぁちゃんはいるのです!」
えっへん! と、まぁちゃんは胸を張って威張って見せた。
でも、それと同時になにか、心の中にすとんと落ちるものを感じた。
まぁちゃんは、いつも素直で可愛い。
見た目はまぁ、置いておいて。
それ以上に、中身がいつもキラキラしてるんだ。
いつもまっすぐで、私の背中を押してくれるんだ。
そう思ったら、自然と涙が溢れていた。
「泣かないでリンゴたん。リンゴたん泣いてると、まぁちゃんも泣いちゃいますですよ」
わーんわーんですっ、とまぁちゃんは泣き真似をしている。
けれど、全然悲しそうに見えない。
でも、嫌だよ。
嫌だよ、まぁちゃん。
そんな、消えちゃうみたいな言い方しないで。
そんな私の涙を、やわらかい手で拭いながら、まぁちゃんは話を続ける。
「ほんとーは、まぁちゃんのお仕事は、ツバサくんが元の姿に戻った時点で終わりだったのです」
「え、どういう…」
「リンゴたんと、ツバサくんと一緒にいるのが楽しくて、まぁちゃん少し、ズルしてしまったですよー」
あははははと笑いながら、まぁちゃんは私からゆっくり離れる。
そして、いつものようにくるくると辺りを飛び回り始めた。
「でももう、時間ですねー。帰らないとなのですよー」
「帰るって、どこに…」
聞き返す私に、飛び回っていたまぁちゃんは、私の胸の前でぴたりと止まった。
そして、私の胸に飛び込んでくる。反射的に抱きしめていた。
「ここですよ。まぁちゃんは、リンゴたんが忘れてしまった想いなのですから」
ぎゅーっと、私を抱きしめる力をまぁちゃんは強くする。
「あったかいですねー、リンゴたん。ふかふかで、やわらかで、大好きですー」
「ちょっ、変な言い方しない…」
ふざけていたかと思ったのだが、まぁちゃんは私を抱きしめる力を弱めることはない。
「リンゴたんは本当は、素直で可愛くてキラキラしてる、素敵な女の子なのですっ!」
まぁちゃんと同じですねー、とまぁちゃんは笑う。
そして珍しく、真面目な声で私に向き直った。
「大好きですよ、リンゴたん」
「私も大好きだよ、まぁちゃん」
「嬉しいですー! まぁちゃん、幸せですー!!」
そう言ってまぁちゃんは、再び私をぎゅーっと抱きしめる。
「リンゴたん、気づいていましたか? 初めのころは、好きって言うのもできない子だったのですよ?」
そうだったね、最初の頃は、誰かに好きって言うことも、まともに言えなかったんだ、私。
全部全部、まぁちゃんが教えてくれたんだよ。
「まぁちゃん、嬉しいですー! でもだから、まぁちゃんのお仕事は、終わりなのです。幸せになってください、リンゴたん」
「え…」
その言葉を最後に、すぅっと自分が抱きしめていたものの感触がなくなっていくのを感じた。
消えた感触を探すように、自分の手を見つめると、いつもすぐそこにあったまぁちゃんの姿はどこにもない。
「まぁちゃん? まぁちゃん?!」
辺りを見回して声を掛けるけど、どこにもいない。出て来てくれない。
急すぎる、急すぎるよ。
「やだよ、まぁちゃん! 嫌だよ!」
何度叫んでも、まぁちゃんは現れない。
いない、いないんだ。
突然すぎる。そんなに、急に。
涙が止まらなかった。




