43話
――隣でツバサくんが寝ている。
窓から差し込む光で目が覚める。
もう朝なんだ。
寝ているツバサくんを見るけど起きそうな気配はない。
少し肌寒くて暖を取ろうとツバサくんにすり寄ったところで気づいた。
あ、私達二人とも裸だ。
恥ずかしくて顔が赤くなる。
離れようとして、寝返りを打つために動こうとしたところで、ツバサくんに抱きしめられた。
「なにやってんの、リンゴ」
「ツバサく…」
「おはよ」
「おは…って、寝てる」
寝ぼけてる。
私を捕まえたところで満足したらしいツバサくんは、笑顔のまま、また寝てしまったようだ。
嬉しそう。
無防備な笑顔を見てると、こっちまで嬉しくなってくる。
今日は図書館も休みだ。私もこのまま一緒に寝てしまいたい。
遠慮がちに抱きしめ返すと、ツバサくんは無意識に幸せそうな顔をした。
私がいるだけで喜んでくれる人がいるなんて、それだけで奇跡だと思った。
こういう世界って、あるんだ。本当に。
ツバサくんが元の姿に戻ってから、ずっと夢見心地だ。
なにをやってても現実感がなくて。
ツバサくんの唇にこっそりキスをした後、ゆっくりとツバサくんを起こさないように布団から出て、朝ごはんの準備をする。
「リンゴたん、このあとちょーっとだけ、お話しよいですかぁ?」
台所で卵焼きを作っていると、まぁちゃんが後ろから話しかけてきた。
「いいけど…どうしたの? まぁちゃん」
「またあとでお話しするですよー!」
くるくるといつものように飛んで行ったまぁちゃんは、相変わらずつかみどころがない。
「…なんの話だろ」
少しだけ頭を捻ってみたけどなにも思い当たることがなくて、私はひとまず朝ごはんの準備に集中することにした。
その後、ツバサくんは朝ごはんを急いで食べた後、外せない仕事がある、と出かけてしまった。
ずっと、一緒にいたからなんだか変な感じ。でもまぁ、そりゃそうだよね。忙しいよね。
とりあえず洗い物でもするか、と腰を上げようとしたところで、まぁちゃんが話し掛けてきた。
「リンゴたん、お話しよいですかぁ?」
そう言えば、そんなことを言われていたんだった。
なにか欲しいものでもあるのかな。
「大丈夫だよ、なにかあったの?」
話し掛けられて、とりあえず座り直す。
するとまぁちゃんは、思いもよらない言葉を口にした。
「リンゴたん、お別れの時間ですよー」
「はい?」
なにを突然に。
思わず固まってしまう。
「絵本は完成しました。リンゴたんは幸せになりました。まぁちゃんのお役目は、もう終わりなのですよー」
声色はいつもの掴みどころのない口調だけれど、まぁちゃんはしっかりとした言い方で、終わりを告げる。
「ちょ、ちょっと待ってまぁちゃん。まぁちゃんは、消えないんじゃなかったの? だって…」
「消えないなんて、まぁちゃん言いましたかぁ?」
いや、言ってないんだけど。
だって、あの時。
絵本が完成したタイミングで、残ってくれたじゃない。
私は、まぁちゃんは神様かなにかなんだと思っていた。
だから、絵本が完成したタイミングで、幼いツバサくんと一緒に消えていなくなるんだと思っていた。
でも。
でもだからこそ、いなくならないと分かった時、本当に本当に嬉しかった。
これからも一緒にいられるんだって。家族なんだって。




