42話
――あれから数日。
「ツバサくん、お待たせっ」
いつもの公園、いつもの時間。
本を読んで待っているツバサくん。
「お帰り、リンゴ」
ツバサくんはいつも通り手を差し出して、私の手を取る。
「その大きさのツバサくんには、やっぱりまぁちゃん不自然だね」
すっごくカッコいい男の人が、すっごく間抜けなうさぎのぬいぐるみを抱えている。
苦笑する私に、ツバサくんはため息を吐く。
「こいつがついてくるって聞かないんだから、仕方ないだろ」
そう言いながらも、ちゃんと連れて来てあげるのが、ツバサくんの優しさなんだろうな、と思った。
「まぁちゃんは、リンゴたんの味方なので!うぐぅっ」
不用意にしゃべるまぁちゃんの顔は、やはりツバサくんによってつぶされる。
「貸して、私がまぁちゃん持つよ」
「よろしく」
いい歳した私がぬいぐるみ抱えてるのも、傍から見れば変なのかもしれないけれど、ツバサくんが持つよりは。
「はぁ~! リンゴたんはツバサくん違って、やわらかくて気持ちいいですねぇ」
「ちょっ、まぁちゃん!」
そう言いながら私の胸に顔を押し付けてくるまぁちゃんを見て、ツバサくんが睨みつける。
「おいお前、前から言おうと思ってたんだけどな」
「いいですねっ! 出るところに出よーじゃないですかっ! リンゴたんのお胸みたいにっ!」
「まぁまぁまぁまぁ」
というか、変なこと言わないでくれる? まぁちゃん。
無言のまま笑顔でまぁちゃんを握る手に力を込める。
「リ、リンゴたんはツワモノですぅ…」
「わかればいいんだよ?」
笑顔で言う私とまぁちゃんのやり取りを見て、ツバサくんは笑っている。
「というか、ツバサくんは、毎日迎えに来てくれなくてもいいんだよ? 私より忙しいのに」
そう言うと、ツバサくんは繋いでいる手に力を込めた。
「俺の楽しみを奪うな。それに、夜道は危ない」
「そ、そっか。ありがとう」
楽しみ、なんだ。なんか可愛い。
その後知ることになったのだけれど、ツバサくんは某世界的有名企業の社長さんで。
本当は海外を飛び回ったりしなくてはいけない立場の人だった。
身体が小さくなる前に、ある程度信用できる奴に業務は引き継いだから、そんなに忙しくはない。
そうツバサくんは言っていたけれど。
身体が小さかった頃から、よくよく考えたら私より先に寝たところは見たことがなくて。
今思えば、当時から夜中に仕事をしていたのだろうと気付いた。
昼間も私の監視と言いながら、図書館を離れることはよくあった。
その時から、遠隔で仕事をしていたのかもしれない。
それでも、一緒の時間を作ろうとしてくれることが嬉しくて、私はそれ以上なにも言わずに甘えていた。
一度、ツバサくんのお家にも遊びに行かせてもらったけれど。
とてもじゃないけどスケールが大きすぎて、落ち着かなくて。
一緒にこの家で暮らすかと聞かれたけれど、私は断った。
私の身の丈に、とてもじゃないけれど合っていない。
ツバサくんもそれ以上はなにも言わなかった。
図書館の仕事のことについて、なにか言われたことは一度もない。
私が好きで働いていることを、これまでの生活の中で理解してくれているからなのだと、私は思っている。
「本当に、ありがとう」
あらためてお礼を言うと、ツバサくんは笑顔で首を傾げた。
「どうした?」
「なにもないよ」
そう言って首を横に振ると、ツバサくんは幸せそうに微笑んだ。




