40話
「リンゴ…?」
目の前の男の人は、なにが起きたかわからない、という顔で自分の姿と私を交互に見比べる。
その人は、とてもカッコいい人で。
でも、私を見る優しい目を見て、一瞬でわかった。
「ツバサ…くん」
元に、元に戻ったんだ。
こんな顔、してたんだ。学生の時は、本当に、一度もちゃんと正面から顔を見ていなかった。
――いなかった。が。
ちょ、ちょっと待って。でも待って。
落ち着いて、落ち着いて私。
こんなにカッコいいなんて聞いてない。
そんなの知らない。
本物の、というか成長したツバサくんは、私が想像していたよりもはるかに綺麗な人で。
芸能人とか、雑誌とか、なにに載っててもそりゃおかしくないような風貌で。
「無理無理無理無理無理無理無理無理!!!」
「な、なにが…」
思わずそう口走っていた。
聞きたいことがあるのはきっと、ツバサくんの方なのに。
あからさまに首を横に振って動揺する私を見て、ツバサくんは心配そうに手を伸ばす。
「やっ…」
恥ずかしくて思わず目を瞑る私に、一瞬手を止めたツバサくんだったが、私がそれ以上は逃げないことを確認すると、そのまま力を込めて抱きしめてきた。
ツバサくんの匂いだ。
咄嗟に、そう思った。
大きいけどやっぱり、本物なんだ。
「好きだ、リンゴ」
私を抱きしめ、右肩に頭を乗せたままのツバサくんが、そう呟く。
抱きしめ返して、いいんだよね?
私はおそるおそる、ツバサくんの背中に自分の腕を回す。
予想以上に大きくて、驚いた。
「ツバサくん、おっきい」
思わず笑ってしまった。
「リンゴは、思ってたより小さい」
「…私のサイズは変わってないよ」
頬を膨らませて悪態を吐くと、ツバサくんが笑ったのがわかった。
私は一度ツバサくんから手を離し、顔を見て向き直る。
「ツバサくん、大好きだよ。お帰りなさい」
精一杯の笑顔で言ったけど、嬉しくて嬉しくて、言いながら涙がこぼれてしまった。
両腕を開いて、ツバサくんを迎える。
ツバサくんはそれに応えて、私をきつく抱きしめると耳元に囁いた。
「ただいま。本当にありがとう」
「ひゃっ」
耳元で響いた声が、予想以上に低く聞こえて、私は肩をビクッと竦ませる。
そうだ。
当たり前だけど、声も全然違う。
「リンゴだ…」
私の髪を撫でながら、ツバサくんはしみじみと言った。
手は大きくなっても、撫でる速度や優しさは小さかった頃と全然変わらない。




