38話
力を込めた手を、ツバサくんが握り返してくる。
その手が優しくて、私はツバサくんの顔を見た。
優しい、優しい目をしている。
「俺、お前の世界は守りたいよ」
いつの間に泣いていたのだろう。
私の頬を伝っていた涙を、優しくツバサくんが拭ってくれた。
「お前が笑ってる世界は、守りたいって思うよ」
「ツバサくん…」
「俺、ずっと後悔してたんだ。あの日、あの展望台にリンゴを置いて行ったこと」
涙が止まらない。
私はなんで、この人のことを忘れてしまっていたのだろう。
あの展望台で、なぜ一度も目を合わせなかったのだろう。
一度も、向き合おうとしなかったのだろう。
それなのに私は、ツバサくんを自分が追い詰めていたことを痛感する。
ずっと一人にさせててごめんなさい。
ずっと寂しい思いさせててごめんなさい。
自分のことばっかりでごめんなさい。
「ごめんなさい…」
「もう、時間がないみたいだ」
謝る私に笑顔でツバサくんはそう告げる。
時間がないって、どういう意味。
「笑って、リンゴ。大好きだ」
今までで一番の笑顔を見せるツバサくんは、最後のセリフみたいに言うから、私は不安になって首を横に振る。
「嫌だ、嫌だよツバサくん。いなくなっちゃ、嫌だ」
私が初めて声に出して発した、願いだった。
「ごめんなさい。私が一人にしたりしたから。私がずっと逃げ続けてきたから」
言葉が次々に溢れてくる。涙も言葉も止まらない。ずっと伝えたかったこと、もう言えないような気がした。
「絶対に逃げない。一緒がいい。一緒じゃなきゃ、嫌だ」
「リンゴ…」
「大…好きなの。ずっと一緒にいたいの。今のツバサくんじゃなきゃ、嫌なの」
そう言って私は、ツバサくんの唇に、自分の唇を重ねた。
言葉だけじゃ伝えきれない。想いが、伝えきれない。
ツバサくんは一瞬驚いた顔をしたけど、私を受け入れて、静かに私の頭に手を回す。
「ごめんな、ありがとう…な」
ゆっくりと唇を離した後、ツバサくんはそう言うと、私をきつく抱きしめて、目を閉じる。
次の瞬間――。
「あれぇ? お姉ちゃん、苦しいよ。離してよ」
その声に慌ててツバサくんから身体を離すと、そこにいたのは幼いツバサくんだった。
「嫌…嫌だっ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!!」
時間がないって、こういうことなの?!
ツバサくんがこうなることに、なんの意味があるの?!
「まぁちゃんっ! これはどういう意味なの?!」
さっきからずっと動かないまぁちゃんに、私は詰め寄った。
まぁちゃんはゆっくりと身体を起こすと、首を傾げていつもの調子で話し始める。
「ツバサくんは、リセットされたのです。やり直すのです。つぎはいい子になるように」
まぁちゃんはそういうと、いつものように部屋をくるくると飛び回り始めた。
リセットされた?
やり直す?
じゃないと、世界を滅ぼすかもしれないから?
たった、それだけの理由で?
そんなの――




