37話
「――正確には、つもりだっただけ、というのがあいつの見解らしいが」
「あいつって?」
その質問に、ツバサくんは眉間の皺をさらに深くする。
なんとなくだけど、あんまり話したくなさそうに見える。
「これ言うと、バカっぽいから嫌なんだよなぁ」
バカっぽい?
そんな人がいるの?
深いため息を吐いた後、ツバサくんは真面目な顔をして言った。
「自分は神だと、あいつは言った」
「神…様…。なるほど」
「えっ!? 納得するのかよ」
合点がいった、という顔で頷く私を見て、驚いたのはツバサくんの方だった。
「リンゴは本当、どこまで行ってもリンゴだよなぁ」
自分の頭を掻きながら、ツバサくんは苦笑する。
「でも、そんな人でもいないと、ツバサくんが小さくなることの説明がつかないよ」
そっちの方が、私から見たら謎だった。
だとすると、どういうこと?
神様がいたとして、ツバサくんが世界を滅ぼして、絵本があって、ツバサくんが小さくなって。
首を傾げて考え込む私を見て、ツバサくんがポンポン、と頭を叩く。
「確かに、非現実的な話ではある」
顎に手を当て、考えるような仕草をした後、ツバサくんは淡々と怖い言葉を口にした。
「俺は、今後このままだと、世界的な戦争の渦の、中心人物になっていく存在だったらしい」
いまでも自覚はないけどな、とツバサくんは笑った。
ただ神様が現れたちょうどその頃、政治関連、軍事関連からの人物との繋がりが増えて行っていたのもまた、事実だったのだという。
ちょっと待って、なにを言っているの。戦争?
そんなにスケールの大きい話なの? まったく頭がついていかない。
「でも、俺がなににも興味を持てなかったのもまた、事実だ。会社を興しても、大金が手に入っても、自分の中のなにか大事な部分。中心が埋まらないままだった」
「ツバサく…」
「世界を壊してやろうなんて、思ってはいなかったけど、壊れてしまっても別にいいと思うくらいに、適当に生きていたのもまた、事実だ」
無表情な顔で話をするツバサくんは、私の知らない人みたいだった。
心配そうな顔で私が顔を見ると、ツバサくんは私を安心させるかのように手を握ってくれる。
「俺は、今回のことは良かったと思ってるんだ」
「なにが…」
「リンゴ、俺楽しかったよ。ずっと一人でやって来たんだ。なにがいいことで、なにが悪いことなのかなんて、考えたこともなかった」
なんでそんな、お別れみたいな言い方するの。
なんでそんな、諦めてしまったような顔をするの。
「神様って奴にさ、色々言われても、ピンと来なかったんだ」
ツバサくんになんて声を掛けていいかわからなくて、私はツバサくんの手をぎゅっと握ったまま、息を飲む。
「だってそうだろ? 自分自身のことも、自分のやりたいこともわからないのに、なんで世界のことなんて考えなきゃいけないんだ」
ツバサくんは乾いた笑いを浮かべながら、投げやりにそう言った。
「これから俺が世界的戦争を起こす? なんだよそれ、だからなんだよ」
「それ…はっ!!」
ツバサくんを握る私の手に、どんどん力が入る。そんなこと言わないで、そんな悲しいこと考えないで。
乾いた笑いは、投げやりな言い方は、世界に対しての発言じゃない。
ツバサくんは、ツバサくんにとっては、自分自身が一番どうでもいい存在なんだ。
それが悲しくて、ただただ、悲しくて。
「――でもさ、俺」




