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36話

 家に帰ったツバサくんが、私に渡してきたものは、あの絵本だった。


「ほとんど、完成してる…」


 表紙は、絵本の真ん中だけ丸い形に白くなっていて、それ以外は綺麗な緑色の木の絵が描かれている。


 中を開くと、それは絵本になっていた。

 文字はいったん読まずに、パラパラと捲ると、かなり後半の方まで話は進んでいた。

 残っているページは、残り数枚。


「これは、リンゴを幸せにする為の本じゃない」


 ツバサくんの言葉に、私は顔を上げる。


「魔法使いが作った魔法の絵本なんて、嘘だ」


「どういう…」


「これは、俺に与えられた、最後のチャンスだったんだ」


 最初のあの話は、なんだったの?

 なにがどうなって、私達は出会ったの?


「俺は、世界を滅ぼす力を持った人間に成長したんだと、あいつは言った」


 絵本を手に持ったまま固まる私に、ツバサくんは話を聞かせてくれた。

 あの日、展望台で別れた後の話。

 その後、ツバサくんが一度も展望台に来なくなった理由を。





「――林檎には、僕の気持ちは分からないよ」


 あの日。

 そう言ってツバサくんは、私を展望台に残して行った後、本屋には寄らず、家に帰り自室にこもっていたのだという。


「結局、一度も目すら合わなかったな」


 私と目が合うことがないことは、ツバサくん自身、気づいていたらしい。

 ため息を吐いて、横になる。



 つまらない

 つまらない

 つまらない


 面白いものを見つけたと思った

 僕の思い通りにならない女の子

 話すのが苦手で、いつも下を向いているのに

 自分が好きなことになると急に楽しそうに笑う


 なにをやっても、人より出来てしまう

 なにを見ても、すぐに先が見えてしまう


 そんな自分にとって、彼女は不思議だった

 目が合わないから、知りたいと思った

 あの子はなにを考えているのだろう


 初めて他人に興味が持てた

 初めて誰かを可愛いと思った

 初めて好きだと思ったんだ


 ――でも、彼女も他の奴らと同じだった


「なにも、出来ないから、私。あなたみたいに、頭も良くない」


 そう言われて、ガッカリした

 結局お前も、そういう目でしか見てなかったのか

 目が合わなくても、結局同じ

 みんな俺をそういう目でしか見てないんだ


 だったら期待に応えてやるよ


 たとえば、この世界を壊してしまったら

 少しは面白くなるのだろうか

 壊して、まっさらにして、再構築する


 そうすれば。



 そこまで考えて、ツバサくんは乾いた笑みを浮かべた。

 それから、その為だけに、勉強を始めた。

 もちろん表向きはまともな人間のフリをして。


 学校にも真面目に行くようになった。

 学校の先生に頼み込んで、大学の研究所を紹介してもらったりもしたらしい。

 知識はどんどん増えて行って、色々なことが見えてきた。


 自分を利用しようとする人。

 自分に媚びを売って来る人。

 自分を格上に見て尊敬してくる人。

 妬む人、羨む人、嫌う人、好意を持つ人。


 でも、どんな人にも興味が示せなかったのだと、ツバサくんは言った。

 やっぱり私以上に、興味を持てる人も、物も見つからなかったらしい。


 そのまま、学生の内に会社を興して、経営を始めたけど、満たされる日はいつまで経っても来なかったらしい。

 さすがにその頃には、世界を壊してやろうなんて、中学生的な考えはなくなってはいたらしけれど。

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