33話
「おねーちゃん、起きて! はやく、起きて!」
ツバサくんの声がする。
ぼんやりとした頭で目を開くと、やはり私を揺すっていた人物の正体は、ツバサくんだった。
「お、おはよ…」
寝ぼけた頭で返事をする。
「おなかすいた! ごはん、作って!」
「うん、ごめんね。今からつく…」
ん?
なにこれ、なにかがいつもと違う。
ゆっくりと体を起こし、ツバサくんを見る。
ツバサくんは頬をぷーっと膨らませて、怒りながら、私を上目づかいで見ている。
めちゃくちゃ可愛いんですけど。あ、いや、そうじゃなくて。
「え? ツバサくん?」
ちょちょちょちょ、ちょっと待って。ツバサくん、キャラが変わりすぎ。
さすがについていけない。
「はやく! はやく作ってよ、おねーちゃんっ!」
「ツバサくん、大丈夫?」
私は思わず、ツバサくんの顔を覗き込んだ。
「だいじょーぶじゃないよっ! おなかすいたよ!」
あ、いや、そういうことじゃなくてね。
頭を抱え込む私。
どういうこと?
えーっと。
「あ、そうだ。まぁちゃん! まぁちゃん!」
ツバサくんの布団で横になったまま動かないまぁちゃん。
寝てるっぽい。
何度も揺り起こすと、ようやくまぁちゃんは目を覚ましたようだ。目を開けてるからわかりづらいけれど。
「どしたですか、リンゴたん。まぁちゃんは、おねむですよー」
まだ夢見心地なまぁちゃんを抱えて、ツバサくんの前へ連れ出す。
「ツバサくんが、変なの!!」
「ツバサくんはいつも変ですよー」
まぁちゃんの相変わらずのツッコミに、段々頭が冷静になって行く。
「どうした? リンゴ」
「あ、あれ…?」
まぁちゃんを連れてツバサくんの方を振り返ると、ツバサくんはいつもの通り返事をした。
「あれ、さっき、ツバサくん…」
「俺が?」
首を傾げるツバサくんに、先ほど駄々をこねていた面影はまったくない。
どういうこと?
「ツバサくんが変らしいのですー」
目をこすりながら私の腕の中で眠そうにまぁちゃんが答える。
「失礼だな」
「ツバサくんが変なのは、元からですよねー…うぐぅっ」
いつものように、ツバサくんはまぁちゃんの顔を握りつぶす。
私は、目を丸くしたまま、固まっていた。
「それよりリンゴ、もう具合は大丈夫なのか?」
「う、うん」
寝ぼけてたの? 私。
さっき起きたことは、気のせい?
「と、とりあえず、ごはん。そう、ごはん作ります」
思わず変なしゃべり方になったまま、気持ちを落ち着かせようと私は立ち上がって台所へと向かう。
でも、夢には見えなかったんだけどな。
おかしい、気がしたんだけどな。
何度も何度も首を傾げながら料理をしている私の後姿を見て、ツバサくんはまぁちゃんにこっそり声を掛けた。
「もう、時間がない――」




