32話
「ったく。どう戦うつもりなんだよ」
ため息を吐いたツバサくんは、私の髪を再び撫で始める。
「俺はいつも、リンゴの気持ちがわからないままだな」
「わからないなら、聞けばよいのではないですかぁ? なぜ聞かないです?」
その一言に、まぁちゃんはきょとんとしていたようだった。
「リンゴたんは、なぜなにも言わないです? 言わないでわかると思ってるですか? まぁちゃんはわからないですよっ! 頭悪いですからねっ!!」
また威張ってる。直感的にそう感じた。
私が目を覚ましたこと、気づいてる?
まぁちゃんには、どちらでもいいことか。
「二人とも、バカなんですかぁ? まぁちゃんはバカではないです。わからないことは、聞けばいいです。伝わらないことは、話せばいいです」
「「…」」
二人とも、なにも答えられなかった。
「でも、話さないのは、ツバサくんが悪いからかもしれませんねぇ」
ニヤニヤ、という効果音がこちらまで聞こえてくるようだった。
本当に、わかってるのかわかってないのか、まぁちゃん自体がよくわからない。
「――俺はまた、リンゴのこと考えずに自分の気持ちを押し付けたってことか」
私の髪を撫でていたツバサくんの手がぴたりと止まる。
ツバサくんは、自分が悪いと言われても否定することはなかった。
違う、と言いたかったけれど、目が開かなかった。
声が出せなかった。
その次の言葉が見つからなくて。言い淀んでしまった。
ツバサくんは目線を合わせると言ってくれた。
それは、物理的なことだけじゃないと思った。
私に寄り添う、と言ってくれたのだと思う。
でも、違うんだよ、ツバサくん。
ツバサくんは昔から、私のこと考えてくれてたんだよ。
しゃべるの苦手な私に、いつも話を振ってくれていた。
私がなにを考えているのか、なにが好きなのか知ろうとしてくれていた。
そこから逃げていたのは、向き合おうとしなかったのは、私だ。
それが上手く、伝えられない。どこからどう話していいのか分からない。
ちゃんと、話せる日が来るだろうか。もう少し、もう少しだけ、まとめる時間が欲しい。
この生活が私にとって、どれだけ大切で、どれだけ手放し難いものになっているのか、伝えなくちゃ。
そう考えていたら、意識が遠くなる。
薬が効いてきたのだろうか。もう二人の話を聞いているのも難しい。
また明日、また明日話せたなら――。




