31話
それからどうやって家に帰ったのか覚えていない。
それでもツバサくんは、文句を言うこともなく私のことを家まで連れて帰ってくれた。
行く時はあんなに短く感じた電車もバスも、帰りは気の遠くなるほど長い道程だった。
お互いに一言もしゃべらないまま、家に着いた。
その日はそのまま、自分の布団に潜り込み朝まで過ごした。
でもいつまで経っても眠れなくて。
そのまま朝が来て、私は図書館へと出勤する。
――それから数日。
いつものように、ツバサくんもまぁちゃんも傍にいてくれるけれど、普通に話し掛けてくれるけれど、私は上手くしゃべれなくなっていた。
無視をしている訳ではない。ちゃんと会話はしている。
けれど、しゃべっているようで、しゃべっていない。そんな感じ。
いつも手を繋いで歩いた帰り道も、今は人ひとり分、距離が空いている。
それでも私がツバサくんとまぁちゃんを追い出すことが出来ないのは、自分が可愛いからだ。
もう一人に戻りたくないからだ。
私は、ずるい。
私の気持ちを知ってか知らずか、ツバサくんも自分から出て行こうとはしない。
ツバサくんは優しい人だ。そして頭もいい。
おそらく、私の考えなど分かった上で、きっと傍にいようとしてくれているのだろう。
それなのに。
そんなに優しい人なのに、私はそんなツバサくんのなにも、覚えていなかったというの?
そう思ったら恥ずかしくて、情けなくて、私はなにも話せなくなっていた。
「――ンゴ? リンゴ?」
ハッとして我に返ると、ツバサくんが顔を覗き込んでいる。
いつの間に家にいたんだろう。それすら覚えてなかった。
「ごめん、ボーっと…してた」
至近距離にいるツバサくんに驚いて思わず目をそらした。
「そんなことはどうでもいい。リンゴ、顔色悪い」
ツバサくんは私の額に手を当てる。ひんやりしてて気持ちいい。
「やっぱり、熱がある」
「大丈夫、これ、くらい。すぐ、治る、よ――」
「リンゴ!!」
ご飯の準備をしようと立ち上がった、つもりだった。
けれど、一瞬世界がぐらっと歪んで、私はそのまま意識を手放した。
「――これは、俺のせい、なんだよな」
あぁ、またツバサくんが私の頭を撫でてくれている。
いつからか、ツバサくんが私の髪を撫でるのは、本を読むことくらい習慣的なものなのだと気付いた。
それがツバサくんなりの愛情表現なのだということに気づいた。
本人の気持ちと同じで、優しい優しい、ツバサくんの手。
私は、それに答える資格があるのだろうか。
先ほど倒れた後、なんとか自力で布団まで移動し、ツバサくんが用意してくれた薬を飲んで、一度眠ったところだった。
どれくらい寝たんだろう。
最近ゆっくり眠れていなくて、ない頭絞っていっぱい考えすぎていた。たぶん知恵熱だろう。
「ツバサくんのせいなのですかぁ?!」
素っ頓狂な声で、まぁちゃんが声を上げる。
この二人の会話も、久しぶりに聞いた気がする。
基本的にまぁちゃんは、自発的に話し出すことはないことにツバサくんとの会話が減って気づいた。
空気読んでるのかな、まぁちゃんなりに。
「もしツバサくんのせいなのだとしたら、減点です! まぁちゃんはツバサくんと戦わざるをえませんな…」
まぁちゃんなりの、神妙な声色が聞こえる。かなり間抜けだけれど。
理由も聞かず、無条件で私の味方をしようとしているまぁちゃんに、私は複雑な気持ちになった。
でもごめんねまぁちゃん、ツバサくんは悪くない。私のせいなんだ。




